Interview

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笑顔の今村氏
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下町の現代版長屋で、自分らしい生き方を再起動する。人と人がつながり、挑戦が生まれる場所

コワーキング&シェアアトリエ reboot

東京・台東区の下町にあるコワーキング&シェアアトリエ reboot。ここではITエンジニアの横でミシンを踏む音が響き、さまざまな人々が混ざり合っています。現代の長屋のような多様で発展的なつながりを大切にする今村 ひろゆき氏に、施設に込めた想いとそこで生まれる人間ドラマについて伺いました。

プロフィール

2011年「まちづくり会社ドラマチック」創業。公共施設・ワークスペース・イベントスペース・カフェ・財団などを参加型の場に変容させる「ワクワク活動する人・ワクワクする活動を増やす」運営の設計、ブランディング、マーケティングを得意とする。行政や企業とパートナーシップを組み東京、千葉、高知など全国展開。

4つの機能が混在する、現代版長屋のような空間

施設の内観

まずは、rebootがどのような施設なのか教えてください。

下町情緒が残る台東区にあり、地下鉄日比谷線「入谷駅」、JR山手線「鶯谷駅」そばの交通利便性が高い施設で、最大の特徴は1フロアの中に4つの機能が混在していることです。

一般的なコワーキングスペース、シェアオフィスの機能に加え、菓子製造などの許可を取得したシェアキッチン、そして定期的なモノづくりの教室や講座を行えるワークショップスペースがあります。 ここでは、パソコンに向かうAIエンジニアの隣で、漫画家の方が原稿を描いていたり、キッチンで新メニューの試作に没頭する人がいたりと、デジタルとアナログ、静と動、まったく異なる活動が同じ空間で行われています。

オフィス機能だけでなく、アトリエやキッチンまで備えているのですね。

意図的に境界線を曖昧にしたかったのです。特定の業種に絞るのではなく、多様なチャレンジャーが集まる場所にしたいと考えました。実際、現在はデザイナーや建築家、Web制作会社といったオフィスワーカーだけでなく、映画監督、社会課題に取り組むNPOの方、さらには会社員をしながら兼業で活動する方、資格勉強をする方などもいらっしゃいます。

それぞれがまったく違う何かをめざしているけれど、同じ空間で熱量を共有している。その多彩な個性の混ざり合いこそが、新しい視点や気づきを生む土壌になると考えています。ビジネスライクな関係だけではない、もっと生活に近い、「ユニークな人がたくさん」のご近所づきあいのようなつながりがここでは生まれています。

そうした温かいつながりには、入谷・鶯谷という下町の土地柄や雰囲気も影響しているのでしょうか?

大いに影響があると思います。充実した設備面はもちろんですが、私が大切にしているのは、そこにある空気感です。あえてブースの壁を160cmほどの高さに設定して、お互いの気配を感じられるようにしているのです。

イメージとしては、現代の長屋ですね。土地柄もあってか、ビジネスライクに無関心でいるよりも、隣の人が何をしているのか自然と目に入り、自然と会話が生まれる。そんな人間味のある関わり合いを大切に運営しています。

今村さんはどのような支援を行っているのでしょうか?

長屋のようなつながりを大切にしているので、入居の時点から関係性が生まれるような工夫をしています。内覧の時から他のメンバーさんのブースにお連れして自己紹介をしてもらったり、隔月で交流会を開催したり。また、オープンオフィスという時間を設け、起業家支援の専門家などにオンラインで相談できる機会もつくっています。

私自身は、施設の管理者というよりも、もっとフラットな仲間や相談相手として接することを心がけています。日常会話の何気ない雑談からビジネスの種やお困り事が見つかることも多いので、日常的なコミュニケーションそのものが、一番の支援になっているかもしれません。

効率よりも熱量を。場所を貸す以上の価値にこだわる理由

1フロアに4つの機能が混在

これまでのキャリアの歩みと、今の事業を始められた背景について教えてください。

2011年に会社を創業する前は、商業施設のプロデュース会社で働いていました。不動産デベロッパーの方々と一緒に、いかに効率よく事業採算性を取っていくかを追求する大規模な開発の仕事です。仕事自体はおもしろくやりがいもありましたが、完成した場所に入るのは、すでに成功している大手チェーン店や、大きなオフィスを構えられる企業が中心でした。

そうした仕事を続ける中で、もっと前の段階にいる人たち、これから新しい動きを起こそうとしている起業家や自分の才能をどう発揮していいか迷っている人を応援したい、という気持ちが強くなっていったのです。

私自身、サラリーマン時代に自分の才能や個性がわからない、もっと自分らしい力を発揮したいともがいていた時期がありました。同じようにモヤモヤしている人たちが、力を発揮できる場所をつくりたい。それが今の事業を始めた原点です。

施設名の「reboot(再起動)」には、どのような想いが込められているのでしょうか?

