Interview
技術支援とコミュニティで広がる起業家支援の新たなステージ
「ゴールドウェアパーク西麻布」の運営代表を務めている岸菜 圭一郎氏。IT業界での長年の経験とベトナムでの経営者としてのキャリアを活かして起業家支援に取り組んでいます。INCU Tokyoを通じてさらなる支援拡大をめざす岸菜氏が語る、起業家支援の魅力と展望に迫ります。
プロフィール
大手IT上場企業の部長、海外子会社(ベトナム)代表を6年間担当し、顧客ビジネスや自社ビジネス成功に向けたパイプライン作成を担当。20年以上のITプロジェクト経験で、大規模基幹システム、Webやアプリ開発の運営、SaaSビジネス立上げなどIT全般で活躍。2024年6月、ゴールドウェア株式会社に入社し、執行役員に就任。2024年6月、VOC(Vietnam Offshore Consortium)アンバサダー兼任。
システム開発と広告事業のノウハウを活かして総合的に創業を後押し
ゴールドウェアパーク西麻布の概要を教えてください。
西麻布や六本木という立地を活かしながら、創業期の企業をサポートする施設として運営しています。この地域は起業される方が多い場所ですが、創業期にはなるべく費用を節約したいもの。その点、当施設は入居しやすい料金設定で展開しているのが強みです。
もう1つの強みは、企業の成長段階に合わせて選べるプランを用意していること。個室も6部屋ありますので、事業が軌道に乗って従業員が増えてきた企業にも対応できるようになっています。
実際に施設を利用されている企業は、ITサービスの企業をはじめ、コンサルティングの拠点として使いたいという方も多くいます。中には、海外の方が日本で拠点を作るための最初の場所として当施設を利用していただくケースもあります。
サポートする上での特徴や強みはありますか?
施設をプロデュースしているゴールドウェア株式会社はシステム開発会社ということもあり、BtoCサービスの提供やECサイトの運営なども行っています。それらのシステムを利用した事業を始める際にサポートできることが特徴です。
また、広告事業の実績もあるので、プロモーションに関するアドバイスもできます。さらに、当社の代表は創業者でもあるため、創業に関わる手続きや考え方についてのフォローも可能です。
他にも、さまざまな経営者や、税務・会計、法務の専門家とのマッチングといった支援制度も整えています。とくに六本木エリアには経営者が多いので、そういったコネクションやコミュニティを紹介できることも強みです。
また、スタッフが常駐しているので、入居者の方が来られた際には気軽に話をしたり相談したりできる機会を作るようにしています。単なるオフィススペースの提供にとどまらず、創業期の企業に必要なサポートを総合的に提供することで、新しいビジネスの成長を支援しています。
IT業界から海外赴任を経て起業支援へ。建設的なアドバイスで成長を支える
岸菜さんはこれまで、どのようなキャリアを歩まれてきたのですか?
キャリアのスタートは、中堅のIT企業でのエンジニアです。人とのつながりを好む性格だったため、約10年間現場で開発やマネジメントを経験する中で、自然とPM(プロジェクトマネージャー)やPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)といったポジションに進んでいきました。
その後、ベトナムにある子会社の代表を任され、約6年間経営者として過ごす機会を得ました。東南アジアの豊富な人材とどう協業していくかが業界の課題となっていた中で、私がその役割を任されたのです。
ベトナムでの経験を通じ、コミュニティ内での自社のブランディングの重要性に気がつきました。SNSだけでなく、実際の人とのつながりを通じて信頼関係を築くことが企業の成長につながると実感したんです。
また、大手企業の駐在員は数年で帰国してしまうことが多いですが、私は継続的な活動ができる立場にあったので、現地の日本商工会議所で部会長を務め、幅広い活動を行いました。日本の大学教授から、学生のグローバル体験のサポートを依頼され、ベトナムの大学や企業との橋渡しをしたこともあります。
こういった経験を通じて、起業支援やコミュニティ支援に興味を持つようになり、帰国後にゴールドウェアグループに参加することを決めました。
施設の運営代表として、入居者とのコミュニケーションで心がけていることはありますか?
