Interview

正面を向いている松井氏
20

さまざまな組織が相互に自立しながら、起業家やスタートアップが世界に羽ばたく拠点へ

SENQ霞が関

「SENQ(センク)霞が関を、経済性と社会性が両立したビジネスを生み出す場所にしていきたい」と話す松井 哲憲氏。インキュベーションマネージャーとして、それぞれの組織が自立しながらWin-Winの関係を築くためのサポートをしています。自らも起業経験を持つ松井氏の、起業家支援にかける想いを聞きました。

プロフィール

2006年に学生起業を経験し、2008年に入社した大手デベロッパーグループで賃貸マンションの開発支援や経営企画業務に従事。2019年より中央日本土地建物にて、DX推進やベンチャー企業投資関連のLP出資、不動産のスマートビル化検討、新たな働き方に合わせたワークプレイスの企画などの業務を担う。

「リードジャパン」をテーマに、霞が関からオープンイノベーションを推進する

SENQ霞が関の施設内の様子

SENQ霞が関の特徴を教えてください。

SENQは、中央日本土地建物が運営するインキュベーション施設(オープンイノベーションオフィス)です。都内に6カ所の拠点があり、それぞれの拠点にテーマがあります。SENQ霞が関のテーマは「リードジャパン」。官公庁に近く、さまざまな領域で日本を牽引する先駆者が集う霞が関からイノベーションを起こしていこう、という意味を込めています。

入居されている会員さまは、官公庁に関連した仕事をするスタートアップやベンチャー企業が中心。近隣の大手企業が会議室として利用するケースもあります。

設備面でも「リードジャパン」をテーマに、木目調のインテリアや掘りごたつをイメージした和モダンな空間演出を取り入れ、落ち着いたコミュニケーションを促す環境を整備。会員さまからは、「オープンな雰囲気で、新しいアイデアが生まれやすい」という声をいただいています。

起業家やスタートアップのサポート面での特徴や強みを教えてください。

会員さまとのコミュニケーションを重視している点です。とくに高く評価していただいている点は、レセプションの雰囲気。レセプション担当者が、柔らかく、一息つけるようなおもてなしで、日常のちょっとした会話の中から会員さまのビジネス上の課題をすくい上げ、パートナー企業などとのマッチングにつなげています。

また、コロナ禍で一時中断していたイベントも徐々に再開しています。今後、官民共創・社会的インパクトを軸にした「(仮称)虎ノ門イノベーションセンター」を新たに開業予定で、この立ち上げ業務も私が担っています。そこで、それぞれの取り組みを連携させながら、新しい視点や世界のトレンドを知る機会を提供できればと。ESGやインパクト投資をはじめ、経済性と社会性を両立させる中で、投資家がスタートアップをどう見ているのかを知ってもらうイベントなどをSENQ霞が関にて企画しています。

2024年秋からは会員さまの協業や事業創造をサポートするアライアンスコーディネーターが新たに複数名加わるので、オープンイノベーションに向けた、会員間や会員とパートナー企業とのマッチングイベントも実施していく予定です。

起業して感じた営業力という課題。大手デベロッパーでビジネスを体系的に学ぶ

セミナーで話す松井氏

松井さんは起業経験もあるそうですが、中央日本土地建物に入社するまでのキャリアを簡単に教えてください。

起業したのは学生の時です。実家が自営業だったため家業を継ぐことも考えたのですが、まずは自分自身で新しい事業を立ち上げる経験をしたかったんです。

当時はブログが流行した時代。これからはインターネット社会でビジネスをすることが求められると考えたこと、少子高齢化の進行によりペット文化が広がるのではないかと考えたことから、ペットを主体としたSNSを立ち上げました。

優秀なプログラマーが参画してくれたものの、大きな課題だったのは営業力。集客の仕方がつかめなかったこともあり、一度社会に出て営業を含めたビジネスを体系的に学ぶ必要があると痛感しました。

そこで、前職である大手デベロッパーのグループ会社に入社。生活に密接している街づくりに関わってみたいと思ったことが理由です。賃貸マンションの開発サポートや営業を経験した後、経営企画を担当する部署に異動しました。

経営計画策定やグループ全社を横断するプロジェクトなどに携わる中で、グループ各社の同僚たちと「このままでは日本は海外に負けてしまう」「イノベーションを起こすような取り組みが必要だ」と議論するように。私もしだいに、イノベーションを推進するための新事業の企画などを担当するようになりました。

中央日本土地建物に入社したのは、どのような理由ですか?

