Interview
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人と人をつなぐ場をつくり、次世代技術を社会へ。大学×創業支援施設×VCの連携で描く未来
東京理科大学グループのインキュベーション施設として、スタートアップを支援するquantum cross point。大学によるナレッジ支援、VCと連携した資金調達支援など、技術を事業化へ導く多角的なサポートを提供しています。運営を担う齋藤 茜氏が、入居者の課題に寄り添う伴走手法と今後の展望を語ります。
プロフィール
大学卒業後、語学教育機関で留学支援と広報を担当。東京理科大発EdTech企業でエンジニア育成プログラムの企画運営に従事。2023年より東京理科大インベストメント・マネジメントでインキュベーション施設の企画運営を担い、学内外連携を通じ拠点機能強化に取り組む。
理科大発に限らず、オープンドアで多種多様な起業家を支援する
quantum cross point(qcp)の概要を教えてください。
qcpは、東京理科大学神楽坂キャンパス周辺に4拠点(飯田橋、市ヶ谷Ⅰ、市ヶ谷Ⅱ、神楽坂)を展開するインキュベーション施設です。最寄りの飯田橋駅は、多くの路線が乗り入れるためアクセスに便利で、バーチャルオフィスやドロップインの会員も含めると、現在約500社の登録があります。
最大の特徴は、東京理科大学スタートアップエコシステム「TUSIDE(トゥーサイド)」と連携した支援を提供していることです。これは、研究成果の知的財産化・事業化を支援する学校法人東京理科大学の産学連携機構と、施設運営や創業支援イベントなどを担う当社・東京理科大学インベストメント・マネジメント(TUSIM)、そして投資機能を担う東京理科大学イノベーション・キャピタル(TUSIC)の3法人でつくる枠組みです。技術の芽を探すところから、資金調達、事業化、そして出口戦略まで、フェーズに合わせてシームレスな伴走が可能です。
ただし、qcpの施設名にはあえて「理科大」の名を入れていないことからもわかるように、支援するのは理科大発のスタートアップに限りません。他大学の学生から社会人まで広く門戸を開け、多種多様な業種・業界の起業家を集めるオープンドアポリシーを、設立当初から大切にしています。
齋藤さんは、施設運営者としてどのような役割を担っていますか。
大きく分けて3つの役割があります。1つめは、起業家たちが集まる「場」をつくること。2つめは、研究者・学生・企業・行政など、異なる領域の「人」をつなぐこと。そして3つめが、PoC(概念実証)や壁打ちを通じて「技術」を事業に近づけることです。
当社では、毎年サイエンスやテクノロジーをテーマにしたスタートアップピッチコンテストを主催。その他にも、入居者同士やパートナー企業とのつながりをつくる交流会・勉強会、学生向けの創業支援イベントなどを開催しています。最近では、女性起業家向けのランチミートアップを企画し、フードビジネスを展開している企業の商品を試食しながら交流できる場がとても好評でした。
こうした「場」から「人と人」とのつながりが生まれ、「技術」を事業化するための足がかりになります。qcpは単なる貸しオフィスではなく、入居者が抱える課題に最適なリソースをマッチングしたり、事業や経営のヒントを得たりできる施設でありたいと考えています。
「頑張る人を支えたい」と、創業支援の道へ。施設も運営者も起業家と共に成長をめざす
齋藤さんのこれまでのキャリアを教えてください。
大学では英語を専攻し、卒業後は語学教育機関に就職して留学支援や広報業務に携わりました。その後、東京理科大学発のEdTech系スタートアップに転職し、エンジニアを育成するプログラムの企画や運営を担当。実は、この会社がqcpの立ち上げ業務を受託していたため、私もオープンのお手伝いをし、それをきっかけに運営会社であるTUSIMにジョインした、という経緯です。振り返ると、「何かを頑張る人を支えたい、応援したい」というのが私のキャリアの軸であり、今の仕事にもつながっていると感じます。
qcpの運営に関わることに、どのような想いを持っていますか?
