Interview

正面を向く野田氏
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「愛のあるおせっかい」がモットー。地域産業の未来を見据えた、起業支援のやりがい

品川区立西大井創業支援センター

2022年の大規模リニューアルを経て生まれ変わった品川区立西大井創業支援センター。その運営を担うセンター長の野田 賀一氏は、不動産業界での経験やまちづくりへの熱意を活かし、起業家たちを支援する場づくりに尽力しています。「起業を0.5歩前に進めるキッカケの場」を実現するための支援哲学に迫ります。

プロフィール

1984年生まれ、青森県東北町出身。航空自衛隊を経て不動産業界へ転身し、貸し会議室・コワーキングスペース事業やスタートアップ企業向けのオフィス構築コンサル、ビルリノベ事業に従事。2021年より西大井創業支援施設のセンター長に着任。「0.5歩のチャレンジ」を軸に、起業家支援とまちづくりの領域で活動中。

ガラス張りの空間と起業家に寄り添った支援体制で、起業家の挑戦を支える

西大井創業支援センターの受付

まずは、施設の概要を教えてください。

西大井創業支援センターは、西大井駅から徒歩1分のロータリーに面したタワーマンションの2階に位置しています。坂道の1.5階のような高さにあり、3面がガラス張りでブラインドのない開放的な設計となっています。

2022年2月には大規模なリニューアルを実施しました。20年前に品川区の第1号創業支援施設として立ち上がって以来、内装の更新がされておらず、利用者数も伸び悩んでいたという課題がありました。リニューアルにあたって、スタートアップ企業のオフィス内装を手掛ける会社に設計を依頼し、若い世代も利用しやすい空間づくりをめざしました。壁を極力立てない設計でありながら、機能的なゾーニングによって使いやすい空間を実現しています。また、中心部に大きなキッチンスペースを配置しており、自然と会員同士の交流が生まれる仕掛けとなっています。

サポートする上での特徴や強みはありますか?

支援体制としては、中小企業診断士や税理士の資格を持つインキュベーションマネージャーが5名、会員と専門家をつなぐコミュニティマネージャーが、チーフの私を含めて2名、そしてコミュニティスタッフが5名という体制で運営しています。各会員には専属のインキュベーションマネージャーが付き、毎月1on1のセッションを実施。さらに毎月の会員交流会や、オンラインチャットツールを活用した会員限定のコミュニケーション環境があり、共同でのマルシェ出店など、具体的なビジネス連携も生まれています。

現在は43名の会員が在籍しており、継続率の高さが特徴です。また、よりフラットな関係性でありたいという想いから、スタッフ全員を30〜40代で構成しており、行政施設らしくない、新しい形の運営をめざしています。

施設のミッションについて教えてください。

当センターには2つの大きなミッションがあります。1つは、民間事業ではマネタイズしづらい起業前支援を行政が担うことで、起業に踏み出す人を支援すること。もう1つは、起業家の方々が施設を活用して地域で活動を広げ、品川区の産業を活性化させることです。

「起業を0.5歩でも前に進めるためのキッカケの場」として、会員向けの支援だけでなく、起業前の一般の方向けの個別相談会や、起業のハードルを下げるためのイベントも毎月開催しています。

自衛隊、不動産業界を経てセンター長へ。多彩な経験のすべてを支援に集結

野田氏が司会をしている様子

野田さんの経歴を教えてください。

高校卒業後、自衛隊に入隊し、その後は不動産関連企業でキャリアを積んできました。多くの方々に支えられた経験から、今度は「恩送り」として、支援する側に回りたいという思いが芽生えました。

また、スタートアップ・ベンチャー企業に特化したオフィス構築を手がける会社にいた際、建物の内装デザインだけでなく、運用面にも興味を持つようになりました。その場所を通じて、まちの活性化や課題解決に貢献したいという思いも強くなり、これらの要素やタイミングがうまく重なったことが、現在の仕事につながっています。

当施設に携わるようになった経緯を教えてください。

前職時代に、スタートアップ企業が集積する「五反田バレー」の活動に副業として参画していたことから、まちづくりに興味を持っていました。その後、品川区とのつながりができ、当センターのリニューアル時に、コンセプト設計と内装デザインの依頼を受けました。さらに品川区から「運営面でもぜひ」ということで、私も企画を出させていただき、プロポーザル形式での選考を経て、現在のセンター長兼チーフコミュニティマネージャーという立場に至りました。そんな私自身の経験からも、当センターでは副業からの起業を応援しています。

現在、施設の運営以外にもさまざまなことに携わっているとうかがいました。

そうですね。埼玉県飯能市のまちづくり会社に参画しており、2023年からは青森県八戸市の起業コミュニティプラットフォーム事業のコミュニティマネージャーも兼任しています。都市・地方・郊外の3拠点での活動を通じて、それぞれの地域特性を活かした支援活動を展開しています。

会員と共に歩む日々。失敗も成功も共有する創業支援の現場

入居者さんとの集合写真

支援する上で印象に残っていることはありますか?

