Interview

正面を向いて笑う高千穂氏
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池上を軸としつつ、東京以外で創業を検討する方も応援。多様な選択のベースに

フェムベース

地域に根差した創業支援と同時に、バーチャルオフィスとしての可能性も追求する「フェムベース池上」。ここで館長として運営メンバーや入居者とのコミュニケーションを円滑に進めながら自身も中小企業診断士として専門的な知見で起業をバックアップする高千穂氏に、この役割への想いや、今後の可能性について聞きました。

プロフィール

京都府京田辺市生まれ。 新卒で株式会社大塚商会に入社し学校法人向けシステム営業を担当。その後、会員制自習室「勉強カフェ」に転職し、同時にWEBライティングなどの副業を開始。現在は中小企業診断士等の資格を活かし、創業支援、資格取得支援を軸に複業フリーランスとして活動中。

老若男女問わずどなたへも和やかに開かれたインキュベーション施設

フェムベースの外観

まずは、フェムベース池上の施設概要について教えてください。

フェムベース池上は2020年11月に東京都認定のインキュベーション施設としてオープンしました。当初は子育て真っ最中の方や、子育てが一段落した女性が安心して起業できる場として設立されましたが、現在は大田区池上に密着し、老若男女問わず利用されています。

大規模な資金調達や上場をめざす企業向けというよりも、商店会での出店や自宅でできる範囲での事業展開を考える方など、小規模な創業支援に力を入れています。

入居いただくことでコワーキングスペースやイベントスペースの利用や、バーチャルオフィスとしての住所利用が可能で、現在約55名の会員がいます。法人登記目的での利用が多く、会員の男女比はほぼ半々となっています。

とくに女性向けというわけではなく、広く地域の方に開かれているんですね。起業家の方はどのように施設を利用されていますか?

利用者は多岐にわたり、水彩画教室やヨガ、クリスタルボウル、パーソナルカラー診断、インテリアコーディネーターなど、女性向けの教室やセミナーを開催する方が多くいらっしゃいます。また、男性の個人事業主や小中学生向けの学習塾として場所を活用いただいているケースなどもあります。
とくにイベントスペースは、自宅での教室開催に限界を感じる方や、池上駅から2、3分という好立地を活かしたい方に重宝されていますね。

施設の利用方法や会員システムについて教えてください。

施設は会員制で、ドロップインでの利用は受け付けていません。コワーキングスペースの利用料は月額5,500円からで、アットホームな雰囲気の中で会員同士が安心して利用できる環境を提供しています。

コワーキングスペースとバーチャルオフィスの会員登録により、法人登記も可能となっています。バーチャルオフィスの利用は月額3,300円で、イベントスペースのみを利用したい方は月々1,100円で会員資格を維持し、別途スペース利用料を支払う形式となっています。
会員登録制にすることで、利用者が安心してビジネスを展開できる環境を整えています。

中小企業診断士が「館長」を務めることでさまざまな相談のハードルを下げていく

笑顔でパソコンに向かう高千穂氏

高千穂さんご自身の働き方やミッションについて教えてください。

私自身も中小企業診断士の資格を持っていることから個人事業主として活動しており、専門知識を活かした支援をミッションとしています。

会社員から個人事業主への転身を考える方や副業希望者への相談対応、経営相談の窓口としての役割、他の士業の紹介、補助金に関する相談など自身の経験と専門知識を活かした多岐にわたる相談に乗れれば嬉しいです。

中小企業診断士を取得したきっかけや創業支援に携わるようなったのはどういったきっかけでしたか?

