Interview
人と人、東京と地方を繋ぐ若き開拓者──志ある若者の背中を押せる創業支援施設にしたい
早稲田大学南門から徒歩1分に位置する、フロンティア倶楽部早稲田会館。施設運営に携わる羽鳥 健氏は、学生時代から地方創生活動に取り組み、そこで得た学びや人との繋がりを活かした創業支援をめざしています。ブレない信念と類まれな行動力を持つ彼が思い描く、起業家支援の形とは?
プロフィール
早稲田大学休学中。コロナ禍でサークルを立ち上げ、人が出会い繋がる場所をつくり続けたこと、オンライン授業を駆使しながら、47都道府県を巡った経験から「人と自然と地域を繋ぎ、生きていて良かったと思える日々をつくること」が生涯の目標に。株式会社フロンティア俱楽部で社員をしながら、自身も創業準備中。
起業を志す学生や若者が集い、語り合うことで、事業のヒントや出会いを得られる場所
フロンティア倶楽部早稲田会館の概要を教えてください。
一番の特徴は、早稲田大学にほど近い場所に立地していることで、「有志者事竟成~こころざしあるものは、こと、ついになる~(後漢書の言葉)」をコンセプトに、主に志ある若者や学生が集い、学び、創造精神を養うインキュベーション施設です。
レンタルオフィスのほか、ドロップインのコワーキングやイベントスペースもあり、すでに起業した人やがっちり計画を立てている人というより、「これから頑張ってみようかな」という人たちが集まり、他愛もない会話の中からいろんな繋がりやヒントを得られるような場所をめざしています。
支援において、独自の強みはありますか?
早稲田大学のOB会である稲門会には、ミドルシニア世代のさまざまな分野の専門家が多数います。そんな先輩方と若者が交流できる場であり、互いに刺激し合って好循環が生まれています。
また、東京の施設でありながら、地方との繋がりが強いのも特徴です。僕が地方創生事業に携わっているため、利用者も地方に行って学びや体験の機会を得たり、学生がインターンとして現地の仕事に参加したりすることもできます。
羽鳥さんはどのような役割を担っていますか?
僕の主な役割は、まずは若い人たちに施設を知ってもらうこと。そのための交流会を開催し、「何がしたいか」という志や「こんなことができる」という能力を話し合える場をつくっています。
たとえば「働く幸せを語る夜」というイベントでは、現役大学生や社会人1~2年目、休学して起業を考えている人など多様な若者が集まり、自分の仕事や将来やりたいことについて語り合いました。学生にとっては気軽にOB訪問をしているような感覚で、社会人にとっては自分の仕事を褒めてもらったり学生時代の気持ちを思い出したりする機会になり、とても好評でした。今後もより良い出会いがあるイベントにしていきたいと考えています。
何事においても、人との繋がりが絶対に大事。信念を行動に変え、創業支援にチャレンジ
学生でもある羽鳥さんが、施設運営に関わることになった経緯を教えてください。
僕はコロナ禍が始まった2020年に早稲田大学に入学しました。授業だけでなく社会的にもオンラインでのコミュニケーションが主流となり、人間関係が希薄になっていく感覚や閉塞感を強く感じました。「何事においても、人との繋がりが絶対に大事だ」と考えた僕は、1年の時に「QOL向上委員会」というサークルを設立。とにかく「まずは人と出会い、繋がる」、そこから興味や趣味へ繋がる入口になるようなコミュニティをめざしました。
僕自身も趣味であるロードバイクや登山、カメラなどで好きな人と繋がり、サークルが300人程の規模になった頃、「いろんな人が集まると何かが生まれるのだ」と実感。サークル活動の傍ら、コロナの給付金と入学祝い、初めてのバイトの給料を合わせて35万円で買った自転車や、車中泊や電車での旅で、日本中を回りました。各地を訪れるうちに、人との繋がりの大切さを再確認したのはもちろん、日本が大好きになり、とくに自然や地方に惹かれました。これらを守りたいと漠然と考え、地方創生や農業の後継者不足などに関心を持つようになったのです。
そこで、4年時に「結の芽」という学生・若者と地方の人手不足をマッチングする団体の設立に関わり、自治体とコラボして予算を立ててもらいながら事業活動に近いことを始めました。そんな時、フロンティア倶楽部で開催された就活生向けのイベントに参加したことをきっかけに当施設の代表・三浦と出会い、運営に関わることに。現在は大学を休学中で、2025年8月からは正式に運営会社の社員となって学生事業部長を務めています。
代表の三浦さんがめざす施設の姿と、羽鳥さんのやりたいことが合致したと聞きました。
そうですね。三浦も「人との繋がりから事業を生み出したい」という想いでフロンティア倶楽部を立ち上げたそうで、私が学生ながら地方創生の企画を考えて実行したことをとても評価してくれて。「自分たちおじさん世代が動くより、若者たちが自ら動いて事業をつくっていく方がいい」と、サポート役を引き受けてくれています。
施設運営者としては、どんなことに取り組んでいますか?
