Interview

正面を向いている森下氏
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地域を巻き込むイノベーション──高田馬場をシリコンバレーのような創業の街へ

CASE Shinjuku

1998年にシェアオフィスの運営に関わり始めた森下 ことみ氏。現在は、シェアオフィス&コワーキングスペース「CASE Shinjuku」の施設運営に携わり、利用者との交流や支援に力を注いでいます。「人とつながることで未来が変わる」と信じて地域とのつながりを大切にしてきた森下氏が、施設運営のやりがいや想いを語ります。

プロフィール

大学卒業後、結婚を機に上京。1998年12月、三鷹市が設置したシェアオフィスの受付を担当。2004年3月、受付スタッフ3名と創業。シェアオフィス・コワーキングスペース運営者として、起業家の身近な良き隣人・相談役でありたいと、自身の創業体験や人脈も生かしながら、未来を切り開くチャレンジを応援している。

多様な利用者が集う場所。アットホームな雰囲気が特徴

CASEのコワーキングスペース

施設の概要や特徴について教えてください。

私たちの運営する施設「CASE Shinjuku」は、高田馬場駅から徒歩1分という好立地に位置する、150坪のシェアオフィス&コワーキングスペースです。

私たちの施設の特徴の1つは、利用者の多様性にあります。小説家や編集者、イラストレーター、デザイナーなどのクリエイティブ職の方々やITプログラマーの利用が目立ちます。最近では欧米を中心に海外からの利用者も増えています。

また、単にスペースを提供するだけでなく、イベントなどを通して利用者同士のコミュニティ形成にも力を入れています。さらに、利用者の自主性を尊重し、彼らの発案によるイベントも積極的にサポートしています。このようなアットホームな雰囲気づくりが、CASE Shinjukuの大きな特徴の1つとなっていますね。

具体的にどんな支援をしていますか?

月に2回、日本政策金融公庫の担当者による個別相談会を開催しています。公庫の融資について概要を知りたいという方から、すぐにでも申し込みをしたいという方まで、個別に相談できる機会を提供しています。また、私自身が東京都の創業サポート事業の地域アドバイザーとして対象となる方への案内もしています。他にも、社内の中小企業診断士による補助金申請の助言や、各種支援策の情報提供も行っています。

専業主婦からシェアオフィス運営者へ。ウェブメディアやラジオで積極的に情報発信中

パソコンに向かって仕事をする森下氏

これまでの経歴からCASE Shinjukuを始めた背景について教えてください。

私がシェアオフィスの運営に携わるようになったのは、1998年に三鷹市が設置したシェアオフィスでパート職員として働き始めたことがきっかけです。当時私は専業主婦で、働くことにはあまり興味がありませんでした。けれど、シェアオフィスに集う人たちが忙しそうでありながらも生き生きと楽しそうに働いている姿を目の当たりにして、関心を持ったんです。

その経験から、人と人がつながるだけで人の未来は変わるんだと身をもって実感しました。2004年には当時の受付スタッフ3名で創業。シェアオフィスの受付業務や、シェアオフィスで働く人の電話代行などをしてきました。

そして創業から10年後、高田馬場駅近くの良い物件に巡り会えたことから、CASE Shinjukuの立ち上げを決意するに至ります。

森下さんの現在の業務内容は何ですか?

現在、私はCASE Shinjukuの日々の運営に加え、「高田馬場経済新聞」の記者としても活動しています。これは地域の情報を発信するWebメディアで、6年前に立ち上げました。

新規事業の立ち上げや事業継続のために、とにかく「知っていただく」ための広報活動は重要な要素の1つです。自分たちでメディアを持つことで、CASE Shinjukuのメンバーの活動やサービスを紹介する広報活動ができればという想いがありました。

取材を重ねるうちに、飲食店の店主、商店会のキーパーソン、公共施設の運営者、近隣の大学の広報の方や学生など、地域で活躍する多くの人々とのつながりが生まれました。

さらに、「馬場経ラジオ」というポッドキャストも始めました。これは取材した方々にCASE Shinjukuに来ていただき、ライブでインタビューを行うものです。2024年10月で100回目を迎えます。

これらの活動を通じて、CASE Shinjukuのメンバーと地域の人々が出会い、新たなつながりが生まれることを願っています。

創業支援の現場で、成長や成功を間近で見られるやりがい

森下氏が起業家の相談に乗る様子

支援する中で印象に残っていることはありますか?

