Interview

本多氏がインタビューを受ける様子
27

子どもから大人まで、何をしてもいい場所。地域と共に「あったらいいな」を形にしていく

コワーキングスペース Breath

「子育てと仕事を両立したい」という想い、そして社会への違和感からコワーキングスペースBreathを開設した本多 夏帆氏。起業家支援にとどまらず、幅広い世代に向けたサービスやイベントを企画し、地域のハブとして施設を発展させています。そんな本多氏に施設の取り組みや地域活性化への展望を聞きました。

プロフィール

中央大学法学部を卒業後、塾講師やベンチャー企業での経験を積んだ後、25歳で行政書士試験に合格し開業。教育や採用コンサルタントなどにも取り組む。出産後も仕事と子育てを両立し、自身の課題感から子育て支援のあるコワーキングスペースを開設。「柔軟な子育てと働く」をテーマに市議会議員に挑戦し、現在2期目。

子どもを預けながら仕事や勉強ができる。地域に根差し、誰でも利用可能な“居場所”

Breathの外観

コワーキングスペースBreathの特徴について教えてください。

株式会社Office Breathが運営する、三鷹駅北口から徒歩5分の場所にある、子育て支援も受けられるコワーキングスペースです。「赤ちゃんみまもりサービス」というプランでは、保育士や子育て経験のあるスタッフが1~2時間ほど赤ちゃんを見守っている間、親が仕事や勉強できる環境を提供しています。

当初は待機児童問題への対応が主な目的でしたが、現在では小学生から中高生まで幅広い年齢層の子どもたちが利用する場所へと進化しています。親子で一緒に利用したり、それぞれが自分のやりたいことをしたりできる場所として機能していて、まさに多世代・多目的スペースと呼べる存在になっています。

また、来場者に寄り添える、子育て世代のスタッフが多いのも特徴です。現在20人ほどいて、多くがパートタイム勤務ですが、自身のスキルや経験を活かしてクリエイティブな仕事をしています。インキュベーションマネージャーは私ともう1人ですが、ほとんどのスタッフがそれぞれの専門分野を活かして利用される方の相談に乗れる体制になっています。

利用できるのは、お子さんがいる方に限られるのでしょうか?

私たちの施設は、地域に根差した場所として運営しています。設立当初は子育て支援施設と思われがちでしたが、実際には子どもがいない方や男性の利用も多いんです。地域にはさまざまな人がいるという考えの前提のもと、どんな人でも仕事や勉強、休憩などいろいろな目的で利用できるよう設計しています。

利用するには、会員登録をする方法と登録せずにカフェ利用する方法があります。コーヒー1杯だけ飲みに来たり、創業相談やイベントだけに参加したりする方も。そういった、さまざまなニーズに柔軟に対応できる体制を整えています。

まるで公共施設のようなイメージですね。

よく言われます(笑)。公共施設との大きな違いは、この場を利用して業務の展開や営利活動ができることです。公共施設では、たとえばワークショップや教室を開催するのにも制限が多く、お金を稼ぐことが難しい現状があります。でも、この施設はそういった制限がありません。何をしてもいい場所として、需要があると考えています。

起業家支援としては、どのような取り組みを行っていますか?

創業のための相談会やコンサルティングのほか、ビジネスマッチング的な活動も行っています。ただし、マッチングのためだけの会というわけではなく、地域の交流会を月に1~2回開催しています。ビジネスだけでなく子育てや地域の話題など、さまざまな話をするフラットな場ですね。

創業支援の場としても機能していて、何かやりたい方をゲストとして招き、興味あるテーマを設定してもらうこともあります。ビジネス以外の方も参加できるため地域の輪を広げる効果があり、結果的にはこのスペースの新たな顧客獲得にもつながっています。

また、レンタルスペースやシェアキッチンもあるので、ビジネスのための実験的な取り組みも可能です。たとえば、シェアキッチンでは飲食店の開業をめざす方にテストマーケティングの場を提供しています。

誰もやらないなら私が──自身の想いと社会へのアンチテーゼとして施設を立ち上げ

本多氏がお子さんを抱っこする様子

本多さんのこれまでのキャリアを教えてください。

大学卒業後、塾講師やベンチャー企業を経て自営業となりました。25歳の時に行政書士試験に合格して開業するとともに、教育や採用コンサルタントとしても活動。また、学生時代の合唱経験を活かして、チームビルディングのための企業研修なども行っていました。

コワーキングスペースBreathを始められたのは、どのような経緯だったのですか?

出産を経験した後、私自身が「子育てしながら仕事をしたい」と思い、2018年11月に開設しました。ただ、きっかけはそれだけではありません。フルタイムで働かないと保育園に入れないなど、保育行政の制度によって個々人の働き方までもが決められてしまっているような状況に違和感を覚えたんです。

私自身は会社員ではなかったので、ある程度の自由はありましたが、「なぜ保育園はこういう仕組みのものしかないのだろうか」と疑問を感じて。当時から働き方改革や副業の促進など社会は変化していましたが、インフラが追いついていないと感じました。そこで、そういった社会の仕組みに対するアンチテーゼとして、この施設を作ったんです。

私は、子どもの頃から必要だけど誰もやっていないことを見つけて「じゃあ、やるか」という思考回路があるようで、学級委員を引き受けたり、この施設を立ち上げたり、市議会議員になったり……。それが私の行動力の源になっています。

仰られたように、現在は武蔵野市議会議員も務められていますが、きっかけはこの施設だったのでしょうか?

