Interview
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舞台裏のプロから、起業家の日常を支える伴走者へ。高田馬場で育む“Warm heart”な支援
長年、ホールの施設運営や技術スタッフとしてハレの場を支えてきた岩﨑 太郎氏。現在はワイムシェアリング株式会社を運営母体とするワイムビジネスプラザ高田馬場の運営責任者として、日々現場で入居者との対話を重ねています。INCU Tokyoへ参画し、新たな支援を模索し始めた今の想いと実直な姿勢を語ります。
プロフィール
大学で舞台製作を専攻し、1995年に現・ワイムシェアリング株式会社へ入社。新宿明治安田生命ホールで20年以上にわたり施設運営、技術スタッフを務める。2014年からは貸会議室事業の運営に携わり、ホールの閉鎖を機に移籍。2024年より、貸会議室やシェアオフィスを統括するワークスペース事業部長を務める。
挑戦を支える盤石なオフィス環境。Open Shareが生む、高田馬場の新たな安定拠点
施設の概要について教えてください。
ワイムビジネスプラザ高田馬場は、3フロアにわたり約60の入居者が利用しています。個人の方から法人まで、多様なニーズに応える個室を備えているのが特徴です。 最大の強みは、ハード面の安定感です。私たちの運営母体は1953年の創業以来、長年ビル管理やリロケーション事業に携わってきました。その歴史で培った信頼とノウハウを、スタートアップの方々にも使いやすい形で提供する──いわば「Open Share(機会と場所の共有)」の精神が、この施設の根底にあります。ビルの制約や設備の古さに悩まされることなく、事業に集中できる環境を整えています。
なぜ高田馬場という立地を選ばれたのでしょうか?
一番の理由は、私たちが理想とする「安心できる運営」を最もスムーズに具現化できる場所だったからです。施設運営には予期せぬ制約がつきものですが、ここは懸念材料が少なく、入居者の皆さまに安定したサービスを提供し続けるための土台づくりに最適でした。まずはこの場所から、支援の可能性を広げていきたいと考えています。
ソフト面でのサポートには、どのような特徴があるのでしょうか?
INCU Tokyoに参画して間もないため、実績づくりはこれからですが、先日、拠点間連携のトライアルとして税務相談会を実施しました。施設を利用されている税理士の方と協力し、確定申告の時期に合わせて入居者向けの相談窓口を開設したのです。これは、困っている入居者の助けになるだけでなく、税理士の方にとっても新たな顧客獲得の機会となります。施設内の多様なプロフェッショナル同士がスキルやチャンスをシェアし、互いにメリットを享受できる循環をつくっていきたいですね。
現在の岩﨑さんの役割について教えてください。
ワークスペース事業部の事業部長として運営全般を統括していますが、デスクに座っているだけではなく、毎日必ず現場に足を運びます。備品の補充状況を確認するのはもちろんですが、一番の目的は入居者の方々と挨拶を交わし、現場の空気を肌で感じること。管理職である前に、一人の運営スタッフとして現場を大切にしています。
「ハレの日」から「日常」の支援へ。劇場の舞台裏を守り続けた20年が育んだホスピタリティ
これまでのキャリアについて教えてください。
大学卒業後、入社してすぐ新宿にあったホールの技術スタッフとして、約20年間勤務していました。その後、ホールの閉鎖に伴って本社に戻り、貸会議室や施設運営に携わるようになりました。現在は事業部長として2年目を迎えています。最初の1年は前任の仕組みを維持することで精一杯でしたが、ようやく自分らしい支援の形を模索できる段階に入りました。
ホール運営と現在の施設運営、共通点はありますか?
ホールの運営と施設の運営は、実はそれほど遠いものではありません。場所を貸すという点では延長線上にあります。ただ、インキュベーション施設となると、使う神経がまったく違うと感じました。
ホールや会議室は、通常1日だけ借りるものです。利用者の皆さまは、その1日に向けて準備し、当日に爆発的なエネルギーを持って来られます。いわば「ハレの日」です。 一方で、インキュベーション施設は毎日利用する場所です。そこにあるのは「日常」です。毎日通う中で、悩むこともあれば、うまくいかないこともある。常に晴れやかな気持ちでいるわけではありません。そうした日々の浮き沈みも含めた長い時間に寄り添うには、単なる施設貸しではない、一歩踏み込んだホスピタリティが必要だと痛感しました。
なぜ、インキュベーションマネージャーとしての役割を引き受けようと思われたのですか?
