Interview
サステナブルな都市への道を創る。新しい出会いを生み出すシティラボ東京の使命と展望
持続可能なまちづくりのためのビジネス創出をサポートする「シティラボ東京」。大企業、起業家、自治体、各分野の専門家などをつなぎ合わせ、日本各地の新たなビジネス創出を後押ししています。「思いもよらない出会いや化学反応が起こる瞬間が刺激的で楽しい」と言うプロジェクトマネージャーの右田 萌氏が同施設の特色や展望を語ります。
プロフィール
工学院大学卒業・明治大学大学院修了後、2016年より松田平田設計都市企画部で主に再開発事業に従事。2021年から一般社団法人アーバニスト(シティラボ東京)のマネージャーとして組織全体を統括、イベント企画を手がける。並行してSharedVisionを開業し専門分野の再開発・エリアマネジメントも携わる。
「持続可能なまちづくり」の未来を創る。シティラボ東京が紡ぐ参加型プラットフォーム
まずはシティラボ東京の施設概要を教えてください。
シティラボ東京は京橋駅直結、東京スクエアガーデンの6階に位置するインキュベーション施設です。運営母体は一般社団法人 アーバニスト(以下、アーバニスト)で、「持続可能なまちづくりのためのビジネス創出に向けた参加型プラットフォーム」をテーマとして運営しています。
施設内には20席ほどのコワーキングスペースを有する通称「サロン」と呼ばれるスペースと、最大80名を収容可能な会議室があります。サロンは活発に意見を交わす人たちが日々集まっており、活気ある印象です。会議室の貸切り利用は予約制で、空きがあればコワーキング空間としても利用いただけます。
シティラボ東京の会員制度と現在の主な会員の特徴についてお聞かせください。
同時に3人までの利用が可能な法人会員、1人で利用する個人会員、アーカイブ動画の視聴やイベント参加がメインとなるネットワーク会員という3つの会員制度があります。事前に私たちから施設の概要や理念をお伝えし、ビジョンに共感していただけた方に入っていただくようにしています。
専門とする産業分野はとくに限定していませんが、会員にはまちづくり・建設系、IT系などの業種でとくにサステナビリティに意識の高い方が多く見られます。
「テーマ型コミュニティ」についてご説明をお願いします。
施設名には「東京」とありますが、都内に限らずさまざまな地域のまちづくりとサステナブルビジネスを結びつける活動を行っています。たとえば、取り組みの一環として、当施設の取り組みに興味を持たれた自治体に加入していただく「パブリックパートナー制度」があり、現在9自治体が登録されています。
具体的なコラボレーション事例としては、当施設のパブリックパートナーである神奈川県真鶴町と法人会員のGroove Designsの取り組みがあります。Groove Designsが開発した、住民のまちづくり参画を促して合意形成を図るためのアプリケーションを活用し、真鶴町公園リニューアルに伴う活用主体の発掘を行いました。これによって、通常の会議体では意見しづらい層や仕事で会議に参加できない層からも意見を集めることができ、より幅広い声を都市計画に反映できました。
サステナビリティを軸に都市を変える。シティラボ東京がめざす、地球に優しい経済活動
シティラボ東京開設の経緯についてお聞かせください。
東京スクエアガーデン自体が都市再生特別地区という制度を利用して建設され、地域へ貢献する施設の1つとして「サステナビリティ」をキーワードとしたインキュベーション施設を開設。
現在世界規模で環境に関するさまざまな問題が話題になっていますが、CO₂排出やエネルギー消費の問題の3分の2以上は都市の経済活動が原因だと言われています。一方で、都市の経済活動が人々の暮らしを支えている側面も否めません。そこで都市のあり方をより持続可能な形に変えることで、地球全体にも貢献できる施設をつくろうと考えました。つまり、これまでの都市開発は「新しく街をつくっていく時代」でしたが、これからは「今ある街を使っていく時代」だと考えたのです。
また京橋という立地にも着目しましたね。この地域には老舗企業も多く、起業家が集うことでそれぞれが融合して新たな化学反応が起こるのではないかと期待しました。
右田さんのこれまでのご経歴とシティラボ参画のきっかけを教えてください。
幼い頃からものづくりが好きで、大学時代は建築学科に進学。建築を学ぶ中で都市計画に興味を持ち、大学院に進学した後、設計会社の都市企画部で都市開発に従事していました。ですからシティラボ東京に来る前は、どちらかというとインキュベーション施設の開設を提案する側の立場だったんです。提案業務を進めていく上で「インキュベーション施設の具体的な運営の実態を見てみたい」と思い、2021年にアーバニストへ入職。それ以来、副業で都市開発に携わるかたわら、プロジェクトマネージャーとしてシティラボ東京の運営に従事しています。
