Interview

郡氏がセミナーにて笑顔で話す様子
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VCの知見も活かした「お尻たたき型メンタリング」で、起業家の成長をブーストさせる

xBridge-Global NEXTHUB

「起業家がそれぞれの社会課題解決を実現している姿を見るのはとても刺激的」と話すのは、xBridge-Global NEXTHUBの施設運営代表者を務める郡 裕一氏。投資家としての視点も持ちながら、入居企業の成長のために密なサポートをしています。多くの起業家と接してきた郡氏が語る、起業家支援の醍醐味とは。

プロフィール

一橋大学在学中に創業期のエフ・コード社に入社、その後中国RenRen社にてプロジェクトマネージャーを経験後、Otsumu社を創業しIT開発やKPI改善コンサルティング、ベンチャーアクセラレーションプログラムを提供。2017年より日本SaaS特化のReality Accelerator、2020年より日欧米投資のNEXTBLUEファンドを立ち上げ General Partnerとして運営。

短期集中で成果をアウトプット。「YNKエリア」を海外ベンチャーの拠点に

xBridge-GlobalNEXTHUBのエントランス

まずは、xBridge-Global NEXTHUBの特徴を教えてください。

欧州やアメリカのベンチャー企業に投資を行っているベンチャーキャピタル「NEXTBLUE」が運営母体となっている施設です。建物は、2022年に東京建物株式会社によってリノベーションされた4階建てのビルで、1階はスペシャリティコーヒーを提供するカフェ、2~4階がオフィススペースとなっています。

入居可能な人数は最大40名ほどと決して大きくはないのですが、現在は10社ほどが入居。東京駅から徒歩5分、日本橋駅から徒歩1分という立地の良さもあり、メインオフィスだけではなく営業拠点としても利用されています。サステナブルな設計・デザインにこだわってリノベーションされた建物ということもあり、結果的にサスティナビリティに配慮したサービスを扱っている企業が多く入居していることも特徴です。

どのような背景から設立されたのでしょうか?

NEXTBLUEも海外での投資活動を通して、彼らを日本に連れてきたいという考えがあったのです。一方、東京建物さんは、八重洲・日本橋・京橋エリアを「YNK(インク)」と呼んで、イノベーションの拠点にしようとさまざまな取り組みをしています。その一環で、このエリアに海外の企業も集めたいという意向がありました。その想いが合致したことが設立の理由です。

現在はまだ、海外企業はスポット的に利用するケースが多いのですが、新たなアクセラレーションプログラムも始まりますので、これから海外ベンチャーの入居も増えていく予定です。

入居企業へは、どのようなサポートを行っていますか?

私たちのアクセラレーションプログラムは、3カ月から6カ月といった短期集中で行います。内容は非常にシンプル。毎週のアクションプランを立ててその進捗を確認していく、いわゆる「お尻たたき型」のメンタリングが中心のプログラムです。

たとえば、「来週までに共同創業者を見つける」といった明確な目標を設定し、それが達成できたか、できない場合はどこに課題があるのかを確認します。アウトプットが見えやすい目標を設けることで、企業側も自分で成果が見えることで成長が加速します。

また、私たちは投資家や事業会社とのネットワークがあります。ビジネスを成長させるための提携やお客さまの紹介などが可能です。

後輩のための毎週「お尻をたたく会」が原型。やりたいことと安定性を両立させる道を模索

郡氏がセミナーにて真剣に話す様子

郡さんのこれまでのキャリアを教えてください。

大学生の時に友人が設立したベンチャー企業でキャリアをスタートしました。その後、中国のソーシャルメディア企業に転職。日本向けにソーシャルゲームのプラットフォームを開発するチームのマネージャーを務めました。

そして、2010年に独立してOtsumu株式会社を創業。当初はソーシャルゲーム関連の事業を展開していましたが、次第にシステム開発や新規事業開発のコンサルティングの依頼が増えていったのです。

そのうち、大学の後輩たちから起業相談を受けるようになったので、毎週6社ほどをオフィスに集め、1社20分ずつアクションプランの進捗を確認する「お尻をたたく会」を開催するようになりました。これが現在のアクセラレーションプログラムの原型です。

そこからNEXTBLUEを設立するまでには、どのような経緯があったのでしょうか?

