Interview

中村氏が笑顔で笑っている様子
10

自身の起業経験とものづくりの街ならではの強みを活かして。起業家の成長を支え、寄り添う

六郷BASE

古くからものづくりが盛んなエリア・大田区にある六郷BASE。ここでコミュニティマネージャーを務める中村 祥之氏は、入居者である起業家の「成長」を支えています。自身も起業経験があり、だからこそ入居者の悩みに強く共感すると言う中村氏が、同施設の魅力を語ります。

プロフィール

新卒で東京急行電鉄(株)(現 東急(株))の旅行部門に入社。その後、高校・大学と企業をつなぐ人材コーディネーターに転職し、年間150本以上の進路イベントを企画・実施。2021年にツクリエに入社し、新施設立ち上げに携わる。現在、同社のプロジェクトリーダー兼コミュニティマネージャーを務めながら、2023年12月にAI×教育事業で起業。

ものづくりの街・大田区ならではの「試作支援」が大好評

六郷BASEの外観

六郷BASEの概要を教えてください。

六郷BASEは、大田区の創業支援施設です。京急の六郷土手駅から徒歩13分という立地にあり、3階建ての建物にさまざまな機能を備えています。キャッチコピーは「大田区(ココ)でつながり、ともに進もう」これは、入居いただいている起業家の皆さんと一緒につくり上げました。

現在の入居企業は約40社。事業領域は実に多岐にわたり、宇宙ビジネス、新素材開発、3Dプリンター製作、アンドロイドロボット製作、さらには古着店の運営など、さまざまな分野の企業にご利用いただいています。

1階はドロップインも可能なオープンスペースで、大田区がものづくりで有名な街であることから「試作室」が設置されているのが大きな特徴です。2階にはコワーキングスペース、半個室のシェアードオフィス、3階には個室オフィスがあり、各階には会議室も備えています。

「試作室」は、ものづくり支援の重要な機能として、入居企業にも好評ですね。たとえば、小型人工衛星機に搭載する装置を試作したり、リハビリロボットの腕の部分を3Dプリンターでつくったり、最先端のものづくりにチャレンジしている企業も。単に設備があるだけではなく、常駐の指導員(専門家)がサポートしてくれるのも好評のポイントです。

起業支援をする上で、六郷BASEの強みはなんですか?

単なる施設提供にとどまらず、私たちが企業や大学、地方自治体のハブとなり、区内企業やベンチャーキャピタル、大学や地方自治体などとのつながりを提供できることです。入居企業とは基本的に1~3カ月に1回のペースで面談をし、事業の進捗状況や細かなニーズ、将来の展望などをヒアリングして計画的にサポートしています。また、月1回以上の頻度で交流イベントを開催し、ビジネスマッチングの機会を提供しています。

これらのイベントでは、六郷BASEのミッションである3つの要素を重視しています。1つめは「起業家を掘り起こし、増やすこと」。起業意欲を刺激し、自分もできそうだと思えるような後押しをするイベントを企画しています。2つめは「創業支援」で、起業家の事業成長を支援しています。3つめは、「区内連携」で、区内の中小企業や、大田区にある別のインキュベーション施設との交流会も多いですね。

また、ものづくりに特化したアクセラレーションプログラム「六郷BASEものづくりキャンプ」も実施しており、先輩起業家や町工場の経営者がサポーターとして参加。このプログラムは入居者だけでなく、外部の方も参加可能で、ものづくりに関心のある幅広い層にアプローチしています。

中村さんはコミュニティマネージャー(以下、CM)という役割ですが、インキュベーションマネージャー(以下、IM)とはどう違うのですか?

CMもIMも起業家を支援する、という意味では役割に大きな差はありません。ざっくりと分けると、日常的なコミュニケーションや気軽な悩み相談から広報、ブランディングなど施設運営はCMが、月1回の定期面談を含む経営相談はIMが担当します。

ただし明確な境界線はなく、状況に応じて柔軟に対応しています。CMである私の役目は、入居企業とコミュニケーションで得た情報をIMにつなげ、施設として総合的により良い支援を提供することだと考えています。

キャリアの軸にしてきたのは「人の成長を支援したい」という想い

セミナーで話す中村氏

中村さんのこれまでの歩みと、起業支援に携わるようになった経緯を教えてください。

昔から人が好きで、教えることにも興味があったため、大学時代は教師をめざして社会科の教員免許を取りました。ただ、一度社会に出てさまざまな知識を身につけた方がおもしろい授業ができるのでは?と考え、新卒で旅行会社に就職しました。

その後教育関連の会社に転職し、高校生を対象とした進路支援サービスに携わるうちに、高校生が進路を選択する際に必要な情報が不足していること、大卒に比べて就職先の選択肢が圧倒的に少ないことに気づいたんです。

こうした課題を解決するため、将来的に起業したいと考え、2021年に現在も所属する起業支援のプロフェッショナル集団・株式会社ツクリエに入社。同社は自社のインキュベーション施設「Startup Side」を運営しているほか、行政のインキュベーション施設の運営も複数受託しています。その中のひとつである大田区の施設「六郷BASE」のコミュニティマネージャー(CM)を任せてもらった、という経緯です。

こうして振り返るといろんな仕事を経験してきましたが、一貫しているのは「人の成長を支援する仕事がしたい」という想い。2023年には教育系サービスで念願の起業も果たしました。

中村さんも起業家なんですね。支援する上ではご自身の経験も活かせていますか?