(公財)東京都中小企業振興公社の「インキュベーション施設支援機能強化事業」の支援を受け、フロンティア倶楽部で「創業ゼミ」を開催することにしました。「ハンズオン支援」を活用して、専門家の方たちのアドバイスをいただきながら支援策の内容を考えていくのは、とても勉強になりました。
先日無事に助成金交付決定の通知をいただきましたので、今後は創業プログラムを実現させて、起業したい人たちを育成していくことが直近の課題です。自分自身も起業をめざす1人として、一緒に頑張りたいと思います。
仕事の本質は「目の前の人をどう喜ばせるか」。地方で得た学びを創業支援に活かしたい
羽鳥さんのこれまでの活動について、もう少し詳しく教えてください。
教育、探求学習、空き家の利活用、イベント、ツアーづくり、農業など×(かける)関係人口づくりをテーマに活動しています。とにかく「楽しいこと」から人の流れをつくり続けています。
いくつか具体例を挙げますと、岐阜県の白川村では、首都圏の学生や若手社会人、現地の同世代の若者と小中学生が集まり、子どもたちを主役にして新しいお祭りをつくりました。お祭りでは村や県内の特産品を売るのですが、いくらで仕入れていくらで売るかを子どもたちが考えるなど、企画から広報まで一緒に取り組みました。これまで2年間続けてきたのですが、私たちがよそ者だからこそ、子どもたちとは親に言えない悩みを相談してくれるような関係になれたのが嬉しいですね。
ほかにも長野県下條村では高校生と一緒に村のPR動画を制作したり、岩手県一関市では高校生や自治体と一緒にクラウドファンディングを行い、地域の交流スペースをDIYでつくり直す授業をしたり。地方にはその土地ならではの素晴らしい文化や産業があるので、子どもたちには「上の世代から受け継がれたバトンを受け取って生きている」という意識を持ってほしいし、「このバトンを次に繋いでいこう」という想いを芽生えさせることができたらいいなと思っています。将来的には、47都道府県で仕事をしていきたいです。
地方での活動で得た学びの中で、創業支援に活かせることはありますか?
支援者としてはまだまだこれからという段階ですが、ひとつ言えるのは、仕事の本質は「目の前の人とどう関わり、関わった人をどう喜ばせて笑わせるか」だと思っています。これは、私が地方で周りの人たちにたくさん迷惑をかけながら学んだこと。喜ばせたことへの対価として感謝があり、感謝では届かない場合にお金が支払われるのだと思うのです。
今のビジネスは、IT業界などオンラインで儲けられる仕事も多く、とくに若い人たちの間では「アントレプレナー」という言葉が先走り過ぎて、起業が手段ではなく目的になっているケースが多いように感じます。でも本来は、社会課題を解決したいなどの目的=志が重要で、起業は手段でしかありません。そうした本質を大切にしながら、支援していきたいですね。
若い起業家や学生と関わる上で、どのようなことを心がけていますか?
普段から、夢や志みたいなものを、暑苦しく語っています。今の時代、自分のやりたいことをはっきり持っていたり、それを発言したりする機会があまりないと思うのです。だからフロンティア俱楽部早稲田は、それらを気軽に話せるように場所にしたい。ちなみに、飲み会や地方の星空の下で焚き火を囲みながら語ると、自然とみんな熱くなりますね(笑)。
利用者がやりたいことを自然にポロッと言ってしまうような場づくりをしたいし、普段クールな人が意外と熱い想いを抱えて葛藤しながら生きている、という一面を引き出せた瞬間が僕はめちゃくちゃ幸せです。
働く人たちがエネルギーを蓄え、東京の起業家と地方を繋ぐ「どこでもドア」のような施設に
今後フロンティア倶楽部早稲田会館をどのような施設にしたいですか?
起業する人は悩みがつきないと思うので、弱い部分も見せ合いながら「一歩一歩は遅くても、いつか夢を実現できればいい」と伝えてしっかり背中を押せる施設にしたいです。起業家に限らず、人間はみんな誰かを支える力になっているはずだし、1人では何もできないもの。今同じ時代に生きている人だけで支え合っているのではなく、先人たちのバトンを受け取り、まだ見ぬ先の世代に繋いでいく責任もあります。僕は日本が好きだし、この社会をもっと良くしたいので、働く人がたくさん集まって、エネルギーを蓄えてもらえるような施設にできればと思っています。
また、地方の人たちは、東京ともっともっと接点を持ちたいと思っています。最近は、東京を起点としつつも地方に飛び出して事業をやってみたい、という人も多いので、地方と起業家を繋ぐハブのような存在になりたいですね。フロンティア倶楽部が、東京から日本全国に行ける「どこでもドア」になれたら嬉しいです。
INCU Tokyoのコミュニティの中で期待することはありますか?
われわれの施設はマンパワー不足で、施設のいろんな面を整える力がまだないので、多くの起業家を生み、創業支援をしっかりビジネスとして成功させている他の施設の先輩方の知見を学びたいと思っています。反対に僕たちができることで言うと、型にはまらないようなタイプの起業家には当施設のスタンスが合うかもしれません。今後は運営者・利用者ともに施設間でさらに連携を強化できたらと期待しています。
記載内容は2025年10月時点のものです。