Interview
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「半仕上げ」だから生まれるアイデアや共創。入居企業の一番の「応援者」として伴走する
恵比寿・代官山エリアに位置し、スタートアップやベンチャーが多く集うシェアードワークプレイス・co-ba ebisu。施設運営を統括するのは、「私たちがめざすのは、入居者の一番近くにいて、最初に拍手を送る『応援者』であること」と語る奥澤 菜採氏。入居者同士のつながりや、自由な発想が生まれる場づくりの秘訣に迫ります。
プロフィール
多摩美術大学卒業。マンション総合管理会社にて、入居者コミュニティの運営、賃貸営業、コンセプト型賃貸の企画開発に携わる。株式会社ツクルバに転職し、不動産企画と自社事業「co-ba」の運営を兼務。同部門が Ba & Co Inc.として独立後は、co-baカンパニー社長として多様な場の運営事業を手がける。
恵比寿・代官山エリアにある「働き方解放区」。住・職が融合した1,600㎡のステージ
co-ba ebisuの概要を教えてください。
co-ba ebisuはJR恵比寿駅から徒歩8分、東急東横線の代官山駅からは徒歩3分という好立地にあります。周辺は渋谷の繁華街というより、代官山や中目黒のような落ち着いた雰囲気のエリアで、「渋谷区のアドレスや拠点が欲しい」というスタートアップや、「社員の働く環境をより良くしたい」という経営者にも支持されています。
建物は、日本郵便さまが展開する賃貸マンションの1階と2階で、合計1,600㎡あります。「『働くこと』と『暮らすこと』が融合した施設」であり、フロア全体をひとつの街としてイメージしたワーキングフロアや、フリー席や個室、会議室、イベントスペースなど多様なワークスペースを用意しています。30㎡台〜70㎡台の完全個室も20部屋ほどあり、「泊まれるオフィス」として利用する方やチームが多いですね。
サポート面の特徴としては、VCによる投資のような直接的な支援はありませんが、入居者にとって良い環境を提供し、入居者同士が関わって自分たちで関係性を構築していける場づくりをめざしています。私たちが一方的に支援するのではなく、co-ba ebisuを利用することで偶発的な出会いが生まれ、つながりができた人たちと頼り・頼られながら成長していく──そんな場所でありたいと考えています。
コンセプトである「働き方解放区」という言葉には、どんな思いが込められていますか?
co-ba ebisuがオープンしたのは2019年の年末ですが、その前後から「働き方改革」が声高に叫ばれるようになりました。でも、一生懸命働いている人たちの中には、押しつけがましく感じた方も多いのでは、と思ったのです。
また、私たちの施設を利用しているのは、起業したてで1人で頑張っている方だけでなく、事業が大きくなり、より多くの人を巻き込んでいくフェーズの方もいます。その場合、裁量のある起業家タイプの人だけでなく、それを支える人たちにとっても居心地が良く、より柔軟に働ける環境を提供したいと考えました。ひとつの方向に変えていく「改革」ではなく、いろんな選択肢から自由に選べる「解放」という言葉がぴったりだと思い、「働き方解放区」というコンセプトにしたのです。
奥澤さんの役割を教えてください。
私が代表を務めるBa & Co Inc.では、シェアードワークプレイス「co-ba」シリーズを恵比寿以外にも都内や、各地の個性的なオーナーさんと共に全国に展開しています。直営店の運営のほか、それ以外の施設の運営委託も担っていて、私は企画を含めた運営全般を統括しています。co-ba ebisuの実際の運営や現場業務は、リーダーやコミュニティマネージャーたちに任せていますが、私は影響やリスクが大きいことを決める時の最終判断や長期的な運営企画、新規拠点の企画・開発などを担当しています。
ただ、私たちのオフィスもco-ba ebisuの中にあるので、入居者の方たちとは日頃から接点があります。皆さんと同じように施設内で仕事をして、合間に情報交換から他愛のないことまでお話しする機会も多いですね。
多くの人が生き生きと働ける場所をつくりたい──施設運営や場づくりを志した原体験
奥澤さんのこれまでのキャリアについて教えてください。
私は美術大学の絵画学科を卒業したのですが、画家や作家をめざすよりは「表現や創造することの本質を社会に還元したい」という思いがあり、一般企業に就職する道を選びました。父が不動産関係の仕事をしていたので同業界に興味を持ち、「人と関わりながら『場づくり』をしたい」という考えから、デベロッパーではなくマンション総合管理会社に入社しました。
入居者のコミュニティ運営に価値を置く会社で、管理企画や賃貸営業、新しいコンセプトの賃貸マンション企画などに携わり、約10年勤務。その後、子育てが落ち着いたタイミングで株式会社ツクルバに入社し、不動産企画デザインと自社事業「co-ba」の運営を兼務することに。2023年には同部門が新会社Ba & Co Inc.として独立し、2025年に同社がカンパニー制を採用することになり、私が「co-baカンパニー」の社長に就任しました。
場づくりや不動産企画の楽しさと、co-ba事業を担うことになった時の心境を教えてください。
不動産は「動かない資産」という文字通り、立地や構造などに制約があります。場所やハード面は変えられない中で、「新しい時代のニーズに沿った不動産にする」「人々が『こういう環境にいたい』『ここが自分の居場所だ』と思える場所にする」にはどうすればいいか──それを考え抜き、答えを出すことが場づくりや企画の醍醐味だと思います。