シェアオフィスは出入りが激しい場所です。事業が成功して広いオフィスへ移転される方もいれば、残念ながら事業を畳んで退去される方もいらっしゃいます。退去の際に「お世話になりました」と言われるたび、「もっと自分は何かできたことがあったんじゃないか」「しっかりサポートできていれば、違う結果になったのではないか」と自問自答してきました。場所を貸して終わりにはしたくない。その悔しさが、支援に力を入れたいと思った原動力です。
INCU Tokyoに参加された理由も教えてください。
東京都の支援するコミュニティに参加することで、私たちが持っていないノウハウや知識を教えていただけるのではないかと考えました。 私たちは、起業家の方々が直面する具体的な課題に対しては、まだ知識が不足している部分があります。コミュニティを通じて学びを得ることで、入居者への還元につなげていきたいです。
心理的障壁ゼロの距離感。対話とシェアで紡ぐ、孤立させないコミュニティ
支援する上で心がけていることはありますか?
私は自ら導くタイプではなく、まずは相手の言葉を受け止める聞き役でありたいと思っています。 悩んでいることがあれば時間を取ってじっくりお話を聞く。もちろん解決策を即座に提示できるとは限りませんが、まずは受け止めることを大切にしています。
施設に対する不満や、事業の小さな悩みなどを、一人で抱え込んでほしくない。「何かあったらこの人に言えばいい」と思ってもらえるよう、現場ではニコニコ笑いながら近づいていくようにしています。心理的な壁をできるだけ低くしておき、気軽に声をかけてもらえる雰囲気づくりを心がけています。
現在、課題に感じていることは何でしょうか?
起業家の皆さまが直面する核心的な課題に対し、私自身の知識がまだ追いついていないことです。具体的な相談があれば動けますが、日々の雑談の中からお困り事の兆候を察知し、「それなら、こんな支援がありますよ」と先回りして提案できるようになりたい。知識の引き出しを増やし、会話のきっかけを自らつくれるようになることが、現在の大きな課題です。
入居者と接していて、やりがいを感じるのはどんな時ですか?
やはり、皆さまの楽しそうな顔を見た時ですね。現場を回っていて、入居者さまがいきいきと働いている姿を見ると「ああ、よかったな」と思います。 部屋を増やす相談を受けた時などは、「事業が順調なのだな」とうれしくなりますし、逆に人が減るという話を聞けば心配になります。毎日現場を見ているからこそ、そうした変化には敏感でありたいと思っています。
「個」の挑戦を、ワイムの「和」で支える。10年後に誇れるスタートアップの聖地へ
どのような起業家やスタートアップ企業に入ってきてほしいですか?
マナー良く使っていただける方というのは大前提ですが、やはり「大きくなってここを出ていくぞ」という気概を持った方に来ていただきたいですね。 スタートアップ企業がシェアオフィスを利用される期間は、私の感覚では2年程度が目安だと感じています。その間に事業を成長させ、手狭になって出ていかれるのが理想です。10年後に「あの会社、昔はうちの施設でスタートしたんだよ」と自慢できるような、そんな企業が育つ場所になればうれしいですね。
今後、どのような取り組みをしていきたいですか?
入居時にどのようなお仕事をされているかはお聞きするのですが、その後、実際に事業がうまくいくために私たちが何を提供できるか。そこをもっと突き詰めていきたいです。
また、もし予算や制限がなければ、施設内に大きな集会室や大広間のような場所をつくりたいですね。そこで税務相談会のような勉強会を開いたり、入居者さま同士が気軽に集まって懇談会をしたりできる機会を儲けたいです。今の施設は個室が中心で、交流用のロビーなどはそれほど広くありません。コミュニケーションが生まれる「場」をつくることで、横のつながりを生み出し、お互いに刺激し合える環境をつくっていきたいと考えています。
最後に、INCU Tokyoのコミュニティを活用して実現したいことを教えてください。
参画してまだ日が浅いので、まずはコミュニティで企画されるさまざまなプログラムに参加し、知識やノウハウを吸収していきたいと考えています。 その上で、私たちがめざすのは、入居者さまにとって心理的な壁がない場所になることです。
何かあったらこの人に相談すればいいと思ってもらえるような気安さをつくり、不満や悩みを抱え込まずに吐き出せる環境を整えていきたい。社名であるワイム(WAIM)には「Warm heart(温かい心)」と「Mutual trust(相互の信頼)」という意味が込められています。システム的な支援だけでなく、こうした人間味のある温かい信頼関係で起業家の皆さまを支えるために、できることから一つずつ取り組んでいきたいです。
記載内容は2026年2月時点のものです。