私自身、会社員と専業主婦の子どもとして、大学卒業後は一般企業への就職が当たり前という環境で育ち、独立やフリーランスという選択肢自体をほとんど知りませんでした。しかし、卒業後に入社した会社を一年で辞めた後、ファストフード店でしばらくアルバイトをする中で、さまざまな働き方をする人々と出会いました。

海外から来て語学学校に通いながら働く人や、ダンサーとして活動しながらアルバイトをする人など会社員以外の多様な働き方があることをそこで初めて知ったんですね。その経験から、次のキャリアを考える中で国家資格取得をめざすことにしました。

その頃からウェブライターとして副業を始めてもいて、その際に確定申告や開業届など、同じ副業をしている人たちから多くのことを学びました。その経験から、これから起業をめざす人たちに自分も同じように知識を伝えていきたいという想いで現在の創業支援の仕事に携わっています。

また、当時の私と同じように、働き方の選択肢を知らない方は世の中に多くいらっしゃると思うんです。なので、現在はフェムベース池上でも「マドレーヌお茶会」という起業家交流会を開催し、さまざまな働き方の選択肢があることを伝える活動もしています。

施設の運営体制と高千穂さんの役割についても教えてください。

運営母体は株式会社ソフィアコミュニケーションズという民間企業で、私は業務委託でインキュベーションマネージャーとして従事しています。ただ、そもそも「インキュベーションって何?」と思う方もいらっしゃるでしょうし、より分かりやすい「館長」という肩書きで働いています。

運営のメンバーは、館長の私以外に3人いて、主に地元の主婦の方々です。そのうち1名は自身で合同会社を立ち上げ、フェムベースに登録して実際に起業を経験。その経験をYouTubeなどで発信し、法人登記や銀行口座開設などの実体験を共有しています。

また、オンラインで仙台在住のITに強いメンバーが1名おり、公式サイトの運用やSNS周りの進捗管理を担当しています。このように、スタッフ自身も起業に興味があったり、起業準備中であったりと利用者と近い目線で運営されているのも特徴かなと思います。

まずは地域での「やってみたい」の実現を。そして運営母体との連携で事業拡大も可能に

フェムベースの内装

地域の方にも利用しやすいように開かれている雰囲気がお話からも感じられますね。公的機関との違いや民間施設としての特徴があればぜひ教えてください。

商工会議所などの公的機関ですと中小企業診断士との面談時間が決められていて、どうしても一期一会的な関係になりがちですが、フェムベース池上では会員になってもらえれば私からも継続的な支援が可能です。
面談時間に縛られることなく、必要な時に相談やメールでの連絡ができますし、きめ細かい伴走支援を提供できるのは私としてもありがたいことだと感じています。

また、株式会社ソフィアコミュニケーションズの一事業としての利点もあり、コンサルティング事業部や研修事業部との連携も可能です。事業計画作成や補助金申請などの際にはコンサル事業部と協力したり、ビジネスセミナーや交流会への参加を促したりと会社全体のリソースを活用した支援を行っています。

常に起業に対する不安や懸念にも寄り添える体制を整えていて、マインドとしては「なんとかなる」ではなく「なんとかする」という経験を持つメンバーが、起業家一人ひとりの状況や気持ちに合わせてサポートを提供しています。とくにソフィアコミュニケーションズのコンサルティングチームのメンバーは、個別の状況に応じた詳細なサポートを行っています。

そのため、今のフェムベース池上の規模感は、入居メンバー同士の顔が見える関係性を保ちながら、適度な広がりも感じられる良いバランスなのではないかと感じますね。

入居されている方との事例でこれまでに印象的な出来事などあれば教えてください。

たとえば、入居者さんがフェムベース池上でイベントを実施する場合に、地元の商店街のSNSへのイベント告知を掲載してもらったり、池上での地域イベントでのチラシ配布支援をしたりなど地域に密着したことも多く行っています。
こういったプロモーションの支援などは、とくに既定のメニューとして用意されていたわけではなく、入居メンバーとの対話の中でニーズが生まれ、実現したものです。

先日も、会員の方が運営する個別指導塾の宣伝と、フェムベース池上の宣伝を両面に掲載したチラシを作成し、池上本門寺の御会式の際に一緒に配布活動を行ったりしました。このように、入居者の皆さんのニーズに応じて柔軟に支援の形を作り出し、信頼関係を築きながら協力して活動を広げています。

女性の創業も多いかと思いますが、子育て支援の機能は場所として持っていますか?

