Interview

コミュニティマネージャーを務める田口氏
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アートの街・天王洲でスタートアップに伴走。「部活のマネージャー」として私ができること

Creation Camp TENNOZ

アートを楽しめる水辺の街として近年注目される天王洲アイル。インキュベーション施設・Creation Camp TENNOZは、そんな環境に惹かれて集まったスタートアップを支援し、事業成長と街の発展をめざしています。コミュニティマネージャーを務める田口 果歩氏が、施設の魅力と入居企業への想いを語ります。

プロフィール

大学卒業後、東京都立川市にある不動産会社で広報、デベロッパーを経験。2024年9月、Creation Camp TENNOZ開業に併せて寺田倉庫株式会社へ入社。コミュニティマネージャーとして、入居スタートアップ同士の交流促進、イベント企画や運営、周辺企業との連携を促進する窓口として業務に従事する。

少数精鋭の入居企業を、2年間の支援プログラムで自走できるようにサポート

壁がなく、情報交換や交流がしやすい環境

Creation Camp TENNOZの概要を教えてください。

Creation Camp TENNOZ(以下、Camp)は、寺田倉庫株式会社が運営するインキュベーション施設です。昨年10月にオープンし、現在2年目を迎えています。寺田倉庫は品川の天王洲アイルを拠点に、保管事業とまちづくりをしている会社です。Campは、もともと倉庫だった建物の2階フロアをリノベーションして使用しています。

施設のコンセプトは「部室」で、「スタートアップの困りごとの90%は、周りのスタートアップから学んで解決できる」という考えをもとに、入居者同士の交流から学び合い、助け合える施設をめざしています。オフィスは約200坪という広さですが、壁はなく床に敷いたラグでゾーニングしているだけの空間なので、日常的に情報交換や相談がしやすい環境です。

提供している創業支援プログラムや、サポート面の特徴を教えてください。

当施設のスタートアップ支援プログラムは、シード期のスタートアップを対象に2年間で自分たちの事業やプロダクトの構想を磨き上げ、自走できるようにサポートする内容です。参加企業は毎年開催する審査会で最大10社選ばれ、現在は1期生と2期生合わせて19社が入居しています。

入居企業は2年間、インキュベーション施設を無料で利用でき、登記も可能です。月に一度「Monthly Circle」という会を設けて、当社の代表を含めた先輩起業家たちがメンターとして、各社の悩みや事業計画の壁打ちを行っています。そのほか、サポート企業や弁護士などの専門家によるアドバイスを受けることもできます。

また、寺田倉庫の美術館で開催するイベントに参加いただき、アートやカルチャーと接点を持つ機会なども提供しています。入居企業は最大で20社という少数精鋭なので、個社ごとの状況に合わせたサポートができるのも強みだと思います。

田口さんはコミュニティマネージャーとして、どんな業務を担当していますか?

普段は基本的に受付にて、スタートアップのニーズや困りごとを直接聞いたり、Slackで必要な情報を連絡・共有したり、施設の運営管理全般を担当しています。また、サポート企業との交流イベントの企画・運営も私の仕事です。

施設のコンセプトが「部室」なので、私は「部活のマネージャー」のようなイメージで、入居企業の方たちとは日頃からフラットにコミュニケーションを取るようにしています。事業を進める上では、他愛もない雑談をしたり、些細なことでも気軽に相談したりできる人が必要だと思うので、そんな存在になりたいと思っています。

場所や空間をつくるデベロッパーから、施設の価値を高める運営の仕事へキャリアチェンジ

倉庫をリノベーションした約200坪のオフィス

学生時代から前職までのキャリアを教えてください。

大学では公共政策の分野のゼミに所属し、まちづくりを実地とともに学びました。就職活動では、たくさんの人が集まる空間をつくる仕事がしたいと思い、地域密着型の不動産会社に新卒入社。広報を経て、最後の2年間はデベロッパーとして、用地取得や、機能・デザインを含めた魅力ある施設をつくる仕事に携わりました。

デベロッパーの仕事を通じて、場所や空間の価値は、開発者はもちろんですが、そこを利用する人、運営する人たちによってつくられるのだと感じました。そこで、施設の価値を高める「運営側」の仕事に挑戦しようと決意し、インキュベーション施設の開業準備をしていた寺田倉庫に飛び込みました。昨年の9月に入社し、施設の立ち上げイベントの準備から携わっています。

コミュニティマネージャーを引き受けるにあたって、どんな想いがありましたか?

