Interview
この人と一緒に何か始めたい──新たな出会いとモチベーションが生まれる施設に
東京駅へのアクセスも便利な京橋にある創業支援施設・BTS-OFFICEを運営するのは、株式会社Brain Trust from The Sunの代表を務める大川 桂一氏。自身も経営者であり、不動産や金融に関する豊富な知見を持つ彼が、起業家支援のあり方を独自の視点で語ります。
プロフィール
証券会社、建設会社では過酷な飛び込み営業を経験し、不動産会社、コンサルティング会社を経て独立。株式会社Brain Trust from The Sunの代表として、自身の起業経験をもとにCFP、宅地建物取引士の知見を活かしBTS-OFFICEで創業支援に携わる。また、鎌倉農泊協議会会長、びえい農泊DX推進協議会の副会長を務め、地方創生の補助事業をサポート。
不動産や金融系の上位資格を持つ運営者が、創業期のスタートアップをサポート
BTS-OFFICEの概要について教えてください。
当施設は、平成27年に東京しごと財団の高齢者職域開拓モデル事業の一環で、東京都の高齢者雇用促進の助成事業として誕生しました。開業当初は、長年経理に携わってきた方や農水省に勤めていた方などが勤務し、豊富なキャリアを持つシニア人材と起業家がコミュニケーションを取れる施設として機能していました。
東京駅にも近い京橋エリアのビルの6・7階がシェアオフィスで、現在は弁護士や中小企業診断士など士業の方を中心に、人材派遣、トレーラーハウス製造会社など幅広い業界の方にご利用いただいています。
サポートする上での特徴や強みはありますか?
私は宅建士の上位資格「公認 不動産コンサルティングマスター」と、ファイナンシャルプランナーの最上級資格である「CFP(世界水準の知識と経験を認定する国際資格)」および「FP1級(国内最上位の国家資格)」を持っています。また、BTS-OFFICEの運営会社である株式会社Brain Trust from The Sun の創業者でもあるので、創業期のスタートアップの立場に立ってご相談に対応することができます。会社設立時の融資・補助金・助成金の悩み、個人として住宅や年金などについて相談に乗れることが強みです。長期の入居者には弁護士、税理士、中小企業診断士がいるので、そういった先輩たちに気軽に話を聞けるのも強みだと思います。
ただし、できれば起業する人は、まずは自分で調べる癖を持ってもらいたいと考えています。相談を受ける側にも、それぞれ都合がありますので、何も基礎知識を持たずに人を頼るのではなく、まずは自分でできることを試みてから相談すると良いです。新しい事業を切り開くなら、内から発生するエネルギーをただ外に向けるのではなく、自分の中で練り上げる訓練をしてほしいですね。それにより「この人と一緒に何か始めたい」「協力すれば何かおもしろいことができそうだ」というモチベーションが生まれることが大事だと考えています。
経営者として、自分でやろうと決めたことはやり抜く。起業家に必要なマインドとは?
大川さんのこれまでのキャリアを教えてください。
私は証券会社からスタートし、建設、不動産、コンサルティングなどさまざまな業界でキャリアを積んできました。とくにファンドバブルの時代に不動産業界に携わり、不動産金融工学や不動産ファンド、不動産関連の法律などを深く学んだことが、今の事業の基盤になっています。
企業に属して働くうちに、「自分の思う通りにビジネスを進めてみたい」という気持ちが強くなり、平成24年にBrain Trust from The Sunの前身となる会社を設立。自分のこれまでの経験を誰かに伝え、創業や事業展開を支援できればという思いでBTS-OFFICEを立ち上げました。
北海道美瑛町での農泊ビジネスなど、ユニークな事業も展開しているのですね。
もともとは鎌倉で農泊事業をしていて、それを見た大手企業で働く方から「美瑛町で同じように農泊事業を立ち上げたいから手伝ってほしい」というご相談をいただきました。このご縁は、入居企業のトレーラーハウス会社の方がつないでくれたものです。現在は「びえい農泊DX推進協議会」の副会長をさせていただきながら、北海道のファームズ千代田という牧場に2棟のコテージホテルを建設して運営しています。映画「糸」の撮影現場になった美しい牧場です。
さまざまな事業を手がけていると、もちろん失敗することもあります。しかし、やり抜けば必ず成功します。当たり前ですよね。成功するまでやるのですから(笑)。起業に必要なのは「これをやりたい!」という強い気持ちと、毎日同じことを繰り返す安定を捨て、冒険の日々に魅力に感じられるか、いい意味で狂えるかどうかだと思っています。
多様な価値観がある昨今、「人生の中で仕事が一番楽しい」という人がいてもいい
これまで支援してきた中で、印象に残っている起業家はいますか?
