Interview
起業家の羽ばたく姿が見たい。親身なサポートで築くWin-Winの関係は、地域への愛がカギ
東京・北千住のe-BUSINESS CENTER(e-ビジネスセンター)でインキュベーションマネージャーを務める池田 由美子氏。2006年の開設以来、起業家に対して親身なサポートを心がけ、成長に貢献してきました。起業家が大きく羽ばたく姿を見るのが喜びという池田氏の考え方や、当センターの強みとは。
プロフィール
2008年に株式会社トップワイジャパンに入社。すぐにインキュベーション事業の立ち上げを任される。センター長としてスタッフのマネジメントをしながらも地域密着という北千住という土地柄や特色を出しながらインキュベーションを形作る。今は起業される方の相談を受けながらも創業者をサポートできるよう支援をしている。
マネージャーの多種多様な資格を活かし、あらゆる相談に応じられるのが強み
まず、e-ビジネスセンターの概要を教えてください。
通信事業を展開するトップワイジャパンという会社が2006年に開設し、運営を続けています。約30の個室を備えるほか、シェアオフィスや会議室、1人用の部屋もありますね。社会保険労務士や行政書士、弁護士などの士業をはじめ、人材紹介や不動産、イベント会社も入居していて、業界は多岐にわたります。
東京の北千住という下町の雰囲気を活かし、入居者の目線に立って親身にサポートすることを心がけています。たとえば、来客対応や郵便物の預かり・転送といった日常の細かな業務から、起業に向けた銀行や司法書士の紹介、採用相談、イベント会場の手配、助成金の案内まで幅広く支援しています。
センターの強みは何ですか?
私自身が持っている健康経営アドバイザーやライフプランアドバイザー(東京都中高年勤労者福祉推進員)、住宅ローンアドバイザー、働く障がい者を支えるサポーターなどの各資格を活かし、日頃からあらゆる相談に応じられるように体制を整えています。トップワイジャパンの事業に絡み、電話回線やネットワーク回線の構築をお手伝いすることも可能です。
さらに入居者向けに月1回、悩みや要望をお聞きする相談会も開いています。最近ではある会社から、新たにアスリート向けの健康食品事業を始めたいという相談を受けたので、健康食品の試供品を配るスポーツクラブを紹介するなどのバックアップもさせていただきました。
起業支援の勉強会を重ね、インキュベーション施設としての認知度が高まる
池田さんのこれまでの歩みを聞かせてください。
大学卒業後にテレビ雑誌の出版社に3年ほど勤務し、編集の仕事に携わっていました。退職後は夫と共に起業し、50店の惣菜店を運営する会社で経理や総務を担いました。その後、トップワイジャパンに入社し、e-ビジネスセンターの立ち上げを一任された形です。
センターがまずはレンタルオフィスとしてオープンした背景は?
当社の代表は、「他の人たちがあまりしていないようなことに挑戦したい」という考えを常に持っていました。そんな中で浮上したのがレンタルオフィスの運営だったんです。「海外と違って、日本ではまだまだ少ない。開設をめざしてみようか」という話になりました。
関連の知識がほとんどない状態で新宿や銀座、中野などの先進的な施設を見て回り、レイアウトやサービスなどを参考にしながら準備を進めました。
その後、インキュベーション施設へとシフトした経緯を教えてください。
インキュベーション施設へと転換していったのは2010年あたりです。当初は、単なる賃貸スペースとの違いを周囲に理解していただくのに苦労しました。
でも、他社と協力して毎週日曜に社会保険労務士を招き、起業支援の勉強会を開いたところ、起業をめざす方々の参加が増え始めたんです。初期費用の捻出や個人での借入の難しさなど、起業家の悩みを耳にし、私たちも課題解決にいっそう力を入れるようになって。そこから徐々に、インキュベーション施設として認知されるようになったと思います。
コミュニケーションの「密度」を重視。退去後も思い出してもらえる施設に
起業家を支える上で心がけていることはありますか?
コミュニケーションの「密度」を大切にしていますね。たとえば入居者と顔を合わせた時、あいさつだけで終わるのはなく「何かお困り事はないですか」「いつでも相談に乗りますよ」と声をかけるようにしています。すると「この件で困っているんだよね」と応じてくださり、新たな課題解決につながることもあるんです。
サポートを続ける中で印象に残っている出来事はなんですか?
当センターに入居し、不動産会社を立ち上げた方のお話です。徐々に会社の業績が伸び、従業員の数も増えて手狭になったので、当センターを「卒業」されました。私としても、その方からのささいな依頼に応じたり、困り事の相談に乗ったりとサポートし続けた結果、会社が大きく羽ばたいてくれたのでうれしく感じていました。
その数年後に、不動産会社の従業員がセンターに来られたんです。「会社の創業記念イベントで流す動画を、会社が誕生したこのセンターで撮影したい」とのことで。退去しても思い出していただけるような施設になったのだなと思い、とても感慨深かったですね。
起業支援に携わるやりがいを教えてください。
思い出すのは、当センターの開設当初に入居していた損保会社です。ある日、センターに「損保会社の方と至急連絡を取りたい」というお客さまが来られたのですが、不在でした。私は以前、自分の友人がその損保会社の話をしていたのを思い出し、「もしかしたら」と友人に連絡してみると、たまたま友人宅に損保会社の方が営業訪問していたんです。無事に連絡が通じて、お客さまと損保会社から感謝されました。
こんなふうに、いろいろな方面にアンテナを張って会社の成長に貢献していくという積み重ねに、大きなやりがいを感じています。
横のつながりを求めINCU Tokyoに加入。若い人と交流して刺激を受けたい
今後、どんな起業家に入居してほしいですか?
起業に向けて熱い想いを持っている方々に、ぜひ入居していただきたいですね。そのほうがこちらとしてもサポートのしがいがありますし、お互いにより高みをめざせると思います。起業家の方々のやりたいことや、かなえたい夢をなし遂げられるように、できる限りの支援をさせていただきます。業種は問いません。
センターがインキュベーション・コミュニティ「INCU Tokyo」に加入したのはなぜですか?
情報収集や横のつながりを求めて加入しました。インキュベーションマネージャーとしての業務は今も手探り状態なので、他のインキュベーション施設がどのような支援をしているのか、課題をどのように解決に導いているのかを知りたいですね。逆に私でお役に立てることがあれば、ノウハウなどを提供していけたらと思っています。
INCU Tokyoを活用して実現したいことはなんですか?
INCU Tokyoには若い人たちが多く、またコロナ禍を経て仕事の仕方が大きく変わったので、インキュベーション施設ごとにさまざまなカラーや強みがあると思います。それらを勉強させていただきつつ、若い人たちの考えも積極的に聞いて、刺激を受けていきたいですね。
そして引き続き、北千住という地で人と人とのつながりやぬくもりを大事にしながら、支援を進めていきたいです。入居者の皆さんとはよく「お互いにWin-Winになれたらいいですよね」という話をしています。よりよい関係を築きつつひとりでも多くの起業家の成功に貢献できれば、こんなにうれしいことはありません。
記載内容は2024年9月時点のものです。