Interview

正面を向いている武田氏
17

信用金庫のDNAで紡ぐ地域の未来。スタートアップしもきたが描く創業支援の理想

スタートアップしもきた

昭和信用金庫は、地域の起業を増やしていきたいという想いから2つのインキュベーション施設を運営しています。「創業者の背中を押す存在でありたい」と話すのは、本店内に併設された「スタートアップしもきた」でインキュベーションマネージャーを務める武田 直也氏。その想いや施設の展望に迫ります。

プロフィール

金融機関や公的な創業支援施設に勤務し、現在も、昭和信金のインキュベーション施設にてマネージャーを務める。金融機関出身であり、「創業融資」「補助金」などの資金調達が得意分野である。創業者だけでなく、金融機関や支援機関向けの創業融資や創業支援の研修も実施している。中小企業診断士。

融資からマッチングまで。スタートアップしもきたが提供する創業者への総合支援

スタートアップしもきたの仕事スペース

まずは、スタートアップしもきたの特徴を教えてください。

当施設は昭和信用金庫の本店建て替えと同時に設立されました。小田急線・京王井の頭線の下北沢駅から徒歩3分とアクセスがよく、信用金庫ならではの金融支援や補助金の案内などが受けられることが特徴です。

施設内は個室が3室、コワーキングスペースが10席あり、現在はほぼ満席状態。インキュベーションマネージャーとしては私と佐々木 基晴の2人が在籍しており、利用者からの幅広い相談に対応しています。

利用者とは定期的に面談を実施しており、利用者の課題感やニーズを把握し、課題解決のための相談や信用金庫として長年この地域で培ってきたネットワークを活用し、利用者とのマッチングも行っています。また、創業者や創業希望者を対象としたセミナーも実施しており、実際の事業計画書をもとに複数の金融機関職員がその場で融資可能額を回答するような実践的な内容が好評です。

特定創業支援事業にも力を入れていると聞きました。

はい。世田谷区の認定施設として入居者、あるいは地域の創業予定者や創業5年以内の方を対象とした特定創業支援事業を実施しています。

世田谷区では、昭和信用金庫をはじめとした機関と連携し、創業促進のための施策を行っています。私たちは創業者との計4回のセミナーや面談で、事業計画書のブラッシュアップをサポートします。受講後に区から証明書をもらうことで、会社設立時の登録免許税減税や融資金利の優遇などの特典を受けることができます。

入居までの流れや現在の入居者の特徴を教えてください。

特別、広報はしていないのですが、東京都の認定施設としての情報や信用金庫業界で運営している「しんきん創業の扉」というWebサイトを見て応募してくださる方がほとんどです。地域活性化につながるような独自性や新規性の高い事業を行う創業者に入居していただけるよう、入居する前には必ず審査も行っています。現在はすでに創業している入居者の方が多く、業種としてはマーケティング関連や人材関連、IT関連などが多いですね。

インキュベーション施設運営計画認定事業において、認定した事業計画に係るインキュベーション施設

感謝の言葉がやりがい。インキュベーションマネージャーになって知った創業支援の真髄

武田氏が講義をする様子

武田さんが創業支援に携わるようになった経緯を教えてください。

新卒で長野県の信用金庫に就職した後、中小企業診断士の資格を取得し、次に就職した自治体が出資して設立した創業支援機関で、創業支援の仕事をするようになりました。実際に仕事を始めてみると、創業者の方々のポジティブなマインドに影響を受けたり、皆さんをサポートすることで感謝の言葉をもらえたりして、非常にやりがいがあるなと感じていました。創業支援の経験を積むかたわら、一時はスタートアップ企業に入社していた時期も。支援側と企業側、両方の視点を養ってきたと自負しています。

現在は、創業支援の業務を中心に行う会社を自身で設立して、昭和信用金庫が運営する「スタートアップしもきた」「スタートアップえびす」を含めたさまざまな施設で創業支援業務に携わっています。

スタートアップしもきたの成り立ちについても教えてください。

昭和信用金庫は地域の中核金融機関として、地域に根差した企業を増やしていく使命を持っていました。そんな中、本店・支店の建て替えが必要となり、それに合わせて2020年11月に「スタートアップえびす」、2021年5月に「スタートアップしもきた」を設立。
とくに下北沢という地域は、劇場やライブハウス、古着屋など独自の文化や産業が栄えている若者の街なので、当初は地域特有の産業を後押しできるような存在になりたいという思いで設立されました。

武田さんはどのような経緯で施設と関わるようになったのでしょうか?