実際に運営に携わってみて感じるのは、これまでの都市開発での経験が活かされる場面が多いということ。都市開発に携わっていた頃から、建物を建てる前の地域の課題や将来のビジョンについて地域の人々と意見交換をする機会が多かったので、今でも会員との会話の中から課題やビジョンを見出し、適切なマッチングにつなげることができています。また、まちづくりにおける課題をよく理解していることで、会員の相談に乗る上で役立つことも少なくありません。
人と人を紡ぐコミュニケーターの挑戦──シティラボ東京が生み出す新たな化学反応
シティラボ東京には、さまざまなコミュニケーターが在籍していると聞きました。
はい。現在、ディレクターの平井 一歩と私を含めマネージャーが2人、そのほか6人のコミュニケーターが会員と積極的にコミュニケーションをとっています。業務内容としては、日常の施設運営の他、イベントの企画・運営や会員同士のマッチング、外部の方からのご相談に対応しています。
まちづくりをバックグラウンドに持つアーバニストの特性を活かし、イベントは公民連携のまちづくりやサステナブルビジネスを絡めて考えるものが多いです。主催するもの、貸室のものなどを合わせると、年間200件ものイベントを実施しています。
一方でマッチングにも力を入れていることが特徴で、会員や外部の事業者の話をよく聞き、その事業に適した人材や機会があれば、積極的におつなぎしています。
これまでの運営の中でとくに印象深い出来事を教えてください。
参画当初から企画している「Meet up」というイベントはとくに印象深いですね。2カ月に1回ほど夜の時間帯に実施し、飲食を交えながら現在の取り組みについて会員5~6組に発表してもらいます。
もともと、会員同士の交流を生むようなイベントを実施したいという思いで初めて、当初は雑談を楽しんだり、外部の方を呼んで話題提供してもらったりしていたのですが、目的がないとなかなか人も集まりにくいことに気がついて。それ以来、新しく加入した会員や新しい事業を始めた会員の発表、交流の場として定着しています。
どんなところにやりがいを感じていますか?
適切なマッチングを実現できた時はうれしいですね。話を聞いて、「その事業をするなら、この人・自治体を紹介するのがよさそうだ」と判断し、適切な紹介先を見つけ出します。人と人との関わり合いになるので、予想外の出来事が起こるのも刺激的です。時にはよい化学反応が起こって、コミュニティ内で新たな事業が生まれることも。人と人とが関わり合うことで多くのアイデアが溢れ出し、対応に追われることもありますが、そんな時は忙しいながらもワクワクします。
積極的な活用を促す施設づくりへ。シティラボ東京が挑む新たなコミュニティ形成
今後どのような起業家に加入してほしいですか?
シティラボ東京のテーマである「持続可能なまちづくりのためのビジネス創出」に合致するマインドを持つ方々をお待ちしています。つまり、単に起業をめざすのではなく、街の持続可能性に対する課題感を共有できる方々に入っていただきたいですね。そういった方々を集めることで、新たなネットワークが生まれることを期待しています。
INCU Tokyo登録のきっかけや今後期待していることについてお聞かせください。
インキュベーション施設同士の情報交換や交流はもちろん、施設のPRや人材育成研修などの機会も得られることからINCU Tokyoに登録しました。東京都という公的な存在にサポートしてもらえるので、自分たちの取り組みに自信が持てるように思います。すでに人材育成研修にも参加させていただき、他の施設の運営者や関係者と顔を合わせて多彩な施設のあり方を肌で感じられたのはとてもありがたく思っています。
今後は実際に他の施設にお邪魔して、設備や取り組みを自分の目で見られる視察の機会があったらうれしいですね。
最後に今後のシティラボ東京の展望について教えてください。
私はシティラボ東京の最も重要な役割の1つとして、マッチングの仲介役があると思っています。そのためにとくに大切にしていきたいと思っているのが、会員やパブリックパートナーが主役になるような機会を増やすこと。イベントで外部の方を招いてお話ししていただくのもよいのですが、時には会員が発表する場やパブリックパートナーに焦点を当てたイベントがあってもいいのではないかと、今検討しているところです。
また会員の中にも、積極的に施設を活用してくれている方とそうでない方がいると感じていますので、多くの会員に「積極的に活用していきたい」と思ってもらえるような施設づくりをめざし、コミュニケーションの活性化を図りたいと思います。
記載内容は2024年11月時点のものです。
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