印象に残っているのは、会員が徐々にステップアップしていく姿です。ビジネスコンテストで入賞したり、活動拠点を広げたり、法人化を果たしたりと、さまざまな報告を受けるたびに嬉しい気持ちになります。一方で、企業は失敗の連続でもあります。なかなかうまくいかずにもがいていた方が、ようやく活路を見出すケースもあります。たとえばBtoCで苦労していた方がBtoBに方向転換して組織を大きくしていくといった変遷を見守れることは、他人事とは思えない喜びがありますね。

起業家とのコミュニケーションで心がけていることを教えてください。

「愛のあるおせっかい」をモットーに、押しつけがましくない、ほどよい距離感を保ちながら支援することを心がけています。起業は自分の弱みと向き合う仕事であり、その弱みに立ち向かうには勇気とパワーが必要です。そのため、当センターは会員にとってオアシスのような存在でありたいですし、会員ともより近しい距離感で関係性を築き、その苦労や実態を理解し、共に歩んでいける存在でありたいと考えています。

運営する上で、やりがいを感じる点は何ですか?

マネージャーたちも時には落ち込むことがありますが、会員の頑張る姿から勇気づけられています。「われわれが勇気をもらっているよね」と、スタッフともよく話しているんです。

また、会員の課題に対して即座にイベントを企画するなど、インプットとアウトプットの循環が生まれる楽しさがあります。不動産での経験、まちづくりへの想い、起業支援への熱意、これまでの人生でやりたかったことや経験してきたことのすべてが、起業支援の運営に反映できていることに大きなやりがいを感じています。

起業という手段で人生を豊かに。さまざまな職種の方が集う多様なコミュニティの魅力

イベントでの集合写真

どのような方に入居してほしいと考えていますか?

とくに自社コンテンツをつくっていきたい方の支援に注力したいと考えています。単なるクライアントワークだけでなく、自社でソフトウェアやサービスを開発したり、新しいテクノロジーを活用したりなど、新しいことにチャレンジする方を支援することをテーマとしています。

現在所属されている会員には、主婦や学生、エンジニアなどさまざまな方がいます。木の樹液からつくったアロマのBtoC販売から始めて現在はBtoB向けの環境経営コンサルタントになられた方、システム障害の対応に特化した事業をされている方、AIを活用したサービス開発している方、その他、製造業や食品開発など、多様な事業を展開する起業家が所属しています。家庭と両立して、夜に子どもを寝かしつけた後に、再度センターにいらっしゃって仕事をされる方もいて、自分のペースでご利用いただいています。

インキュベーションマネージャーは、それぞれの起業家の得手不得手を見極めながら、相性や状況に応じて適切なサポート体制を組んでいます。必要に応じてマネージャーの入れ替えやバトンタッチを行いながら、会員の状況を後押しする工夫を重ねています。

INCU Tokyoに参加された理由をお聞かせください。

起業支援のシーンの発展には、コミュニティマネージャーの質の向上が不可欠だと考えたことが参加のきっかけです。起業家は、最初は誰に何を相談すべきかもわからない状態ですし、やるべきタスクも山積みです。そんな時、専門家よりも少し手前にいる「相談できる存在」として、コミュニティマネージャーの役割は重要です。起業家と専門家をつなぎ、ディレクションを行うコミュニティマネージャーが増えなければ、いくら優れた専門家がいても効果的な支援ができません。このような人材を育成するという取り組みに共感し、参加を決めました。

また、同じような想いを持って運営している施設さんともぜひ連携したいという思いを持っており、すでに合同交流会も開催しています。

当施設を通じてどのようなビジョンを実現したいと考えていますか?

今後も、地域の課題を解決したい方、自社コンテンツをつくりたい方、長年の夢をかなえたい方々を支援していきたいですね。起業という手段を通じて、人生を豊かにする人を1人でも増やすことをめざしていますし、そういった人々が増えていくことで、結果として地域全体が良くなっていくと信じています。

記載内容は2025年1月時点のものです。

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