Interview
日本橋から始まるイノベーションの波。「THE E.A.S.T.」が切り拓くスタートアップ支援の最前線
2022年に三井不動産株式会社にキャリア入社した太田 聖氏。前職では、大企業とベンチャー企業の合弁会社にてシェアオフィスの運営や新規事業の立ち上げに携わってきました。現在はインキュベーターとしてTHE E.A.S.T.日本橋一丁目の運営を担当し、スタートアップの成長を支援しています。起業家たちとの日々の関わりを大切にする太田氏が、スタートアップエコシステム構築の醍醐味を語ります。
プロフィール
私鉄系不動産会社でリノベーション住宅の企画推進、シェアハウス・シェアオフィスの運営、新規事業企画に従事。2022年より三井不動産株式会社ベンチャー共創事業部(31VENTURES)に参画し、スタートアップオフィスTHE E.A.S.T.シリーズの運営、コミュニティ創出、共創支援を担当。Tokyo Innovation Base(TIB)のスターティングメンバーとしても活動している。
日本橋からビジネスを飛躍させる──スタートアップ専用オフィス「THE E.A.S.T.」とは
「THE E.A.S.T.」の概要と施設の特徴について教えてください。
三井不動産株式会社のベンチャー共創事業部が運営しているスタートアップ専用シェアオフィスシリーズで、日本橋エリアを中心に現在3拠点を展開しています。
E.A.S.T.は「Empowering Ambitious Startups in Tokyo」の略で、東京の志の高いスタートアップを支援したいという想いや、三井不動産のホームグラウンドである日本橋をメインとした東京の東側エリアの産業強化や賑わい創出をめざす想い、さらに、パートナー企業であるプロトスター株式会社と共に2018年ごろから進めている「イースト構想」の象徴的な場所としての意味を含めてこの名称が名付けられました。
THE E.A.S.T.の中でもフラッグシップ施設として位置づけられている日本橋一丁目は、コレド日本橋の5階に位置し、交通アクセスに大変優れた立地です。空間の特徴としては、6坪から25坪の個室が14室あり、賃貸契約でお貸し出ししています。
個室の大半は家具付きで提供しているため、スタートアップの方々がノートパソコン1台で入居できるような環境を整えています。また、コワーキングスペース、従量課金制の予約制会議室、オンラインミーティングブースなども完備しています。
当施設でサポートする上で、独自の強みや支援方法などはありますか?
特徴としては、アーリーステージのスタートアップに対して事業の成長にフォーカスできる環境を提供することです。このフェーズのスタートアップは、資金的な制約もあってワークスペースにコストをかけすぎるよりも、事業の拡大に集中したいはずです。そこで、適切な環境を提供することで、彼らの事業成長を支援したいという考えがあります。
これまでにも定期的なイベント開催や日常的な交流を通じて入居企業同士の温かいコミュニティが形成されています。事業成長や課題解決のために必要な情報交換ができる人間関係が育まれており、個社で取り組むだけでは得難い情報や知見が共有されています。たとえば、採用に関する情報交換や、バックオフィス同士のコミュニケーションなど、実務的な面でも相互支援が行われています。
創業期の企業と共に歩む喜び──40歳を前に見つけた、新たな挑戦
これまでの太田さんのキャリアについて教えてください。
以前は、大企業とベンチャー企業の合弁会社で働き、シェアハウスや新規事業の企画にも携わりました。その後、シェアオフィスの立ち上げチームに配属されたのですが、入居者の審査を行う中でスタートアップや創業期の企業との出会いがあったのです。
起業家らの持つ情熱や斬新なアイデアに触れるうちに、単に不動産業者として賃料をいただく立場に自分を限定せず、彼らと深い関係を築きながら一緒に事業を作り上げていけたらどれほどおもしろいだろうかと考えるようになりました。
そこから当施設の企画推進に関わられるようになった背景には何があったのでしょうか?
背景というほど大げさなものではありませんが、30代後半を迎え、「このままでいいのか」という漠然とした想いが心の中にありました。そして40歳を目前に控え、新しい環境に飛び込むなら今しかないという決意が芽生えたのです。
そんな中、縁があって三井不動産株式会社のベンチャー共創事業部が行っているオープンイノベーションの取り組みを知りました。そこには私が求めていた、より大きな社会的インパクトを与える新規事業に携わる機会、そして入居企業との関係を深めながら一緒に事業を作っていく可能性が感じられました。
こうして2022年、三井不動産に入社して「31VENTURES(サンイチベンチャーズ)」のメンバーとして業務をスタートさせました。ここでの私の役割は、ワークスペースとコミュニティの運営。とくに力を入れているのが、THE E.A.S.T.シリーズの運営です。
創業支援に携わるやりがいについて教えてください。
インキュベーター(施設運営を通じたオープンイノベーションの推進者)としての仕事にやりがいを感じているのは、スタートアップとの日々の関わりです。彼らの成長を間近に触れ、時には支援することができるのはとても刺激的です。また、三井不動産という大企業のリソースを活用しながら、スタートアップエコシステムの構築に貢献できることも、この仕事の魅力だと感じています。
長期的な視点で見ると、日本橋からスタートアップエコシステムを生み出すという壮大なビジョンに携わることができるのは、大きなやりがいがあります。不動産業界での経験を活かしつつ、オープンイノベーションの分野で自身の力を発揮できる。そんな環境に身を置けることに、日々感謝しています。
スタートアップ支援の鍵は現場にあり。フィジカルな接点が生む成長の瞬間
これまでの支援で印象に残っていることはありますか?
