Interview
製薬会社での経験を活かして御用聞き。新木場を新たなライフサイエンスエコシステムの拠点に
三井不動産が運営する賃貸ウェットラボ「三井リンクラボ新木場2」。サイエンスコンシェルジュを務める竹内 雅博氏は、製薬会社での長年の実務経験と培ったネットワークを活かして入居企業をサポートしています。「入居企業様のビジネスの成長と異業種間を含む協業に貢献したい」と話す竹内氏に、仕事にかける想いを聞きました。
プロフィール
1993年京都大学大学院理学で博士号取得後、アステラス製薬(旧山之内製薬)に入社。米国と日本での研究実務、国内外のアカデミア、ベンチャー会社との提携運営、海外会社のPMI、がんユニット長等を経験。ベンチャー会社のサイエンスアドバイザーを経て、2021年三井不動産に入社。
多面的な利便性が高い新木場で、オープンイノベーションを促進させる
まずは、三井リンクラボ新木場2の特徴について教えてください。
バイオ創薬などの研究が可能なBSL2/P2に対応した都心近接型のウェットラボで、新木場エリアに3つある三井リンクラボのうちの一つです。オフィス機能も設けられる区画が112区画あり、約70㎡から最大約4,000㎡までさまざまなスペース設計が可能ですので、長期的なビジョンを持って研究拠点を構えたい方にも、一時的に新事業のトライアルの場として活用したい方にもご利用いただけます。
運営が三井不動産ということもあり、豊富なオフィス事業経験を活かした設備も特徴です。コミュニケーションラウンジやカフェといった、働いている人がリフレッシュできる共用スペースをはじめ、利用者のニーズを拾い上げて柔軟に対応しています。
新木場に開設したのは、どのような理由でしょうか。
新木場は、歴史的に多くの大手製薬企業が拠点を置く日本橋や、官公庁のある霞ヶ関など、都心の重要な拠点からのアクセスに優れた場所です。これらのエリアと連携してライフサイエンス領域のエコシステムを形成していくためには、物理的な距離が近いという点は重要なポイントとなります。また、働く人にとっても都心に近いことで通勤の負担が少ないことは魅力となり、企業が人材獲得を進める際にはプラスとなります。
新木場は近年、街自体が大きく変わりつつある中で、私たちはこのエリアにライフサイエンス領域の一大イノベーション拠点を作っていきたいと考えています。
入居企業への支援には、どのような特徴がありますか?
ライフサイエンス領域の研究開発では、オープンイノベーションがとても重要です。三井不動産は入居者に対して「オープンイノベーション支援プログラム」を展開しており、入居者が抱えるさまざまな課題、たとえば実験内容や経営についてはもちろん、研究に必要な場所、資金、企業や大学など外部とのつながり、事務サポートなどを提供しています。
三井リンクラボ新木場2においても、オープンイノベーションを促進させるため入居企業同士がコミュニケーションできる場を提供することなどを大切にしています。
早く社会実装していくために貢献したいという想い
竹内さんのようなサイエンスコンシェルジュは、どのようなサポートをしていますか?
私たちは、入居企業様のビジネスや強みとする技術等を把握し、外部企業やリンクラボの他の入居企業様や国内外の研究機関をご紹介したり、必要とする情報を提供したり、入居企業様と一緒にイベントを企画することが主な役割です。また、入居企業様の「外部委託先を探している」「アカデミアのコンサルタントを探している」といったニーズにお応えするほかに、随時ミーティングの機会を設けて、現在取り組んでいる内容を聞くようにしています。
3名いるサイエンスコンシェルジュは全員が製薬会社出身で、研究から臨床開発、外部提携、マネジメントなど、幅広い経験を持っています。
竹内さんが製薬会社で担当していた業務を教えてください。
日本と米国での研究実務から研究領域のマネジメント、研究・開発・マーケティング横断活動まで幅広く経験しました。その過程でアカデミア、研究機関、ベンチャー企業との連携の進め方を学び、コネクションも築くことができました。
専門領域は、がん、免疫炎症です。社内発の研究プログラムと外部との提携を積極的に推進しました。創薬の場合、臨床開発に入ることでようやくバッターボックスに立つことができます。「この技術を早く社会実装したい」と考えているアカデミアの先生やベンチャー企業と提携して、研究開発をリードする立場を担うことが多かったですね。
サイエンスコンシェルジュになったのは、どのような想いがあったのでしょうか。
日本の基礎研究の素晴らしさを実感していたので、製薬会社にいた時も「早く社会実装していくために貢献したい」という想いで仕事をしていました。その想いを違った視点から実現する取り組みができないかと考えたことが、新たなライフサイエンスエコシステムを構築しようとする三井不動産に入社した理由です。
チームメンバーと共に入居企業の成長を考える。新たな環境での挑戦がやりがい
入居者とのコミュニケーションで心がけていることはありますか?
