Interview

正面を向いている原氏
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大企業とスタートアップの文化を掛け合わせ、日本企業の「本気」を引き出す

Inspired.Lab

「日本の企業は、まだ本気を出しきれていない」。そう語るのは、Inspired.Lab所長の原 剛氏。大企業も「出島」として入居するInspired.Labでは、新規事業におけるKPI設定から事業モデル、営業モデルの確立まで伴走支援しています。企業の本気を引き出すための取り組み、そして原氏の想いとは。

プロフィール

1993年卒、国内外のIT企業を経て、2016年株式会社SAPジャパンに入社。2018年より、三菱地所との共同事業、Inspired.Labに参画。2019年オープンに向けて、デザインシンキングをベースに、想定する利用者の立場に立って、場を設計。オープン後は所長として、入居者の新規事業の立ち上げを伴走。

ビジネスモデルと営業モデルを確立。3つの「P」で新規事業創出を伴走支援

Inspired.Labのエントランス

まずは、Inspired.Labの特徴を教えてください。

Inspired.Labは、私が所属するSAP ジャパン株式会社と三菱地所株式会社が共同で運営するインキュベーション施設で、新規事業の創出を大きな目的としています。入居者は建設、エネルギー、モビリティなどさまざまな大企業の新規事業担当者と、先端テクノロジーを持ったスタートアップ企業。大企業が新規事業を立ち上げる際の伴走支援、スタートアップが成長するためのサポート、そしてスタートアップが持つ世界レベルのテクノロジーと大企業のリソースを掛け合わせるための支援をしています。

そのためのキーワードは3つの「P」。1つめは「People」。バックグラウンドの異なる人たちとネットワークを持つこと。2つめは「Process」。新規事業創出のためのプロセスを知り、自走できるようになること。3つめは「Place」。既存事業と異なる文化の場所を提供すること。大企業は自社のオフィスもありますが、Inspired.Labを「出島」と位置付け、あえて違う環境で違う文化の人たちと仕事をすることで創造性を高めることができます。

設立には、どのような背景があったのでしょうか。

SAPはERP(統合基幹業務システム)を提供する会社です。しかし、ERPの導入・運用で会社のデータが可視化されることがゴールではありません。その先の、新規事業の創出までサポートしたいと考えています。

その方向性と、三菱地所の「大手町・丸の内エリアでスタートアップのエコシステムを構築したい」という意向が合致したことが設立の背景です。

新規事業創出のために、どのような伴走支援をしていますか?

アイデアをビジネスモデルとして確立し、誰もが売ることのできる営業モデルに落とし込むまでを支援します。

新規事業を生み出すためにはまず、領域や規模を決め、必要な業務やKPIを整理すること。その上でビジネスモデル、営業モデルを確立していく必要があります。そのため、私たちはSAPのノウハウを活かしたワークショップをはじめ、KPIの設定やユーザーヒアリング、営業資料や営業先のアドバイスまで、まさに「伴走」しながらかなり細かくサポートします。

また、施設内には3Dプリンターなどもあり、専門家のアドバイスのもとプロトタイプを作ることもできます。さらに、三菱地所が所有する物件で実証実験をしたり、街づくりプロジェクトの中に実験を組み込んだりということも可能です。

さまざまな企業と事業を生み出したい──パートナー営業から新規事業創出支援へ

入居者の相談に乗る原氏

原さんのこれまでのキャリアを簡単に教えてください。

ずっとIT業界でキャリアを積んできました。30代前半まではネットワークのスペシャリストとしてインストラクターなどを務め、その後10年ほど営業職を経験。SAPには2016年に入社し、最初はパートナー営業を担当していました。現在のイノベーション関連の業務に携わるようになったのは2018年からです。

Inspired.Labの運営に関わるようになったのは、どのような経緯だったのでしょうか。

パートナー営業をしていたことがきっかけの一つです。SAPのパートナー企業の多くはIT企業だったのですが、建設現場の DX推進のために建設機械の会社とスタートアップ企業を設立したことがありました。これを機に、ITに限らずさまざまな企業と共に新規事業を生み出していこうという流れができたのです。

そこで、SAPが実施しているイノベーティブな場所をデザインするためのデザイン思考をベースにしたワークショップ(MOSAIC)に三菱地所のメンバーと共に参加したり、海外の施設を見学したりしてInspired.Labを作り上げました。

新規事業創出の伴走支援をする上で心がけていることはありますか?