たくさんの起業家と出会う中でもっとも多く相談を受けるのは、やはり資金調達です。

もちろん投資家を紹介することもしていたのですが、年々相談件数が増えるので、物理的な限界が出てきました。ただ、私自身も数多くの起業家を見てきて、どういった企業が投資を受けているかという傾向も見えてきたんです。そこで、自分も投資する側に回ったほうが早いと感じてNEXTBLUEの前身となるベンチャーキャピタルを立ち上げました。

その後、別のベンチャーキャピタルに在籍中に同じ投資先に投資していたことがきっかけで、井上 加奈子とヴィンセント・タンの2人と合流し、NEXTBLUEを立ち上げました。

ご自身で会社を経営される中で、とくに大変だったことはありますか?

Otsumu株式会社でゲーム事業からコンサルティングに軸足を移した時期は、大いに悩んでいましたね。もっと大きな価値を提供したいという想いと、一生を賭けてやりたいことが見つからないというジレンマがありました。

その後、アクセラレーションプログラムを通じて多くの起業家をサポートすることで、より大きな価値が出せるのではないかと自分の中で答えが出ました。ただ、「お尻をたたく会」はもともとボランティアのような形で始めたため、収益化が課題だったんです。

最終的に、自分のやりたいことと経営の安定性、そしてリターンの両面をかなえるベンチャーキャピタルという形にたどりついたことで、悩みが解消されました。

必要なのは未来の自分を信じてもらうこと。投資家視点でのアドバイスが転機に

xBridge-GlobalNEXTHUBの作業スペース

起業家をサポートする際に心がけていることはありますか?

初期段階の起業家からは資金調達についての相談を受けることが多いのですが、「本当に投資が必要なのか」「他に良い方法があるのではないか」など、フラットな立場で話をすることを心がけています。

また、スピード感も重要です。起業家が1人で進めるよりも、私たちと共に取り組んでスピードが早くならなければ、一緒にやる意味がありません。そのため、フィードバックループの速さを意識するようにしています。

これまでで、とくに印象に残っている企業を教えてください。

一番に思い浮かぶのは、民泊/宿泊施設向け無人管理ソフトウェア事業や民泊/宿泊オペレーション事業をしているmatsuri technologies株式会社です。民泊のマーケットは新しい市場だったため、事業を進める中でさまざまな規制が入っていきました。さらに追い討ちをかけたのが、コロナ禍です。

「これは厳しいかもしれない」という局面が多々あったのですが、彼らはそのたびに新規事業を展開して危機を乗り越えていき、今では会社も大きくなっています。その粘り強さや生命力の強さは、本当にすごいなと感じました。

郡さんは、どのように関わっていたのですか?

私が関わりだしたのは、まだ売上もなくシステムを開発している時期です。とても資金調達に苦労していて、二子玉川のカフェで一緒に投資家向けのプレゼンを考えたのを覚えています。

彼らに限らず、地に足をつけた、私が「バリカタ系」と呼んでいる起業家によくあるのが、自分の会社をリアルに捉えているために現状をプレゼンしてしまって夢を語り尽くせないということ。でも、必要なのは未来の自分を信じてもらうことなんです。ベンチャー投資というのは、回収期間が長くかかるものですから、起業家の夢に投資している部分もあるのです。

その視点からアドバイスをして、投資のラウンドを開く時にサポートできたことは、良いきっかけになったのではないかと思っています。

起業家のバイタリティに自分の知識や経験を掛け合わせて成長を加速させたい

xBridge-GlobalNEXTHUBの会議室

起業家を支援するやりがいを、どんなところに感じていますか?

起業家は非常に優秀で魅力的な人が多く、私が想像もつかないことを実現しようとしています。しかも、それぞれの分野で深い知見を持ち、それをおもしろく語る能力を持っている人も多い。バイタリティにあふれた人たちが、自分にはできないことを実現している姿を見るのはとても刺激的です。そこに私の知識や経験を掛け合わせて、さらにブーストできた時は、とてもやりがいを感じます。

INCU Tokyoに加入された理由と、期待していることを教えてください。

xBridge-Global NEXTHUBは、私たちにとって初めてのインキュベーション施設です。そのため、運営ノウハウはまだまだ勉強中の部分も多くあります。他の施設がどのような取り組みをしているのか、実践的なノウハウを学びたいと考えたことが加入の理由です。

また、施設間で入居者の紹介ができたり、各施設で行われるセミナーやイベントの情報を一元化して、どの施設の会員でも参加できたりするようになれば、より広範囲な支援が可能になるのではないかと思います。

たとえば、NEXTBLUEの投資先は海外ベンチャーが多いので、海外展開をめざす日本の起業家にはより具体的なサポートができるはずです。こういった得意分野を活かしながら、コミュニティメンバーと共に密な支援をしていきたいと考えています。

記載内容は2024年10月時点のものです。

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