パソコンに新しいOSやソフトを入れて、実際に使用する前に再起動をしますよね。そうするとパソコンの機能が高まったり、新しいアプリの操作ができるようになったりします。

人間も同じだと思うのです。周囲にさまざまな挑戦やワクワク仕事する人たちがいる環境に自分の身を置き、交流すると、自然と新しいOSやソフトをインストールし、パワーアップしたり刺激を受けたりして動き出すことになる。rebootは、そのために再起動するキッカケを提供する場所でありたいという願いを込めました。

INCU Tokyoに参加されたのは、どのような理由でしたか?

いくつか理由はありますが、1つは同じ志を持つ他の施設の運営者や、行政関係の方との横のつながりをつくることです。それぞれがどのような方法で運営しているのか、ノウハウを共有し合えるのは大きいです。

また、施設単体では出会えない人たちとつながることで、入居メンバーのネットワークを広げる後押しもできると考えています。施設自体をもっとパワーアップさせていくためにも、相談に乗っていただいて、サポートを受けられる環境は非常に心強いですね。 同時に、私たちのような多機能混在型の運営ノウハウも、コミュニティの皆さんに共有していけたらうれしいですね。

予想外を楽しむ。人と人が紡ぐ新しいストーリー

イベントでの集合写真

今村さんが、この仕事をしていて一番やりがいを感じるのはどんな時ですか?

やはり、人が殻を破って、才能を開花させる瞬間に立ち会えることですね。それが一番の喜びです。

綺麗なオフィスや便利な設備を提供するだけなら、それは単なる不動産賃貸です。でも、私たちはここで起こる人の変化に伴走したいと考えています。昨日まで悩んでいた利用者さんが、誰かとの出会いで協働したり、自信を持ち、事業を展開したりしていく。その成長のドラマを特等席で見せてもらっている感覚です。彼らの背中を押すことが、結果として私自身のモチベーションにもなっていますね。

支援する上で、とくに心がけていることはありますか?

過干渉はせず、でも放置もしない絶妙な距離感を心がけています。起業家の皆さんは自立した考えをお持ちなので、必要な時だけお手伝いするような、後ろで支える存在でありたいと思っています。

具体的には、メンバー同士が話しているところに新しいメンバーさんを紹介し、少し混ぜてもらって輪を広げたり、興味がありそうなイベント情報を個別に提供したり、メディアからの話があればメンバーさんを取材で取り上げてもらったり。最初の小さなつながりさえつくれれば、あとは皆さん自身でどんどん化学反応を起こして進んでいきます。

実際に、rebootでの出会いから生まれた変化などはありますか?

ええ、場所を提供するだけでは生まれない変化が、ここにはたくさんあります。

たとえば、メンバー同士が意気投合してバンド活動を始めたり、映画監督と社会問題に取り組むクリエイターがタッグを組んで映画祭を開催したり。映画を見るだけでなく、対話の時間も設けたとても濃いイベントになりました。また、デザイナーさんと建築家さんがコラボレーションして、一緒に仕事を受注するチームをつくった事例もあります。

1人では解決できない悩みも、rebootのメンバーという共通項や互いに話して良い雰囲気があることで解決の糸口が見つかったり、ふとした会話から新しいプロジェクトが生まれたりする。予想外の展開が生まれていくのがおもしろいですね。

多様な生き方の見本市へ。rebootを、次の挑戦への滑走路に

多様な人が同じ空間で活動する施設

今後はどのような方々にrebootを利用してほしいとお考えですか?

rebootを、多様な生き方の見本市のような場所にしていきたいですね。

ここには、会社員を辞めて独立した人だけでなく、副業で小さく始めた人、資格勉強中の人、2拠点で活動する人、世界を舞台に仕事する人、社会課題解決を仕事にする人、アーティストなど、本当にいろいろな働き方の人がいます。会社の急成長をめざすことだけが正解ではありません。「あ、こんな生き方もあるんだ」「映画監督と会社員って両立できるんだ」といった実例を目の当たりにすることで、訪れた人の視界が開けるような場所にしたいのです。

そうした多様な人々が集まることで、どんな未来を実現したいですか?

先輩チャレンジャーたちの背中を見て、自分もやってみようかなと次のステージへ踏み出す人が増えていく連鎖をつくりたいですね。まだ起業していなくても、週末だけここに来て準備をしてみるとか、副業を始めてみるとか。そうやってrebootが、新しい一歩を踏み出し次のステージへ進むための準備の場所のようになれればうれしいです。

最後に、INCU Tokyoのネットワークを活用して実現したいことを教えてください。

やはり、rebootだけでは完結しないサポートを実現することです。一貫しているのは、入居メンバーの後押しをしたいという想いです。彼らが次のステージに進むために必要なリソースや出会いを、INCU Tokyoの広域なネットワークをお借りしてつないでいきたいと考えています。

また、rebootのホームページのリニューアルなども計画していて、各利用者にもっとスポットを当てた発信を強化していく予定です。INCU Tokyoのネットワークも活用しながら、ここで生まれた多様なチャレンジャーたちの存在を広く世の中に伝え、彼らの活動の場をさらに広げていきたいと思っています。

記載内容は2026年1月時点のものです。