Interview
自然や農業を身近に感じながら、「村」のように助け合える温かいコミュニティをめざして
緑に囲まれたエントランスと、縦に長いビルが目を惹くRYOZAN PARK GREEN。巣鴨・大塚エリアに5つのビジネスコミュニティを展開するRYOZAN PARKの一角で、主に環境問題や都市農業に取り組む起業家を支援しています。オーナー兼インキュベーションマネージャーの竹沢 徳剛氏が、施設の特色や魅力を語ります。
プロフィール
1981年豊島区生まれ。米国で記者を務め、東日本大震災を機に帰国。2012年にシェアハウス「RYOZAN PARK巣鴨」、2014年に託児所付きシェアオフィス「RYOZAN PARK大塚」、2024年に「RYOZAN PARK GREEN」を開設。地域とのつながりを大切に東京の「村づくり」を実践中。
都心にいながら土や自然と触れ合える空間を。巣鴨・大塚の関連施設を横断的に利用可能
まずは、RYOZAN PARK GREENの特徴を教えてください。
RYOZAN PARK GREENは、環境問題や都市農業にチャレンジする起業家を支援するインキュベーション施設です。大塚駅から徒歩6分の立地で、建築家の平田 晃久氏が手がけたビルは、建物の中央を緑の滝が流れるようなデザインで、目の前にある公園ともつながるような設計になっています。都会で暮らしていると忘れがちな、自然との一体感や野生の感覚を大事にしたいという想いから、このようなつくりにしました。
10階建ての複合ビルのうち、1階はレストラン、2階と3階がインキュベーションオフィスで、特化型設備付きのラボ、個室オフィス、固定席を設置。4~10階はSOHO利用可能な居住エリアで、住人ともコラボレーションができる空間として、フレキシブルスペースや屋上菜園もあります。
小さな理科の実験室のようなラボには、垂直農業のタワーが設置され、野菜やハーブを育てています。ここには冷蔵庫やIHクッキングヒーターもあるので、試作品を調理したり、ハーブを摘みながらミーティングしたりすることも。身近なところでアクションできる環境を整えることで、新しいアイデアが生まれやすい空間になっています。
RYOZAN PARKという施設は、GREEN以外にも複数あるんですよね?
私たちが運営するRYOZAN PARKは、巣鴨と大塚という2つのエリアに5つの建物を有し、それぞれが徒歩15~20分圏内。各施設にはシェアオフィスはもちろん、シェアハウス、インターナショナルプリスクール、シェアキッチン、ギャラリー、イベントスペースなど、さまざまな機能があります。
RYOZAN PARK GREENの利用者は、これらの施設やサービスを横断的に利用できるのが大きな特徴です。また、千葉県の鴨川市にはシェア農場があり、有機玄米の土づくりから田植え、収穫までを体験することも。都市部に拠点を置きながらも、土や自然と触れ合える環境を提供することをめざしています。
きっかけは東日本大震災。昔ながらの「村」のように助け合える新たな共同体をつくる
竹沢さんがRYOZAN PARKの運営を始めた経緯を教えてください。
きっかけは、2011年の東日本大震災に遡ります。当時私はアメリカのワシントンD.C.で生活していたのですが、被災地のために何かしなければと現地で募金活動を始めました。そこで目にしたのは、多様なバックグラウンドを持つ人々が日本のために一丸となって協力する姿。日本にルーツを持つ人、日本に行ったことがある人など、さまざまな人々が一生懸命行動を起こしてくれたんです。
その経験から、「日本にも多様性を受け入れ、助け合える新たな共同体をつくりたい」と考え、帰国後にRYOZAN PARKの構想を始めました。
私の実家は豊島区巣鴨で不動産事業を営んでいるため、巣鴨にあるビルをリノベーションし、いろんな国・地域の人が家族のように暮らせる施設をつくりました。RYOZAN PARKという名前は、中国の古典『水滸伝』に登場する「梁山泊」に由来します。志のある人たちが集まる場所、みんなでいろんなことにチャレンジして何か大きなことを成し遂げるコミュニティ──そんなイメージを持って名付けました。
RYOZAN PARKはどんなコミュニティをめざしているのでしょうか?