採用面接の時も「部活のマネージャーのような人を募集している」という話だったので、まずは入居者とフラットな立場で接しようと考えていました。その上で、皆さんの悩みや課題をしっかり聞き、共感することが大事だと思っています。そして、彼らが抱える課題に対して、解決してくれる人や適切なリソースにつなげることを意識しています。

INCU Tokyoに参加したきっかけを教えてください。

私はこの仕事を始めるまでスタートアップ企業と関わったことがなく、施設運営も未経験だったことから、創業支援やコミュニティマネージャーの仕事について学びを深めたいと思い、参加しました。また、コワーキングスペースやシェアオフィスという「場所」を提供するだけの施設ではなく、創業を支援するインキュベーション施設ならではの運営ノウハウを学び、コミュニティマネージャー同士のつながりもつくれたらいいな、と思っています。

入居企業の成長は自分のことのように嬉しい。この1年で築いた温かい関係性

笑顔の田口氏(写真左)

これまで支援してきた中で、とくに印象的な会社があれば教えてください。

事業拡大の面で言うと、1期生の株式会社Creatorʼs X (クリエイターズ エックス)というアニメ制作のDXを推進する会社の成長が目覚ましいですね。寺田倉庫には、映像や音楽コンテンツを記録したメディアを保管するアーカイブ事業部があるのですが、その事業部のネットワークで企業をご紹介することもあります。起業から1年ほどですが、AI時代のアニメ制作会社として驚くほどのスピードで成長しています。

また、OIKOS MUSIC株式会社という音楽系スタートアップの事例も印象深いです。同社は、「アーティストが集まる街づくり」をめざしており、寺田倉庫が持つスタジオやライブハウスを活用して実証実験を行っています。天王洲という場所のポテンシャルと、当社のリソースをうまく活用し、街の魅力を高めてくれた好事例だと思います。

コミュニティマネージャーとしての喜びを感じた瞬間はありますか?

各社のワークスペースには、社名板としてホワイトボードに各社名を手書きしたプレートを置いていたのですが、他のコミュニティマネージャーたちと「これ、もっとおしゃれなものに変えたいよね」と話していたことがありました。

そんな中、先日施設の1周年イベントを開催した際に、1期生が私たち運営側に各社のロゴが入った木製のプレートをサプライズでプレゼントしてくれたのです。イベントに向けて事前に入居企業同士で相談し、木製プレートは1期生で家具のデザインをするKNOTTER株式会社が制作してくれました。入居企業同士の横のつながりを実感し、私たちがめざす“部室”のコンセプトが浸透している瞬間を垣間見ることができ、とても嬉しく胸が熱くなりました。

また、私は日頃から入居企業の皆さんが全力で支援プログラムや事業に取り組んでいる姿を見ています。だからこそ、たとえばずっと悩んでいたプロダクトが完成したり、ピッチイベントで優勝したり、皆さんが目標を達成した瞬間を見ると自分のことのように嬉しくなります。コミュニティマネージャーとしてはまだまだ勉強中ですが、「田口さんがいてくれて良かった」と言ってもらえた時は、大きなやりがいを感じますね。

スタートアップ企業とともに、天王洲アイルという街の魅力をさらに高めていきたい

水辺とアートが融合する街・天王洲アイル

今後どのような起業家に入居してほしいですか?

Creation Camp TENNOZでは毎年最大10社、入居するスタートアップを採択しています。「事業を通して解決しようとしている課題への共感」「事業に対する情熱・熱意」「天王洲を一緒に盛り上げ、創っていく想い」をとくに重視して入居企業を選考しています。業種・業界はとくに定めていないので、いろんな領域のスタートアップ企業に応募いただきたいですね。

私たちは、水辺とアートが融合する天王洲アイルという街に、新たな付加価値を創出したいという想いで、インキュベーション事業を開始しました。天王洲アイルの持つ空気感やカルチャーを魅力に感じ、この場所で起業したい、事業を成長させたいと思ってくださる方に入居していただけたら嬉しいです。

創業支援を通じて、どんな社会や未来をめざしていますか?

起業家の方たちが、やりたいことやアイデアを実現するために努力できる場所、切磋琢磨できる場所がもっと増えたらいいなと思っています。そして、そこに自分自身が携わり、サポートできる存在でありたいですね。

当施設の認知度はまだまだ低いので、情報発信を強化し、「Creation Camp TENNOZで起業したい」と思ってもらえるような施設にしていきたいです。

今後INCU Tokyoとどのように連携していきたいですか?

インキュベーション施設同士の連携を深めていけたらいいな、と考えています。私たち単独では解決できないスタートアップの悩みがありますし、逆に他の施設さんでは解決できない課題も当施設のリソースなら力になれることがあるかもしれません。創業支援施設を運営するライバルとしてではなく、ともに起業家をバックアップする仲間としての関係を築き、業界全体を盛り上げていけるような連携ができたら嬉しいです。

記載内容は2025年11月時点のものです。