私がとくに重視しているのは、入居者の方たちのアイデアを否定しないこと。「何をどうしていくかを一緒に考える」ことが大切だと考えています。否定の言葉を口にしてしまうとアイデアが止まってしまうので、「こうしたらいいんじゃないか」というように建設的なアドバイスを心がけています。
起業家の挑戦を後押しするために──規制や障壁を越えるサポートの重要性
インキュベーション施設の運営に関わるようになってから、印象に残っていることについて教えてください。
施設運営を通じて、起業をめざす方の生の声を聞ける機会は非常に貴重だと感じています。とくに印象深いのは、事業計画の立案や資金調達など初めて経験することが多い起業家の皆さまの姿。経験豊富な方たちからアドバイスをもらえる環境の重要性を日々実感しています。
というのも、以前、自宅で起業した知人が、なかなか仕事を得られずに苦労する姿を見たことがありました。現在はインキュベーション施設などが増えたことで、起業のための環境が大きく変化していると感じています。
海外と日本で、起業に関する環境に違いを感じることはありますか?
とくにベトナムでの経験と比較すると、ベトナムでは20~30代の若い経営者が多く、判断が早いという印象がありました。一方、日本では、とくにB to Cサービスを始める際に直面する規制や障壁が、起業家の意欲を削ぐ要因になっていると考えています。
たとえば、さまざまなルールを守る必要があったり、予想外の障壁に直面したりすることに二の足を踏んでしまう起業家も少なくありません。これらの障壁を取り除く支援者の存在が必要だと強く感じています。若い世代が起業家精神を持ち、楽しく挑戦できる環境を作ることが重要なのではないでしょうか。
起業家を支援する際に大切にしている姿勢や、やりがいを教えてください。
彼らの抱える葛藤や悩みに寄り添い、応援する姿勢を持つことです。創業過程で直面するさまざまな課題や事業のジレンマについて話を聞くと、時にはもどかしさを感じることもありますが、それでも常に励ます立場でいることを心がけています。
その中で、支援した人が成功し、その後も良好な関係を築けることが一番のやりがい。単に支援するだけでなく、Win-Winの関係を構築し、長期的な信頼関係を育むことができるのは大きな財産だと感じています。
入居者同士のつながりの活性化で新たなビジネスチャンスへ
今後、どんな起業家やスタートアップ企業を支援していきたいですか?
現在入居しているようなコンサルティングやIT系の企業を中心に、IoT関連の製品やセンサーを作る企業も歓迎しています。
さらに、私たちが想像もしないようなビジネスを展開する方たちが入居すると、幅が広がっておもしろいのではないかと思います。最近では、近くにマンションを建てるから3カ月だけ借りたいという企業がありました。このようなニーズに柔軟に対応できることも、私たちの強みの1つだと考えています。
ゴールドウェアウェアパーク西麻布の展望について教えてください。
入居者同士のコネクションを最大化できるような環境づくりをめざしています。ある顧客に対して複数の視点で提案できるようになるなど、入居者同士が手を取り合ってビジネス展開ができるような関係性を構築したいですね。
また、当社で取り組んでいるベビーカーのシェアリングシステムのように、さまざまな商業施設や交通機関と連携したビジネスモデルを展開することで、入居者にもビジネスチャンスを提供できるのではないかと考えています。
私たちの施設を、ビジネスの可能性を広げる場所にしたいですね。
INCU Tokyoのメンバーとは、今後どのような連携を期待していますか?
さまざまな施設や企業、国籍の方たちとの交流を通じて視野を広げ、起業支援に関わる人たちのノウハウをよりオープンに共有できるようになることを期待しています。私自身も、エンジニア経験やベトナムでのエンジニア人材育成に関する知見などを活かせると思いますし、経営者同士が情報を共有できる場を提供したいと思っています。
さらに、技術面でのサポートも考えています。たとえば、スマートフォンで開錠できるシステムや各施設の利用状況をリアルタイムで把握できるシステムなど、施設運営に役立つ技術やノウハウを共有することで、INCU Tokyo全体の価値を高めることができるのではないかと思います。
記載内容は2024年10月時点のものです。
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