ある30代の女性起業家に「なぜ会社を作ったのですか?」と尋ねたところ、「周りに人がいっぱいいるなって思った時に、できるなって思っちゃったんですよね」とおっしゃったんです。この言葉を聞いた時、私自身の創業経験と重なり、とても感慨深かったです。

私も会社を立ち上げた当初は、周りに個人事業主や会社の社長さんがたくさんいて、わからないことがあれば聞けばいいやと思えたんです。そういう環境があったからこそ、創業に踏み切れたんですね。

また、私がこのCASE Shinjukuを始める時、はたしてうまくいくのだろうかという不安がありました。けれどちょうど会社の10周年パーティーがあり、これまで仕事を通じて出会った100人もの方々が集まってくれたんです。その時、「こんなに人がいればなんとかなる」と強く感じました。なので、運営を通じて私がもっとも大切にしているのは、このスペースがメンバーの皆さんにとって「できるなと思える」場所になることです。

シェアオフィスの良さは、人と人がつながり、互いに刺激し合うことで、新しいアイデアや事業が生まれる可能性が広がること。だからこそ、CASE Shinjukuでは人と人をつなぐことを何より大切にしています。

具体的には、毎週金曜日の「雑談タイム」の設定や、夏休みと冬休みにはメンバーの家族も参加できるイベントの開催など、さまざまな交流の機会を積極的に設けています。

創業支援に携わり続ける魅力や、やりがいを教えてください。

1つのプロジェクトが形になっていく過程を長期にわたって見守れることは、仕事の醍醐味だと思います。こういった経験を通じて、起業家の方々の成長や成功を間近で見られることが、私にとって大きなやりがいとなっています。

最近では、漫画の編集者をしている方が映画プロデューサーとして製作した映画が、全国公開されるということがありました。私は、その方の6年間にわたる奮闘の様子を間近で見守り、台本作りから資金調達、キャスティングまでさまざまな局面での苦労や喜びを共有させていただきました。ついに完成した映画を試写会で観た時は、本当に感無量の想いでした。

また、日本政策金融公庫の方を招いての個別相談会は、起業家の方々に喜んでいただいています。融資の申し込みがオンライン化される中で、対面で申請書類の書き方や注意点などをしっかりとアドバイスしています。それにより資金調達ができたという声を聞くと、とても嬉しく思います。

このように、起業家を支援できるのは本当に幸せなことだと感じています。一人ひとりの小さな成功や気づきが、やがて大きな成果につながっていく。そんな過程に寄り添えることが、創業支援に携わる者としての最大のやりがいだと思っています。

施設にとどまらず、地域全体でつながっていく──創業の街「バババレー」をめざして

CASEのシェアデスク

今後の展望について教えてください。

今後の施設運営について、私は大きな展望を持っています。とくに、スタートアップやベンチャー企業の方々に、より多く利用していただきたいと考えています。ただ、現状では定着が難しいという課題があります。成長の早いスタートアップ企業は、すぐに手狭になって出ていってしまうケースが多いんです。

しかし、これはある意味で良いことだとも捉えています。「ここで会社が生まれた」という思い出を多くの人に持ってもらえれば、それだけでも大きな価値があると信じているからです。たとえ施設を離れても、ここが「ふるさと」のような存在になれば嬉しいですね。

また、シリコンバレーならぬ「バババレー」として、高田馬場全体が創業の街として認知されることが私の夢です。現在私たちは「#バババレー」というハッシュタグを使って、情報発信する取り組みを行っています。施設内の利用者だけでなく、地域全体のベンチャー企業とのつながりを大切にしたいと思っています。そのためには、今後もシェアオフィスの運営を通じて、人と人をつなぎ、新しい可能性を生み出す場を提供し続けていきたいですね。

「INCU Tokyo」に期待していることはありますか?

施設同士の横のつながりができることを期待しています。所属している一般社団法人コワーキングスペース協会では、月に1回程度、各地のコワーキングスペースに集まって勉強会を行っていて、今年で100回を越えました。最初は「臭いの問題はどうしていますか?」といった些細な悩みの共有から始まり、だんだんと話題が深まっていきました。そういった横のつながりは本当にありがたかったですし、今でもつながっていて助かっています。

「INCU Tokyo」も、困り事の共有や解決策の情報交換、契約書や規則のドラフト共有など、実務的なツールや情報の共有ができるコミュニティになることを望んでいます。

記載内容は2024年9月時点のものです。

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