大いに活きていると思います。自分も起業したことで、入居者の皆さんが直面する困難や課題に、より深く共感できるようになりました。たとえば法人設立の手続きひとつとっても、「登記するだけでもこんなに書類が必要なのか……」という苦しみは私も経験したのでよくわかります。

起業の「痛み」、経営者の「苦しみ」を理解しているからこそ、より適切なアドバイスやサポートができるようになったはずですし、日々のコミュニケーションでの言葉の選び方や情報の出し方にも配慮するようになりました。

日々のコミュニケーションから課題を見つけ、解決につなげたい

中村氏が起業家の相談に乗る様子

起業支援をする中で、どんな時にやりがいを感じますか?

もっともやりがいを感じるのは、やはり入居企業の方々の成長を間近で見られることです。たとえば、「こういう知見を持った人を探している」といった相談に対して適切な人をつなげることができ、商品開発が一歩前進した時は非常に嬉しく感じます。

CMとしての私の役割は、日々入居企業の方々とコミュニケーションを取り、「最近お悩みはないですか?」といったヒアリングを行うこと。そうした気軽な会話の中から課題を見つけ、解決に導くことができた時に大きなやりがいを感じます。

先日も「海外に拠点をつくりたいけど、どこにどう相談していいか分からない」と悩んでいる方がいらっしゃいました。そこで、どういう課題があるのかをヒアリングし、本質的な課題を言語化した上で、大田区の海外進出支援の窓口を紹介しました。ヒアリング・言語化は課題解決するためにとても重要で、そこをサポートして“悩みの交通整理”をすることも私たちの大きな役目ですね。

起業家を支援する際に、心がけていることはありますか?

支援する上で私が一番大切にしているのは、「その方の事業が成長するかどうか」です。単に要望に応えるだけでなく、その支援が入居者の真の成長につながるかどうかを常に考えています。たとえば、ユーザーヒアリングを希望する入居者に対しては、「何のためにヒアリングするのですか?」「どういう目的があるのですか?」といった質問を投げかけ、ヒアリングの意図を明確にすることで、より効果的な支援を行うよう心がけています。

「INCU Tokyo」ならではの横のつながりを活かし、施設も自分も成長を続けたい

六郷BASEのコワーキングスペース働く人たち

どのような起業家に施設を利用してもらいたいですか?

ひと言で言えば、「おもしろい」起業家でしょうか。今までにないアイデアを持っていて、新規性のある事業に熱意を持って挑戦している方々ですね。

たとえば、現在入居しているスタートアップが、「ゴミから感動をつくる」というコンセプトで事業を展開しています。具体的には、みかんの皮のような食べ物の廃棄物を乾燥させて粉末にし、それを固めて建材など世の役に立つ素材を開発しているんです。このような今までにない発想や技術を持つスタートアップに、ぜひ入居していただきたいですね。

六郷BASEはものづくりの街・大田区にありますが、もちろんものづくり以外の分野の起業家も大歓迎です。むしろ多様な分野の人が集まることで、新たなイノベーションが生まれる可能性が高まると考えています。

インキュベーション・コミュニティ「INCU Tokyo」を通して、実現したいことはありますか。

私たちが「INCU Tokyo」に参加した理由は主に2つあります。1つは他のインキュベーション施設の方々と情報交換するため。もう1つは、他の施設との連携イベントを実現するためです。

入居者である起業家にとって一番の目的は「自分の事業の成長」ですよね。そういう意味では、施設間の横の連携を強化し、どんどんビジネスマッチングにつながるような連携ができれば良いと考えています。

実はちょうど「INCU Tokyo」を通じて知り合った他の施設の方と、連携イベントの企画を進めているところです。お互いの強みを活かし合えるイベントを実現して、入居者の皆さんに貢献できればいいなと思っています。

また、私自身のスキルアップという観点でも、INCU Tokyoには期待しています。他の施設のCMやIMがどのようにコミュニティを運営し、起業家の皆さんをサポートしているのか──そういった情報交換を通じて支援スキルも向上させ、より良いインキュベーション施設をつくっていきたいと思います。

記載内容は2024年9月時点のものです。

インキュベーション・
コミュニティ
「INCU Tokyo」へ参加する

募集概要を確認のうえ、
下記から申し込みください。