そうですね。この施設の運営を通じて行政の制度設計に課題があると強く感じるようになり、政治の道に進もうと決心しました。現場で感じたことをそのまま政治の場に持ち込むことができますし、行政と民間の両方がわかるからこそ見えてくることも多々あります。行政でできること、民間でできることをそれぞれ探りながら、より効率的で地域の人々にとって使いやすい仕組みを作っていきたいと思っています。

起業家支援に携わる中で、どのような点にやりがいを感じますか?

個人事業主の方々から喜びの声をいただけることですね。たとえば、60代で第二の人生として創業される方々は、ビジネスに関することだけでなくインターネットのトラブルやPC操作の疑問など些細なことでも相談に来られます。会社勤めをしていれば周りの人に聞けますが、個人事業主の方にとってはこういったことを気軽に相談できる場所が少ないんです。

そのため、私たちは「コーヒー1杯飲みに来てくれれば、一緒に見ますよ」といった姿勢で対応しています。このような環境を提供することが、創業支援において非常に重要だと考えています。「ここがあるから創業できた」という言葉をいただくことも多く、地域で何かをしたい、働きたいという方にとって身近な相談場所になれていると実感しています。

2,500人を集客した新たな挑戦。多様なニーズに応えながら「地域のハブ」へ

赤ちゃんみまもりスペースの様子

起業家支援をする中で、印象に残っていることを教えてください。

私たちの施設には、レンタルスペースやシェアキッチンなど「箱」としての機能があります。そのため、商品を販売したりワークショップを行ったりという、いわば事業計画のアウトプットのための場所を提供してきました。

ただ、約6年間を経て、最近はここだけでは収まりきらないような状況になってきて。また、創業支援には集客や認知度向上のための取り組みも重要ですが、なかなか最初は集客が難しく、1回だけで諦めてしまう人も少なくありません。

そこで、外部で大きなイベントを企画して、そこにさまざまなジャンルやカテゴリーの起業家に参加してもらうという新たな挑戦を始めました。それが、2024年9月に武蔵野公会堂で開催した「こども体験パーク」という体験型イベントです。

約40団体が参加し、それぞれが全力でPRを行った結果、約2,500人もの方々にご来場いただきました。このイベントを通じて、施設の露出や取材依頼なども増加しました。みんなで協力してPRすることの重要性を実証する良い機会となったと思います。

施設運営や起業家支援において、心がけていることはありますか?

「なるべく断らない」ということです。先入観で決めつけず、できる限り対応するよう心がけています。最初は子育て支援のあるコワーキングスペースとして始めましたが、地域のニーズを聞いていく中でさまざまな課題に気づき、学童プランを作ったり高齢者と乳幼児の交流ができる場にしたりしてきました。

そういった「あったらいいな」を形にすることを心がけながら、創業支援だけでなくあらゆる相談を受け付け、必要な人を必要な場所につなげる体制を整えています。単なるコワーキングスペースではなく、地域のハブ的な役割として地域の活性化と新たなビジネスの創出に貢献していきたいと考えています。

INCU Tokyoを通じて、地域に開かれた多世代交流の場を各地に増やしたい

コワーキングスペースの様子

どのような起業家にコワーキングスペースBreathを使ってほしいですか?

幅広い年代の方に利用してほしいのですが、現在は20代の利用者が少ないという課題があります。この年代は地域とのつながりがもっとも希薄な時期で、20代が地域に関わることで新たな活力が生まれる可能性があります。今後は、大学生から20代向けのキャリア相談や副業支援などのプログラムを充実させていく予定です。

シェアキッチンを活用した若者の飲食店開業支援なども行っていますし、中高生向けの探究学習支援やビジネスプラン作成のサポートなども提供していきたいと考えています。このような形で、若い世代のチャレンジを応援したいですね。

インキュベーション・コミュニティ「INCU Tokyo」を通して、実現したいことを教えてください。

私たちの目標は、コワーキングスペースBreath のような施設を各地域に増やしていくことです。必ずしも私たちが直接運営するのではなく、他の地域でも同様の考え方で、地域に開かれた場所を増やしてほしいと考えています。そのために、視察の受け入れや展示会への参加も積極的に行っています。

とくに、郊外や住宅街での運営に苦戦している施設に対しては、コワーキングスペースにこだわりすぎずに対象者を広げ、地域に開いていく方法を共有したいと思っています。スタートアップだけをターゲットにすると人が集まりにくい場合があるため、より幅広い層を対象にする方法を提案しています。

INCU Tokyoを通じて、私たちの考え方やノウハウを他の施設の方と共有し、互いに学び合える関係を築きたいですね。そうすることで、各地域に根差した多世代交流の場が増え、地域全体の活性化につながると信じています。

記載内容は2024年10月時点のものです。

インキュベーション・
コミュニティ
「INCU Tokyo」へ参加する

募集概要を確認のうえ、
下記から申し込みください。