自社のグループ内だけではなく、もっと広い範囲で世の中に影響を与えられる仕事をしながら、日本の競争力を高めていきたいと考えたことです。当時、すでに中央日本土地建物はSENQ事業を始めていて、スタートアップ育成やオープンイノベーションを通して日本を変えていこうという取り組みをしていたんです。

私自身、起業した経験がありますし、前職でもスタートアップとの連携などを担当していた中で、大企業が新しい仕組みを作り、オープンイノベーションを推進していく必要があると感じていました。

強い想いに行動が伴っている起業家には応援団ができる。周りを巻き込む力に惹かれる

SENQ霞が関の働くスペース

入居企業を支援する上で心がけていることを教えてください。

大企業とスタートアップの間にある文化やルールの違いを“翻訳”しながら、ギャップを埋めていくことです。当然ながら、大企業とスタートアップでは事業のスピード感やリソースが違いますし、セキュリティをはじめ、さまざまなルールなども異なります。

お互いに妥協するのではなく、目線を合わせて統合しながらサステナブルな関係を築いていくこと、大きな構想だけでなく短期的な結果も出せるような目標設定などをサポートしています。

レセプションの方たちの「おもてなしの心を大切にしたコミュニケーション」は、どのように生み出されているのでしょうか?

SENQ全体のコミュニティイベントを定期的に開催することで、スタッフ間の交流も生まれる仕組みを作っています。お互いにコミュニケーションの取り方を学ぶことで、自然とおもてなしの精神が育まれていると感じます。

加えて、会員さまへのヒアリングを行い、どこを評価していただいているのかをフィードバックするようにしています。自分たちの魅力を認識できると、その魅力をさらに活かそうと工夫します。それが施設全体の雰囲気や文化にもつながっているのだと思います。

起業家やスタートアップを支援する中で、印象に残っていることはありますか?

強い想いを持って社会課題の解決に取り組む起業家たちの姿勢です。経済性だけでなく社会性も重視しながら、強い想いに行動が伴っている起業家は、周りを巻き込んでいく力があると感じました。そういった起業家には、金融機関やメディア、自治体、市民などの応援団が自然とついていくんですよね。すると、結果として経済性も備わってきます。

それを肌で感じているので、想いを持ち続けながら継続して行動することが重要なのだと学びました。

経済性と社会性が両立したビジネスを生み出したい──SENQ霞が関をその拠点に

松井セミナーで話をする様子

SENQ霞が関を通して実現したいことを教えてください。

いろいろな企業が相互に自立しながらWin-Winの関係を作れる場にしたいと考えています。先ほどの「(仮称)虎ノ門イノベーションセンター」の取り組みとも連携しながら、単に経済性を追うだけではなく、複数の組織が連携しながら社会課題を解決するコレクティブインパクトが実現する環境を作っていきたいと思っています。

その上で、官公庁に近い立地を活かして、日本や東京の国際競争力を高める原動力となる仕掛けを作ることをめざしています。官民が協力して起業家を支援し、グローバルで活躍できる環境を整えていくために、SENQ霞が関をさまざまなステークホルダーが集まり、議論する場にすること。そして、経済性と社会性を両立した新しいビジネスを生み出す拠点にしていきたいですね。

INCU Tokyoに加入された理由と、期待していることを教えてください。

新しいものを生み出していく起業家の支援は、1つの会社や1つの施設だけでは難しいと思います。同じ志を持つインキュベーション施設が横断的につながり、連携しながら、お互いに高め合い、切磋琢磨できる関係性を築きたいと考えたことが加入の理由です。

そういった関係を築くためにも、各施設やインキュベーションマネージャーが起業家とどのようにタッグを組んでビジネスに取り組んできたのか、そのプロセスにフォーカスを当てたピッチイベントなどがあると良いのではないかと思います。

とくに、うまくいかなかった事例を共有することに意義があると思っています。うまくいかなかったケースはなかなか外に出てこないのですが、INCU Tokyoというコミュニティの中で共有することで、東京全体、ひいては日本全体のインキュベーションの生産性向上につながるのではないでしょうか。

記載内容は2024年10月時点のものです。

インキュベーション・
コミュニティ
「INCU Tokyo」へ参加する

募集概要を確認のうえ、
下記から申し込みください。