支援で印象に残っているのは、ソーシャルコワーキングの運営会社との関係構築です。彼らはTHE E.A.S.T.の入居企業であり、当社のCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)からの出資検討対象でもありました。
当初はステージが早すぎて事業の成長性が不明瞭だったため、投資を見送りましたが、入居中にTHE E.A.S.T.運営チームとの長期の接点を通じて小さなトライアルを積み重ねるとともに同社自身も事業成長をし、その後は当社の基幹事業であるビル本部が運営するシェアオフィス事業で協業仮説を構築し、結果として出資に至りました。
この例は、1年以上にわたる継続的な関わりによる「相思相愛」と表現できるような関係性の構築が、スタートアップ支援において非常に重要であることを示しています。一方的な努力ではなく、双方向のコミュニケーションと理解が必要なのです。
支援をする上で心がけていることについて教えてください。
スタートアップとの関係構築において、私が最も大切にしているのは「場にいること」です。THE E.A.S.T.の各拠点になるべく滞在するよう心がけています。これは何よりもまずは入居者が気軽に相談できる環境を作り、些細な相談も早期にこちらから拾えるようにするためです。
単純ですが、対面でのコミュニケーションの重要性はとても大きいです。メールや電話では拾いきれない、ちょっとした相談や最近考えていることなどを、自然な形で聞くことができます。これは、スタートアップの成長段階や課題を理解する上で非常に貴重な情報源となります。
また、ピッチイベントの開催にも力を入れています。正確にいうと、イベントだけではなくイベントに至るまでの丁寧なコミュニケーションを大切にし、社内と社外(スタートアップ)両方の人やサービス、テクノロジーの強みや課題を理解することを重視しています。これにより、継続的な取り組みにつながる体制を整えることをめざしています。
不動産を超えた新産業創出へ。スタートアップエコシステム強化に挑む「INCU Tokyo」への期待
今後、起業家やスタートアップ企業と何を実現したいですか?
当社は2024年4月に策定したグループ長期経営方針「&INNOVATION 2030」にて事業戦略として「新事業領域の探索、事業機会獲得」を掲げています。その中でベンチャー共創事業部は部門の設立以来、三井不動産グループの既存事業強化と新規事業開発を目的に、スタートアップとの共創に取り組んできましたが、今後よりいっそうそれを加速させていきたいと考えています。
これらの目標に向けて、不動産業の枠を超えた本当の意味での自社の強みを掘り下げながら視野を広げていくことが重要だと考えています。たとえば、今まで住宅しか手がけていなかった会社がオフィス事業に進出するのも新規事業ですが、私たちがめざしているのはそれ以上の新しい領域、社会に真の価値をもたらす新しい産業を生み出すことです。
そのためには、スタートアップとの連携はもちろん、大企業、アカデミア、行政など、様々なステークホルダーとの協力が不可欠だと考えています。
東京都のインキュベーション・コミュニティ「INCU Tokyo」に入られた理由や、今後への期待について教えてください。
このような大きな目標に向かって進む中で、私たちは東京全体、さらには日本全体のスタートアップエコシステムの強化にも貢献していきたいと考えています。グローバルな視点でスタートアップエコシステムを考えると、日本橋エリア単位だけではなく、少なくとも東京単位で考える必要があります。
そのため、各事業単位でのエコシステムに貢献していくことが重要だと考え、関連プレイヤーの皆さまとネットワークを築くことができるINCU Tokyoに登録しました。
このようなつながりを通じて、他のエリアで起こっていることとも連携できる可能性が広がります。たとえば、日本橋エリアで培ったノウハウを他のエリアに展開したり、逆に他のエリアの成功事例を日本橋に取り入れたりすることができるかもしれません。
また、INCU Tokyoを通じてスタートアップ支援に関わるさまざまな組織や個人と交流することで、新しいアイデアや視点を得ることもできると期待していますし、当社が支援しているスタートアップに対しても、より多様な支援や連携の機会を提供できると考えています。
このように、INCU Tokyoへの参加は、当社のイノベーション戦略の一環として非常に重要な役割を果たすと考えています。東京全体、そして日本全体のスタートアップエコシステムの強化に向けて、私たちも積極的に貢献していきたいと思います。
記載内容は2024年10月時点のものです。
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