一回目の会社をバイアウトして、新たにミドル・シニア向けの転職支援サービスの会社を立ち上げた方や、ベトナムなど外国籍の方向けの人材紹介会社を創業した方が印象的です。2人とも若くして起業し、人当たりが良くて優秀な人物でしたが、どちらもいい意味で「わがまま」でしたね。
ここでの「わがまま」とは、自分のやりたいことや譲れないことをしっかり持っていて、周囲の人の目をまっすぐ見てきちんと伝えられるという意味です。我が思うがままにまっすぐに伝えることが他人を動かし、自分一人ではできないことを成し遂げるのが、起業家に絶対に必要な要素だと思います。
わがままなNo.1とバランスを取れるNo.2がいて、皆で上をめざすからこそ、会社はより多くの人を幸せにできる船になるのではないかと考えます。私も何か大きなことを成し遂げたわけでもないので、一緒に目的地に向かえる仲間とこの創業支援施設で出会えるといいと思います。
創業支援施設を運営するやりがいをどんな時に感じますか?
多くの方に入居していただき、施設が賑わっているのは単純に嬉しいです。また、現在7階の会議室以外のほとんどのスペースをトレーラーハウスの会社が借りてくれているのですが、少しずつ事業が大きくなってきたのだと実感します。そうした成長を見ると、私も頑張ろうと思えますね。
最近は、若手の人材育成や起業支援にも注力していると聞きました。
私も50歳になるので、やはり若い人を育てていかないと会社が存続できないと思っています。多くの企業でも事業継承の問題があり、若手人材と関わって成長させ、トップや世代が代わっても揺るがないように組織を強くしなければなりません。
昨今は働きやすさやワークライフバランスが重視されますが、「人生の中で仕事が一番楽しい」という価値観があってもいいと思いますし、そうでなければ起業家は育たないと思っています。起業して純粋に仕事を楽しみたいという人がいたら、是非とも当施設を利用してほしいし、一緒に何かやりたいですね。
東京発で地方創生に貢献──技術やアイデアで観光客を動かせる企業と協業したい
今後どのような起業家やスタートアップに入ってほしいですか?
今後の日本で世界的に競争力があるコンテンツをつくれるか?と考えると、観光業に可能性があると思っています。僕がやりたいのは、東京からさまざまな情報を発信し、多くの外国人が東京だけでなく日本全国を訪れるようなしくみをつくること。そのため、東京の企業と連携して、まだ知られていない街の魅力を発信・観光客を動かせるような人に入ってほしいですね。
具体的には、地方の広い土地がなければ開発できないドローン技術や、スマート技術を搭載したトレーラーハウスなどを活用して地方創生に取り組みたいという熱意がある人ですね。当施設は比較的リーズナブルに法人登記できますし、気軽にいろんな相談ができる場所として活用してほしいと思います。
最後に、INCU Tokyoに期待することを教えてください。
施設のPRをすべて自社でやるには限界があるので、こうしたコミュニティへ参加させていただけるのはとてもありがたい。また、美瑛町の事業でも実感したのですが、行政との連携がきっかけで会社の認知度・信用度も格段に上がります。それをもとに施設運営を続け、「自分のやりたいことで起業したい」「人生の中で仕事を思いきり楽しみたい」という仲間と出会い、支援していきたいと思います。
記載内容は2025年10月時点のものです。