Interview

正面を向く西田氏
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「共に歩む」を大切に──苦境と成長に寄り添う、四ツ谷のビジネス拠点

四ツ谷ビジネスラウンジ(六番町オフィス)

静かな環境と活気ある交流が調和する、四ツ谷ビジネスラウンジ(六番町オフィス)。20年以上にわたる経営者コミュニティの運営実績を活かし、スタートアップ企業や起業家の成長を支援しています。施設運営代表者である西田 泰武氏の、人と人とのつながりを大切にする支援の様子や、起業家たちに寄り添う姿を追います。

プロフィール

金融機関のシステム開発会社のエンジニアを経て、ベンチャー企業立ち上げ時に営業として新規開拓を担当。2007年、株式会社いかしあい隊に入社。経営者コミュニティの運営に携わる。2009年、株式会社CCP Consultingを設立。レンタルオフィスの運営、スタートアップ企業の支援を実施。

落ち着きとつながりが共存する、四ツ谷のシェアオフィス・セミナールーム

四ツ谷ビジネスラウンジの作業スペース

四ツ谷ビジネスラウンジ(六番町オフィス)の施設概要を教えてください。

四ツ谷ビジネスラウンジは、千代田区六番町に位置しています。この地域は皇居に近く、江戸時代には武家屋敷が多くあった歴史的な場所です。閑静な住宅街で、マンション開発が進む一方、昔からの大きな屋敷も残っています。典型的なオフィス街ではなく、雙葉学園や上智大学が隣接する静かな環境が特徴です。

また、当社のグループ会社が20年にわたって経営者コミュニティを運営しており、それを活かしてセミナールームでイベントを開催するなど、人と人が集まって情報交換できる場を提供しています。

どのような入居者の方が多いですか?

年代としては40代から60代の利用者が多いです。主にスタートアップの個人や少人数で利用されており、過去の経験を活かしてコンサルタントとして活動する方々が目立ちます。

また、この地域は教育に熱心な方が多く住むという特徴があり、教育関連の事業者も多く入居しています。具体的には、子ども向けや学生向けの塾、大人向けの英会話やイタリア語教室、さらにはアート関連の教室を運営する方々が多く見られます。これは土地柄を反映した特徴だと考えられます。

支援内容と、独自の強みがあれば教えてください。

主に営業面でのサポートを提供しています。とくに顧客開拓に関する相談が多く、20年以上かけて培ってきた経営者コミュニティを活用し、潜在的な顧客とのマッチングを支援しています。

また、社内スタッフのほか、外部の専門家を含む複数のパートナーが在籍しており、それぞれが経営経験を持つベテランです。中には業界でトップの実績を持つ方もおり、豊富な経験にもとづく実践的なアドバイスを提供できます。失敗事例や予兆の把握など、リスク面からのアドバイスも行っています。

“出会い”から始まるビジネスの進化──リアルな交流イベントが育む新たな可能性

四ツ谷ビジネスラウンジでのセミナーの様子

注力されているイベント開催について教えてください。

規模や業種はさまざまで、100〜150人規模の異業種交流会から、介護や不動産など特定業種に特化したイベント、出身地などの共通点でつながる小規模な集まりまで多様です。グループ会社と共同で開催することもあります。10年近く続けている100人規模の月1~2回の定期イベントもあり、参加者数は変動がありますが、継続することを重視しています。

イベントでの成果や効果はどのようなものがありますか?

新規顧客の獲得、提携先の発見、投資家からの資金調達など、ビジネス面での直接的な成果が生まれています。また、主催者側が把握していない場所でも、参加者同士の新たなつながりや協業が生まれていると考えられます。参加者が異なる視点や考えに触れることで、新たなインスピレーションを得られる機会にもなっています。

オンラインでの打ち合わせは要件のみで終わってしまいがちですが、リアルな場では雑談を通じてより多くの情報を得ることができます。直接会って話すことで、相手のことをより深く知りたいという欲求も自然と生まれてきます。これがリアルコミュニケーションを大切にしている理由です。

ランチ会も開催されているとのことですが、内容を教えてください。

たとえば、特定の商品を販売したい入居者がいれば、その人をキーにして関連する事業者の方や、その商品に興味を持ってくれそうな方を招いたりします。

また、入居者が外部の方とつながりたいケースや、外部の方が入居者と会うことで良い展開が期待できるケースなど、さまざまなパターンでマッチングを行っています。気軽な食事会から始めることで、参加者同士が自然と打ち解けて会話が広がり、その後の自発的な交流にもつながっていきます。

苦境の時こそ寄り添う──起業家と歩む支援のかたち

起業家の相談に乗る西田氏

ご自身のキャリアと、起業家支援に関わることになったきっかけを教えてください。

最初は銀行のシステムを開発する会社に就職し、システムエンジニアとして働いていました。約3年働く中で、スキルや成果とは別の要因が評価に影響する環境に物足りなさを感じ、20代という若さもあって転職を決意。

