Interview
大手町でFinTech企業を支援。金融を軸に起業家と多様なステークホルダーをつないで描く未来
世界有数の金融の街・大手町エリアを拠点に、金融(Finance)と技術(Technology)を掛け合わせたFinTechの新規事業創出をめざすインキュベーション施設「FINOLAB」。メンバーシップチームリーダーを務める柴橋 遼太氏が、施設の強みや支援のやりがい、描く未来を語ります。
プロフィール
2013年に新卒で三菱地所株式会社に入社。商業施設のテナントリーシングを担当し、その後商業施設やホテルの開発用地の取得業務に従事。2020年より現在のイノベーション施設運営部に異動し、当初よりFINOLABを担当。2021年より運営会社である株式会社FINOLABに出向し、メンバーシップ業務を中心に施設・コミュニティ運営に携わっている。
日本の金融の中心地・大手町にある、FinTechに特化したインキュベーション施設
FINOLABの概要や特徴を教えてください。
FINOLABは2016年に三菱地所、電通及び電通総研(旧電通国際情報サービス)の共同プロジェクトにより、FinTech分野に特化したインキュベーション施設として誕生しました。日本のFinTech業界の発展とともに歩み、2017年に大手町ビルに拠点を構えてからは、拡張とリニューアルを重ねて着実に成長してきました。2019年には運営会社として株式会社FINOLABを設立し、より柔軟かつ戦略的な運営が可能になりました。
現在、FINOLABには約80社の会員企業が登録しています。その顔ぶれは多岐にわたり、スタートアップ会員、業界団体会員、企業会員とFinTech業界の多様な国内外のステークホルダーが集結しています。私たちは、この多様性こそイノベーションの源泉だと考えています。
ひと口に「FinTech」と言っても、会員企業が展開する事業はさまざま。決済や国際送金、保険といった金融サービスを提供する企業はもちろん、セキュリティやAI領域など金融機関とのシナジーが高い分野の企業も多数参画しています。さらに、最近では将来的に金融領域との新しいイノベーションが期待される分野の企業も加わり、コミュニティとしての裾野を広げています。
会員企業を支援する上での強みはなんですか?
私たちの強みは、単にFinTechに特化しているだけではありません。大手町という日本の金融の中心地に立地していることも大きな利点ですし、設立当初から「FINOVATORS」という金融領域のプロフェッショナル集団にも協力いただきながらコミュニティを構築してきました。これにより、メンタリングなどの支援も充実。国内初のFinTech特化型拠点として、FINOLABはシンボリックな存在だと思います。
また、FINOLABではコミュニティを活性化させるネットワーキングや、イノベーションの創出を目的とした多種多様なイベントを開催しています。週に一度のミートアップやテーマ別の勉強会(「金融×異業種」シリーズなど)、地方自治体や規制当局、大使館などと連携したイベントを定期的に開催すると共に、年に一度は国内外の多様な金融イノベーションのステークホルダーが集まるグローバルカンファレンス『4F(Future Frontier Fes by FINOLAB)』も開催。施設設計においても、会員企業同士の自然な会話が生まれやすいように、日中は無料でコーヒーなどが飲めるカフェエリアを設けるなどコミュニティ形成を支援しています。
さらに、社会課題を解決しようとするシードからアーリーステージのスタートアップ支援を目的とし、創業期からハンズオンでのサポートを行い成長軌道に乗せていくことに特化したFINOLAB FUNDや、事業創出支援、実践的研修・人材育成ワークショップ、バックオフィス業務のシェアリングサービス「SUBPOSI」などイノベーション創出に向けて多面的なサポート機能を有しています。
三菱地所で学んだ「現場やお客さまの声の大切さ」をFINOLAB運営にも活かしたい
柴橋さんが起業家支援に携わるようになったきっかけを教えてください。
私は2013年に三菱地所に入社しました。就職活動の時、目に見えて分かりやすく社会的な影響力が大きいデベロッパー業界に注目していたこと。中でも三菱地所は大手町・丸の内・有楽町という日本の中心地の街づくりの歴史とノウハウを持っていたことが入社の決め手でした。また、選考過程で出会った社員の方々が、非常に真摯かつ丁寧に接してくれたことも大きかったですね。
入社後は、商業施設のテナント誘致業務や商業施設・ホテルの用地取得を担当。机上の計画だけでは見えてこない現場の実態や予想外の事態に対処する能力、そして何より「お客さまの声」を直接聞くことの大切さを、身を持って学びました。
その後、2020年にFINOLABの担当となり、2021年より株式会社FINOLABに出向。それまでスタートアップ企業と関わったこともオフィス事業の経験もなかったので、当初は右も左もわからない状態でしたね。さらに、コロナ禍の時期で、施設運営にも大きな影響がありました。しかし、それまで担当していた商業施設の業務とはまったく異なる世界に挑戦することは、新たな知識や視点を得る機会だと前向きに捉えました。
柴橋さんが施設運営をする上で大切にしていることはなんですか?