課題を正しく理解するためにも、抽象的な悩みを具体的に落とし込むことを大切にしています。そのため、事前に入居企業のWebサイトや関連資料、以前にヒアリングした際の記録などを読み込み、聞きたいことを準備したり、どの企業とマッチングできそうかを想定したりした上でミーティングを行っています。
これまで支援してきた中で、印象に残っている事例を教えてください。
三井リンクラボ新木場1と三井リンクラボ新木場2の入居企業のマッチングです。1社は、バイオ医薬品分野における人材育成を目的に設立された一般社団法人、もう1社は創業以来バイオ医薬品の研究開発に取り組む会社です。
国内のバイオ人材が不足している状況の中、バイオ人材の育成は大きな課題です。社団法人側は人材育成のためのプログラムを提供し、会社側はそのプログラムを活用して人材を育成して研究開発を推進する。需要と供給のマッチングですね。
サイエンスコンシェルジュとしてやりがいを感じるのは、どんな時ですか?
まずは、私自身が新たな環境で、新たな機会をもらえたことです。チーム全体がとても前向きかつアクティブに活動している中で、メンバーと一緒に入居企業の成長のためにどのようなサポートが必要かを考え、取り組んでいける働く環境の素晴らしさを感じています。
また、関わる業界が広がる点もやりがいのひとつです。以前は製薬が中心でしたが、三井リンクラボには空調設備の大手企業様やライフサイエンス分野のさまざまな業種の会社が入居しています。さまざまな業界と触れ合うことで、新たな気づきを得ることも多く、刺激を受けています。
自らもオープンイノベーションの姿勢で、国内外の企業が集まるプラットフォームへ
三井リンクラボの今後の展望や、入居企業とともに実現したいことを教えてください。
三井不動産は、新たなライフサイエンス産業の創造をめざして、人と情報の交流プラットフォーム「LINK-J」を展開しています。LINK-Jは三井リンクラボの入居企業も参加しているコミュニティで、いろいろなイベントやセミナーなど、アイデアやイノベーションが生まれる機会や交流の場を提供しています。
海外では、ライフサイエンスの企業が集積した場所に人や資金が集まることで大きなパワーが生まれるという成功事例もあります。
LINK-Jは、国内だけではなく海外の団体・企業とも提携していますし、新木場は羽田空港からもアクセスの良い場所です。海外のメンバーにも積極的に参加してもらいながら、三井リンクラボを異業種の交流や協業が生まれるための拠点にしていきたいと考えています。
企業同士の交流が、ひとつのキーワードですね。
そうですね。私たちは、設備だけではなく、交流のための場を提供しているという想いがあります。いろいろな技術や価値観を持った企業に参加してもらうことでコミュニティの多様性が深まり、各メンバーが成長していくと考えていますので、積極的に周りの企業とコミュニケーションをとりながら業界全体を盛り上げていきたいという方に入居していただきたいですね。
INCU Tokyoに加入した理由と、期待していることを教えてください。
三井リンクラボは、最初の施設開設からまだ4年ほどで、試行錯誤を続けている部分もあります。INCU Tokyoのメンバーがどのような取り組みをしているのか、どのような支援をしているのか、とても興味がありますし、参考にしたいと思っています。
また、私たちはオープンイノベーションを掲げていますので、私たち自身もオープンな姿勢で他のインキュベーション施設の皆さんと交流し、ノウハウを共有していきたいと考えています。
ウェットラボは、東京以外に拠点を置いている施設も多くありますので、INCU Tokyoのような動きが他の自治体にも広がって、全国的にライフサイエンス分野が盛り上がっていくことを期待しています。
記載内容は2024年9月時点のものです。