事業を経営する上で利益を上げることは大切ですが、単に金儲けだけをめざすことには違和感を覚えます。自分たちの人生や家族、仲間たちとのつながり、自然に触れる機会も大事にしながら生きたい──この想いに共感いただける方に集まってほしいなと思っています。
実は豊島区は、東京23区でありながら消滅可能性都市と言われた自治体の1つなんです。一時期は保育園の待機児童問題が深刻となり、子育てしにくい街というネガティブなイメージもありました。
そんな中、RYOZAN PARKではシェアハウス内でカップルが20組も誕生し、30人以上の子どもが生まれています。それに伴って子育てしながら働く女性も増えていきました。
そこでこれから結婚するカップルや子供が生まれる家族も一緒に、どんな環境なら仕事と子育てを両立できるかを考え、シェアオフィス内に託児所やプリスクールをつくったんです。
仕事をしながらでも、わが子が初めて言葉を発した瞬間、初めて歩いた瞬間を見ることができるのは、働くお母さん・お父さんにとって大きな喜びになるはず。また、オフィスやコミュニティの中で、いろんな人の助けを借りながら子育てできることは、とても心強いのではないでしょうか。
都会では、マンションの隣人がどんな人なのか知らず、話すこともないというケースが珍しくないと思います。私たちがめざすのは、日頃から密にコミュニケーションを取り、困った時に助け合える、昔ながらの「村」のような新しい共同体です。
ここでの出会いや経験が人生を変える。起業家たちが元気になるコミュニティでありたい
これまで起業支援に携わってきた中で、とくに印象に残っている出来事を教えてください。
1つは、数年前にRYOZAN PARKメンバーのカナダ人男性が大塚のシェアオフィスでコーヒーイベントを開催した時のこと。そこに参加した1人の会員が、スペシャリティコーヒーの素晴らしさに目覚め、本格的にコーヒーの勉強をスタート。その後、地元に家族と一緒に戻り、カフェ併設のシェアオフィスを開業したというエピソードがあります。
また、RYOZAN PARKの元会員の方が地元にUターンし、シェアハウスやコミュニティづくりを始めた、という事例も多くあります。ここでの出会いや経験をきっかけに人生が変わる──そんな場所になっていることは、とても喜ばしいですね。
豊島区や地域住民を巻き込んだ取り組みも生まれたそうですね。
シェアハウスに住んでいた女性が、自分たちで出した生ごみを使ってコンポストをつくり始めていたのですが、それを施設のすぐ前にある公園のガーデニングやプランターに活かそうと考えたんです。そこで区の担当課につなぎ、地域の皆さんと一緒にコミュニティガーデン部をつくり、活動しています。防災訓練の時には炊き出しをして、1人暮らしの高齢者の方々にも喜んでもらえました。まさに施設を超えた「村」のような集まりになったのが嬉しかったです。
また、プリスクールで出会ったお母さん同士が、お互いにビーガン料理に興味があったことをきっかけに、2人で事業を始めることになった、という事例もあります。わが子だけでなく、すべての子どもたちに身体に良いものを食べさせたいという想いからの起業だと思いますが、RYOZAN PARK内には「誰かを喜ばせたい」という利他の心を持つ方が多いと感じますね。
起業支援をする上で、心がけていることを教えてください。
起業家の皆さんの「これをやりたい!」という内なるパッションや元気が溢れる空間をつくりたいと思って日々取り組んでいます。たとえば、ひな鳥が孵化する時って、親鳥が外側から卵を突くじゃないですか。でも、その突く力だけでは卵は割れなくて、内側のひな鳥が出ようとする力強いパワーがないと殻を破れないんです。ひな鳥=起業家たちが集まって相互に影響し合うことで、次々と新しいものが生まれていけば嬉しいですね。
また、RYOZAN PARK内では一緒にご飯を食べるイベントを多く開催しています。一緒に料理をしたり、同じ釜の飯を食べたりすることで、お互いを深く知り好きになれる。それが、困っている仲間にギブしたい、この人のために一肌脱ぎたいと思える関係につながっていくんだと思います。そんな想いが循環する温かいコミュニティでありたいですね。
環境問題は避けて通れない課題。起業家たちが自然や農業を通じて学べる機会をもっと
今後RYOZAN PARKとして挑戦したいことはありますか?また、どんな起業家さんに入居してほしいですか?
現在鴨川の有機玄米農家さんと提携しているため、会員の方は田植えや稲刈りなどの農業体験ができる、というお話をしましたが、今後はこうした取り組みをさらに広げたいと考えています。具体的には、九十九里にある500坪ほどの土地を農地化していく予定で、これが完成したらより本格的な農業体験を提供できると思います。
こうした話をすると、農業系や環境系の事業でないとRYOZAN PARKには入居できないの?と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。どんな分野であっても、私たちの想いやあり方に共感してくれる方であれば大歓迎です。
また、今後起業家にとって環境問題は避けて通れないトピックになるはずなので、自然や農業を通じて得られる学び、気づきは重要だと思っています。
ちなみにRYOZAN PARKには中島 明という腕利きのインキュベーションマネージャーがもう1人います。ぜひ、彼にも相談に乗ってもらってください。一丸となって応援します。
INCU Tokyoに期待することはありますか?
ビジネスをする上では、RYOZAN PARKというコミュニティ内のつながりと同じく、他のインキュベーション施設の起業家とつながることも非常に有意義だと感じています。シェアオフィスを利用する人というのは、小さな事業でも自分の力でやってみたいという独立心を持つ人ばかり。そういう方たち同士で情報交換し、悩みを相談し合えるのは嬉しいし、私自身もインキュベーションマネージャーとして、他の施設の同じ立場の方と話してみたいですね。
記載内容は2024年10月時点のものです。
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