1つは、コミュニティ内でのフラットな関係性です。CEOや担当者といった役職に関わらず、カジュアルなネットワークが生まれるような場をつくりたいと考えています。会員同士がなんでも話しやすい環境を作り、かつ運営メンバーとしては一つひとつの声を拾いながら迅速かつ適切に対応していく。これは、商業施設での経験から学んだ「現場の声を大切にする」という姿勢が基盤になっています。
もう1つは、FinTech業界や会員企業の情報に常にアンテナを張り、新しい技術や市場動向、各企業の強みや課題を正確に把握すること。そうした情報をもとにスタートアップ企業と大手企業、投資家、さまざまな分野の専門家をつないで最適なマッチングを実現すること。それが私の役割だと考えています。
成長企業やIPO企業も複数輩出。フェーズに合わせた最適な支援を行うのがやりがい
これまでの支援の中で、とくに印象的な出来事を教えてください。
個別の支援に関する話ではないですが、さまざまなスタートアップ企業が各社ごとのフェーズに合わせてFINOLABが提供する価値をうまく活用いただけているかと思います。ネットワーキングや事業開発支援、イベントや各種媒体を通じてのPR支援、ファンドからの出資、各種金融ライセンスのセキュリティ要件を満たしたオフィス機能など、必要な支援を必要なタイミングで享受できる環境が整っていますし、FinTechに特化しながらもさまざまなフェーズの企業がいることで、多くの体験価値を会員間で共有し合うこともできます。1〜2名で立ち上げた小さな会社が、FINOLABのネットワークや事業開発支援などを活用しながら成長していく過程は運営メンバーとしても非常に嬉しく、人員増に伴うオフィススペースの拡大、IPOの達成など目に見える形で企業の成長を間近で実感できるのもこの仕事の醍醐味だと思いますね。
起業家支援という仕事のどんなところにやりがいを感じますか?
私たちの役割は、さまざまな成長フェーズにある企業すべてにとっての伴走者であることです。各社の成長フェーズや事業特性に応じた支援メニューを拡充しながら、適切なタイミングで適切なサポートを提供する。それによってスタートアップ企業のダイナミックな成長プロセスに寄り添えることに大きなやりがいを感じますね。
サポートする時に心がけているのは、おつなぎする双方の期待値コントロールです。たとえば、スタートアップ側は積極的な営業を望んでいても、大手企業側は少し話を聞きたいだけという場合もあります。そのため、双方には事前に適切な情報を提供し、打ち合わせの目的やめざすゴールをしっかりと認識してもらった上で引き合わせることを重視しています。これにより、時間を無駄にせず、双方にとってメリットのある形で着地できると考えています。
また、ニーズに対して適切なライトパーソンにつなげることも重要視しています。単にネットワーキングの場を提供するだけでなく、運営側も積極的に動くことでより実りある出会いや協業の機会を創出することを心がけています。
私は、FINOLABでの経験を通じて「スタートアップ支援には正解がない」ということを学びました。だからこそ、わからないことはわからないと素直に認め、謙虚な姿勢で学び続けることが重要だと実感しています。また、カジュアルなコミュニケーションを大切にしながらも、ビジネスの本質を見失わない姿勢が成功への鍵になると信じています。
FinTechの最前線に立ち、志のある起業家たちをこれからも支えたい
今後どんな企業にFINOLABを利用してほしいですか?
社会的なインパクトを与えるようなサービスを志す方たちを支援できたら嬉しいですね。とくに注目しているのは「金融と異業種との連携」です。FinTechという言葉自体が当たり前になり、さまざまな金融サービスが日常的に使われるようになった今、金融と他の産業との融合がますます重要になってきています。たとえば、サステナビリティやヘルステック、さらには宇宙産業と金融の掛け合わせなどこれまでにない新しい領域での革新的なサービスの創出を期待しています。
また、FINOLABはFinTechに特化した施設ですが、金融領域との関わりやストーリー性を持った企業であれば、幅広い業種の企業に参加いただいています。FINOLABのコミュニティを最大限に活用し、自社の事業を大きく成長させたいという強い意志を持った方にぜひ参加してほしいですね。そのために、私たちもコミュニティの幅を広げつつ、密度が濃く、質の高いコミュニティづくりをめざしたいと思います。
最後に、起業をめざす方やFINOLABに興味を持つ方にメッセージをお願いします。
FINOLABは長年培ってきたFinTechコミュニティのノウハウと、ネットワーキングに強みを持っており、その裾野は国内のみに留まらず、国外の多くのプレイヤーとの連携にも広がっています。その強みを最大限に活用していただき、皆さまの事業成長をサポートすることが、われわれができる価値提供だと考えています。
FinTechの世界は日々進化し続けています。その中で、FINOLABは常に最前線に立ち、革新的なアイデアと情熱を持った起業家の皆さまと共にFinTechの新たな未来を切り拓いていけることを楽しみにしています。
記載内容は2024年11月時点のものです。
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