まずは「People」、「Process」、「Place」をサポートすることです。スタートアップ側も大企業側も、これまで会ったことのない業界や企業の人に出会える場ですから、その関係をどれだけ作ってあげられるかが大事だと思っています。そのため、ビジネス的な観点からつなぐだけではなく、お酒を飲みながらビジネス抜きにフラットに語れる場も用意しています。

お互いを尊重しながら、既存の価値観と新たな価値観を両立させることが大切

Inspired.Labの工房

インキュベーションマネージャーとしてのやりがいを教えてください。

大企業とスタートアップが混ざり合うことで、お互いに良い変化が起きていくことです。とくに、大企業側の変化は印象的ですね。

大企業の社員は、とても優秀な人が多いんです。けれど中には、その自立性、創造性を発揮しきれていない人もいます。それが、Inspired.Labという「出島」で新規事業創出という仕事をすることで開花していく。さらに、その社員の変化や実績を見て、組織全体へと変化が波及していく様子を見ることはうれしいですね。

また、新規事業を生み出すためには、3つのPに加えて「Passion(情熱)」も必要です。事業とは、情熱に手法や技術を掛け算して生み出していくものですから、熱い志を持ったスタートアップの方たちと接することで大企業側も良い影響を受けているようです。

入居している皆さんが、自然と「ギブ&ギブ」のスタンスになっていくことは、私たちの誇りです。

新たな事業が生まれるだけではなく、企業や社員の可能性が広がっているんですね。

日本の企業は、まだ本気を出しきれていないと思っています。大企業の場合、縦割りの組織になっていることが多く、組織を横断した連携が難しい場合がありますが、新規事業を生み出すためには多様な価値観が混ざり合うことが必要です。

組織体制やマインドがまったく異なるので、同じ企業の中で両立することは難しいのですが、お互いを尊重しながら共存することができれば、もっといろいろなことができると思うのです。Inspired.Labはその可能性を肌で感じることができて、おもしろいですね。

ギブ&ギブの精神で、インキュベーション施設それぞれの良さを混ぜ合わせたい

Inspired.Labのホットデスクエリア

Inspired.Labを通して実現したいことを教えてください。

日本人はとてもクリエイティブな民族で、実際にこれまで多くの世界的企業が生まれています。けれど、いつの間にか仕組みを作って回していくことが重視されていくようになった気がします。もちろん、仕組みも重要なのですが、クリエイティブ性を失ってしまうのはもったいない。両立できる方法を探していきたいというのが私の想いです。

そして、ビジネスだけでなく会社という垣根を超えて社会課題の解決に取り組むなど、世の中を良くしていくことに挑戦していきたいですね。会社、個人だけの最適でなく、世の中全体の最適のために何ができるかを日々考えることを意識しています。

今回、INCU Tokyoに加入された理由と、期待していることを教えてください。

他のインキュベーション施設がどのような取り組みをしているのか、さまざまな知見を得たいということが大きな理由です。

起業家支援という領域でも、もっとギブ&ギブの精神が広げられると思っています。施設運営における課題は多くの施設で共通していると思うので、INCU Tokyoというコミュニティの中でお互いにノウハウをギブできるといいですよね。

支援内容もさまざまですから、入居企業が成長していくためにベストな施設を紹介し合えるようになると、入居者も施設もさらに幸せになれると考えています。それぞれの施設の良さを混ぜ合わせて、東京だけではなく全国にたくさんあるインキュベーション施設を盛り上げていきたいですね。

記載内容は2024年10月時点のものです。

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