ツクルバの入社面接で初めてco-ba shibuya(co-baシリーズの1号店)を訪れた時、入居者の皆さんが自由に楽しそうに仕事をしている光景がとても印象的でした。これが「こんな風に生き生きと働ける場をたくさんつくりたい」と感じた原体験になり、自社事業として長いスパンで取り組むことや、各地にco-baを展開することでそれが叶うのではと考えました。
INCU Tokyoに参画したきっかけを教えてください。
私たちは2年ほど前から、INCU Tokyo認定施設に対して、インキュベーションマネージャー(IM)を育成する研修の一部に講師として参画していました。そうした関わりの中で、co-baの入居者さまに対して、自分たちだけでは支援しきれない部分もあると感じたのです。より幅広く起業家支援を学ぶためにも、講師として関わるだけでなく、認定施設として参画することを決めました。
「支援」ではなく「応援」を。一番近くで最初に拍手を送る存在でありたい
これまでの支援で印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
日本酒を企画・開発している株式会社clearさまは、co-ba shibuyaができた初期から入居いただき、一緒に成長してきました。もともとは、日本酒専門のメディアを代表が1人で立ち上げたところから始まり、今では世界規模の事業を展開していますが、その後も新しい店舗や本社オフィスの物件探しや設計デザインなどを、並走させていただいています。
また、clearさまがテレビ取材を受けることになった時、「起業当時の思い出の深いco-ba shibuyaで撮影したい」とおっしゃってくれて。co-baで得られた人間関係や、熱量を絶やさず切磋琢磨できる環境が、事業の成長に貢献できたのだなと、とても嬉しくなりました。同時に、私も10年越しにスタートラインに立ち返ったような思いで、今後も「あの時co-baが応援してくれたから今がある」と感じてくれる企業や人を増やせればと思いました。
支援する上で心がけていることはありますか?
私たちが入居者の方に提供するのは、「支援」ではなく「応援」だと考えています。お金を投資したり、知識を与えたりする直接的な「支援」ではなく、一番近くにいて、何かうまくいったら最初に拍手をしてくれる人──「応援する」というフラットな関係をつくることをとても大事にしています。
10年超の運営を通して数多くの企業やチームと関わってきましたが、一般的な創業支援プログラムを提供したわけではなく、困った時にいつでも話せるような環境や関係性を築いてきました。ユーザーから有益なフィードバックを得られるようにイベントを一緒に企画したり、「○○をやりたい」と相談された時に一緒に悩みながらサポートしたり。創業期のスタートアップには、こうした日常的な「応援」の積み重ねが大事だと考えています。
施設運営のおもしろさを感じるのはどんな時ですか?
co-ba ebisuは、施設のハード面もコンテンツなどのソフト面も「半仕上げ」をモットーにしています。私たちがつくり込んで用途を限定するのではなく、実際の利用者の発想次第でいかようにも使えるようにしているのです。入居者の方たちはそこを楽しんでくれて、「自分ならこうする」と、思ってもみなかった反応が生まれる瞬間がとてもおもしろいです。
たとえば、1階の個室の廊下に面した窓の一部は、跳ね上げ式で開くようになっています。窓を開けると自社の社員以外とテーブルを囲んで話せる、という使い方を想定したものになりますが、人によっては自社の商品を販売するお店だったり、自社サービスの窓口のような使い方をしていたりします。
また、施設内にあるバーカウンターでは、入居者がホストになり、10人程の規模のイベントを無料で開催できる「解放BAR」という枠組みがあります。そこでも、新商品のモニタリングをしたり、ユニークなテーマでミートアップを開催したり、入居者の方たちが自由な発想で活用しているのも興味深いですね。
co-ba ebisuで生まれる出会いや協業を「おもしろがれる」人と一緒に、さらなる成長を
今後どのような起業家に入居してほしいですか?
ハードルは設けず、多様な業種・業界の方を受け入れているのですが、入居時には必ず30分~1時間程の面談を実施しています。そこに臨むコミュニティマネージャーは「今いる入居者や関係者の中で、どんな人とつなぐとおもしろいだろう?」と考えますし、「どんな人とつながりたいと思っているのか?」をヒアリングします。co-ba ebisuの中には、人とのつながりや事業のヒントになるような「種」がたくさんあるので、「あの人と一緒にこんなことできるかな」とおもしろがってトライできる方に来ていただきたいですね。
co-baは、今後横浜エリアにも拠点ができる予定です。大規模な駅前再開発地区の、上層階に大企業のオフィスが入る高層ビルのエントランスフロアで、同企業の社員たちも自由に使えるスペースを一部設けています。これまでのco-baのメインユーザーだったクリエイターやスタートアップなど、コワーキング施設を使いこなしている方たちとは少し異なる層をターゲットにしています。より多様なユーザー同士がつながり、拠点を超えたビジネスマッチングや協業を生み出せたらと考えています。
今後INCU Tokyoとどのように連携していきたいですか?
INCU Tokyoに参画している他の施設とは、競合ではなく「起業家に対し、皆でいろんな環境を提供している仲間」になりたいですし、横のつながりを増やしたいと考えています。また、私たちはこれまでIM向けの研修を担当させていただいていたので、今後また研修講師の依頼があれば、そのプログラムをより充実させたいですね。当施設で実践しているコミュニティマネジメントやイベントの企画・運営などを言語化・プログラム化して、他の施設でも汎用的に使えるような講座を提供できればと思います。
記載内容は2026年1月時点のものです。