専門の保育士が常駐しているということはありませんが、子連れでの施設利用が可能な環境を整えています。
施設内には子連れでも参加できるイベントを開催する入居者さんも多いですね。主催される方が入居登録をされていれば、どなたでも参加いただけるようなやり方を取っています。

ヨガ講師の方が入居されて屋上でお月見ヨガのイベントを実施してみたり、クリスマス会など季節のイベントをフェムベースと共同で企画・実施したりするなど柔軟な施設運営を行っています。

他のインキュベーション施設との連携も行っていますか?

フェムベース池上単体ではどうしても施設の規模はそこまで大きくないので、できることには限りがありますが、他施設との連携は積極的に行っています。川崎のインキュベーション施設や、六郷BASEとの交流はよくあります。

ちなみに、フェムベース池上は入居に際して創業年数の制限がないことも特徴で、他施設からの移行も柔軟に受け入れています。卒業は、従業員を抱えて独自のオフィスが必要になった時のみとしていて、緩やかな形での施設利用が可能です。

運営にあたっては、どのような価値観を大切にしていますか?

最も重要視しているのは、人々に多くの選択肢を提供することでしょうか。起業後に再び会社員に戻ることや、フリーランス、副業など、さまざまなキャリアパスの可能性がありますから、そういった柔軟さを提示することをめざしています。

また、フェムベースのメンバー全員に共通しているのは、前向きな姿勢を大切にしているところです。事業として地に足をつけることも重要ですが、私たちは「背中を押す」という役割を担っていますから、スタッフ一同、「できない理由は探せばいくらでもあるかもしれないけれど、おもしろそうだからまずはやってみよう」という態度ですね。

企業にはさまざまな段階がありますが、創業から組織の成長、時には事業を畳むという選択肢もある中で、一緒に頑張ろうという姿勢で何かを始めようと検討する方々のサポートをできればと思います。

具体的な支援事例として印象に残っているものがあれば、教えてください。

子育て中のママ当事者の起業支援はとくに嬉しい事例として挙げられますね。

じつは、高校生の時からいつかは自分で起業してみたいと思っていらっしゃる方がいました。とはいえ、当時は会社員としてITエンジニアをされていたのですが、このフェムベース池上に産育休中にフラッと立ち寄られたことをきっかけに、なんと、法人化を決意されたんです。

ロゴの作成やサービスメニューの立ち上げを支援し、現在は2期目で売上も安定してきて、専業で自身の会社を経営されています。また、ソフィアコミュニケーションズとも協業し、IT関連のお仕事を一緒に受注したり、展示会にも同行したりするなど継続的な関係を築いています。この方は、「子育て中のママの起業支援」というフェムベースの当初からの理念を体現するロールモデルですし、現在も会員限定向けに特別なサービス提供を検討されるなどこのコミュニティの横のつながりにも貢献してくださっています。

さらなる地域密着と、地方創業をめざす方への応援の両立を

フェムベースの働くスペース

今後はどのような方にフェムベース池上を利用してもらいたいですか?

二つの方向性がありますね。一つは大田区の地域密着で何かをしたい方です。商店街の一角にある立地を活かし、他の店舗とも連携して地域を盛り上げたい方を歓迎しています。

もう一つはバーチャルオフィスプランを利用する、他地域、東京以外の方です。たとえば、地方在住で、起業をしたいけれど周りに起業している人があまりいない方に対して、遠隔での相談や支援を提供できればと考えています。
東京都の認定施設という安心感もあるかと思うので、SNSを強化して発信していきたいですね。

INCU Tokyoに期待することがあれば最後に教えてください。

主に、他施設との連携を期待しています。フェムベース池上は、ここまでの1年間は、新旧スタッフ間での価値観の共有や内部体制の整備に注力してきました。その結果、施設内の体制が整ってきたことで、次のステップとして外部との連携や学びに目を向けていく段階に来ています。

ちょうどそのタイミングでINCU Tokyoがスタートしていることもあり、他の施設から学ぶ機会や多様な施設との連携の可能性に私たちも期待を寄せています。外部からも学び、さまざまな施設との連携を通じて、さらなる成長をめざしていければ嬉しいです。

記載内容は2024年10月時点のものです。

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