現在一緒にインキュベーションマネージャーをしている佐々木からの紹介です。佐々木は、私が初めて創業支援に携わった会社の上司だったのです。当施設の設立当初は佐々木1人で2つの施設を受け持ち、セミナーや創業相談などを担当していました。しかし、特定創業支援事業など創業者にとって役立つ支援をもっと拡充させたいという思いから、私に声をかけてくれたんです。現在は2つの施設を2人のインキュベーションマネージャーが行き来する形でサポートしています。

創業者の孤独に寄り添う──インキュベーションマネージャーとして大切にしていること

武田氏が講義をする様子

数多くの創業者を支援して来た中で印象的な事例を教えてください。

創業前から支援させていただいている方は印象に残りやすいですね。中でも東京都中小企業振興公社が運営する施設とスタートアップしもきた、2つの施設を通じて支援させていただいた方が思い出深いです。

私は個人事業主としてさまざまな施設で相談に応じていて、その方とはもともと東京都中小企業振興公社が運営する「TOKYO創業ステーション」の相談窓口で知り合ったんです。創業時に作成する事業計画書の作成支援から施設入居後は事業内容に関する相談などの支援をさせていただきました。事業が順調に進み、東京都中小企業振興公社からもその方と当施設のメンバーでインタビューされたことが印象深いですね。

創業支援をする上で心がけていることは何ですか?

創業者や経営者は孤独な方が多いので、こちらから一方的に話すのではなく、できるだけ相手の話を聞くことに注力しています。会話の内容はさまざまですが、個人的には多くの創業者が具体的なアドバイスよりも、励ましの言葉を求めているように感じます。背中を押してあげればどんどん自分で進んでいける方が多いので、悩み事に耳を傾けて「頑張ってください!」と声をかける応援団のような立場でいたいですね。

あとは、基本的に施設に相談に来てくださること自体がプラスな行動だと思っているので、さらに前を向いてもらえるよう、できるだけ「厳しい」「ダメ」というような相手を否定することは言わないようにしています。もちろん状況によっては、あえて否定的な言葉を使うこともありますが、できるだけ「相談してよかった。これから頑張ろう」と思っていただけるような存在でありたいと思っています。

スタートアップしもきたならではのやりがいはありますか?

比較的新しく、環境がまだまだ整っていないので、母体である昭和信用金庫と力を合わせて1から施設を作り上げていけることが楽しいですね。現在は、より多くの創業者の方に知っていただけるよう、公式のWebサイト制作に着手しています。

また、ゆくゆくは昭和信用金庫の幅広い人脈も活用して、入居者と外部の相談者、そして取引先などをつなぐネットワークの構築をしていきたいです。さらに事業所・店舗の確保やネットマーケティング、資金調達など、創業する上で必要なものをワンストップで解決できるような仕組みを作り、リーズナブルな価格で提供できたらいいなと構想を膨らませています。

新しい価値が生まれる舞台でありたい──スタートアップしもきたのビジョン

スタートアップしもきたの作業スペース

INCU Tokyoに加入した理由を教えてください。

インキュベーション施設は横のつながりが少ないので、他の施設との交流や情報交換の機会を求めて加入しました。すでにいくつかのイベントや講座に参加させていただきましたが、今後はより交流に特化したイベントがあったらうれしいですね。

他施設とつながりができた暁には、複数施設での共同セミナーや入居者同士の交流会、マッチングイベントなどが開催できたらおもしろそうですよね。INCU Tokyoで生まれた縁をもとに、入居者の皆さんにもよい還元ができたらいいなと思っています。

今後どのような方に入居してほしいと考えていますか?

私たちの根底には「地域を代表するような企業を育てたい」という思いがあるため、新しい価値を持ち、大きなビジョンを持った方に来ていただきたいです。加えて、これまで見たことのないようなサービスや製品のアイデアを持つ方も大歓迎ですね。そういったおもしろいアイデアを持つ方々が集まることで化学反応が起こり、新しい価値が生まれることを期待しています。

これから創業を考えている方へメッセージをお願いします。

ビジネスを成功させるためには自分を見失わず、進むべき時は進み、引くべき時は引く、といったメリハリをつけることが大切です。とくに引き際をあらかじめ決めておくと、進むときも思い切って行動できるもの。ぜひ大きな目標を胸に、前を向いて進んでいってほしいと思います。

また、うまく施設や制度を活用するのも成功の秘訣ではないでしょうか。困ったことがあれば、いつでも気軽にご相談ください。

記載内容は2024年10月時点のものです。

インキュベーション・
コミュニティ
「INCU Tokyo」へ参加する

募集概要を確認のうえ、
下記から申し込みください。