その後、設立して1年ほどのベンチャー企業の営業職に転身しました。システムエンジニア時代はパソコンの前でプログラミングをする毎日でしたが、営業では1日100~200件の飛び込み営業をするなど、まったく異なる経験を3年ほど積むことになりました。

その後、知人から声をかけてもらったことがきっかけで、経営総合支援企業に入社し、営業・コンサルティング業に従事しました。

この仕事では経営者と直接会う機会が多く、経営の視点を学ぶことができました。経営者との関わりを通じて、ビジネスの知識だけでなく、人を引っ張っていくためのエネルギーや人格など、必要な要素も見えてきました。

現在支援をする上で心がけていることはありますか?

日々接する方の年齢層は20代から70代まで幅広く、業種もさまざまなため、常に勉強を欠かさないようにしています。とくに、スタートアップ企業への対応では、正直なフィードバックを心がけています。うまくいかないと感じた時は適当な返事をせず、なぜ失敗する可能性があるのかを具体的に伝えるようにしています。

私の意見が必ずしも正解ではないかもしれませんが、思ったことを正直に伝え、問題点をクリアしながら進めていくことが重要だと考えています。また、さまざまな人との出会いを通じて自身も成長できるよう、多様な交流の場を作ることも意識しています。

支援の中でとくに印象に残っていることは何ですか?

最も印象に残っているのは、企業が苦境にあった時に支援し、それを乗り越えた経験です。たとえば、資金繰りに苦しむ企業と共に何カ月も奔走したケースや、大手企業との訴訟で苦しんでいた企業が勝訴して復活を遂げたケースなどです。

成功している企業の支援よりも、苦しい時期を共に乗り越えた経験の方が強く記憶に残っています。成功時は多くの支援者が集まりますが、苦境時に寄り添える人は限られており、そういった場面で力になれたことが印象深いと感じています。

経営が苦しい時期は、具体的にどのように対応されていますか?

その方の味方になってお話を聞くことが重要だと考えています。とくに経営者は不安で心細い時期に、家族にも相談できないことがあり、夜中に眠れなくて電話がかかってくることもあります。そういった時にただ話を聞くだけでも、何かの力や、踏みとどまるきっかけになれたりする可能性があります。具体的な解決策を提示するというよりも、精神的な支えになることを心がけていますね。

支援する中でやりがいを感じる時はどんな時ですか?

支援先の方から感謝の言葉をいただいたり、プライベートや会社での良い報告を受けたりした時に最もやりがいを感じます。たとえば、1人で経営していた社長さんが若い社員を雇用し、その社員が5年後に結婚したという報告を受けた時などは、会社が社員の人生を支えられるまでに成長したことを実感でき、とても嬉しく感じます。

必ずしも大きな経済的成果だけでなく、支援先の方々が幸せそうに過ごしている様子を見聞きできることが、私にとって大きなやりがいとなっています。

明るく、楽しく、前向きに──多くの方が自己実現できる場をめざして

四ツ谷ビジネスラウンジの窓側の作業スペース

今後どのような方に施設を利用してほしいと考えていますか?

起業というと大それたことをする印象かもしれませんが、現在は会社で働く以外にも収入を得る時代に移ってきていると思います。いろんな方の自己実現をするためのお手伝いができればと考えているので、特定の業種に特化せず、多様な方々に来ていただきたいです。

これは私の作ったモットーなのですが、「ATM」、つまり「明るく(A)」「楽しく(T)」「前向きに(M)」という姿勢を持った方々に集まっていただきたいです。そういったポジティブなエネルギーを持つ人々が集まることで、コミュニティ全体が活性化すると考えています。

また、新しい技術やサービスに挑戦する企業や、若くてチャレンジ精神旺盛な方々にはとくに魅力を感じます。そういった方々から私たちも学びを得られ、それを他の利用者に還元することで、良い相乗効果が生まれると期待しています。

「INCU Tokyo」に期待することはありますか?

起業家に対する補助金や助成金、創業融資などの有益な情報提供を望んでいます。また、現在の大きな課題として、金融庁の規制により、バーチャルオフィスを利用する事業者の銀行口座開設が厳しくなっており、事業開始の障壁となっています。インキュベーション施設認定企業への優遇措置など、何らかの改善策があればと考えています。

今後の目標や施設としての展望をお聞かせください。

現在約150社に契約していただいている中で、年間50人程度の起業家を生み出せる施設をめざしています。現状では目標の半分程度の実績ですが、より多くの方に起業への興味を持っていただけるよう情報発信を行っていきたいと考えています。

また、オンラインでの支援も行っていますが、リアルな交流にも引き続き重点を置き、人と人とのふれあいを大切にしながら支援していきたいと考えています。

記載内容は2025年1月時点のものです。

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