私自身も、当社のインキュベーション事業も、起業家の皆さんと一緒に成長していきたいという想いはずっと持っています。スタッフが創業支援の知見や運営スキルを磨くのはもちろん、施設としての仕組みを整え、入居者の方たちの事業に貢献したいですね。
INCU Tokyoに参画した理由を教えてください。
qcpがオープンした当初は、当社に余裕がなかったために参画できなかったのですが、運営が軌道に乗ってきたタイミングで、より広い視点で創業支援を考えたいと思うようになりました。私も個人的に、コミュニティに入ってたくさんの人とつながり、情報共有することが好きなのです。
INCU Tokyoに参画する施設同士は、入居者を奪い合うライバルではなく、「新しい産業や事業の創出を支援する」という同じ志を持つ仲間だと考えています。このコミュニティを通じて、他施設の知見を学び、互いに高め合っていきたいですね。
課題解決のために最適なプロフェッショナルへつなぎ、機会損失させない
TUSIDEについて、もう少し詳しく教えてください。
大学と創業支援施設、VCが別々に動くのではなく、リソースを共有し、それぞれの強みを活かして連携することで、起業家により大きな価値を提供できるはず──そうした考えから誕生したのがTUSIDEで、2021年から大学スタートアップエコシステムとして学内外に発信を始めました。
qcpの入居企業が、TUSIDEを活用して事業成長を遂げている事例も数多くあります。たとえば、フェロトーシス(細胞内の過剰な酸化によって引き起こされる細胞死)作用による抗がん剤やアルツハイマー病の薬を研究・開発する株式会社FerroptoCure。また、藻を発生させないプラズマ水処理技術を開発し、水耕栽培による植物工場の省力化・スマート化に貢献するブルーディア株式会社。そのほかにも、多種多様な領域の企業が活躍しています。
これまでの支援の中で、とくに印象に残っているエピソードはありますか?
とあるスタートアップの方が法的な課題で悩んだとき、同じくqcpに入居している弁護士の方に直接相談に行き、無事に課題を解決。それ以来おふたりは友人のように仲良くなり、よく一緒に飲みに行く間柄になりました。困ったときに私たちスタッフはもちろん、他の入居者を頼れるのは、施設内に「なんでも受け入れる」というオープンな雰囲気があるからだと思っています。
また、qcpに入居しているのは、社員が数名というスモールスタートの企業が多いのですが、事業が成長してオフィスが手狭になった場合、当社の不動産事業部からより広いオフィスを紹介することも。卒業してしまうのは寂しい反面、成長した姿を見ると大きなやりがいを感じます。
起業家を支援する上で、心がけていることはありますか?
1つは、入居者とのコミュニケーションを密に取ることです。とくに士業やスモールビジネスの方は、コスト面などを丁寧に管理している方が多いので、細やかに連絡するように心がけています。
もう1つは、入居者の悩みは自分の知識だけで解決しようとせず、プロフェッショナルへつなぐこと。起業に関する一般的な課題ならインキュベーションマネージャーや外部パートナーに、ディープテック領域など技術的な課題は大学に、資金に関することはVCにと、「この課題を解決できるのは誰か」を考え、機会損失させないことを意識しています。
qcpのスタッフは、「入居者のために次はこの企画をやってみよう」という熱量を持っていて、皆で試行錯誤しています。運営チームとして協力して支援するのが楽しいので、チームも入居者も一緒に成長できる取り組みをしていきたいですね。
qcpが地域をつなぐハブとなり、飯田橋・神楽坂エリアをスタートアップの聖地に
今後どのような方に施設を利用してほしいと考えていますか?
一番新しい神楽坂オフィスは、IT特化型の東京都認定インキュベーション施設※として、高性能なGPUサーバーを導入しています。これは、他の3つのオフィスの入居者も使えるので、AI開発やビッグデータ解析などを必要とするスタートアップに是非利用してほしいですね。
インキュベーション施設運営計画認定事業において、認定した事業計画に係るインキュベーション施設
創業支援を通じて実現したい、社会や未来の姿を教えてください。
この飯田橋・神楽坂エリアを、世界に誇れる「スタートアップの聖地」にできたらいいなと思っています。qcpが地域住民や飲食店、大学、企業をつなぐハブになり、街全体で新しい挑戦を応援する文化をつくっていければと。これまでも、エリアのランチマップや手土産ガイドをつくって、人々が交流する仕掛けを試したことがあります。今後はより地域の特性を活かしたイベントを開催し、学生や大学、自治体、企業とのマッチングの場を創出したいですね。
最後に、今後INCU Tokyoに期待することを教えてください。
INCU Tokyoが主催する勉強会や施設の見学会は、コンテンツとしての内容が素晴らしいのはもちろん、施設同士のつながりが生まれるのでとてもありがいです。今後もそうした機会を活用しながら、qcpとしての支援機能や個人の運営スキルを高めていきたいと思います。
記載内容は2025年12月時点のものです。