Interview

金融部会参加者の集合写真
鼎談

INCU Tokyo金融部会で生まれる横のつながり。悩みを共有し、新たな挑戦のきっかけに

J-Create⁺ / me:rise 立川 / スタートアップえびす

金融機関が運営するインキュベーション施設には、金融機関ならではの強みがある一方で特有の課題も。こうした課題を共有し、協力し合う関係を作るために発足したのが「金融部会」。今回は、J-Create⁺の内田 祐介氏、me:rise 立川の小倉 航氏、スタートアップえびすの武田 直也氏に、各施設の取り組みや金融部会発足の手応えを聞きました。

プロフィール

内田 祐介氏(J-Create⁺

大学卒業後、城南信用金庫に入職。4店舗経験し、2018年にお客様の経営相談を専門的に受ける企業経営サポート部に配属となる。2021年より創業支援施設「J-Create⁺」のインキュベーションマネージャーを務める。

小倉 航氏(たましん地域/未来共創センター me:rise 立川[ミライズタチカワ]

2013年多摩信用金庫へ入庫。2店舗での支店にて個人向け、法人向けの営業を経て、立川市役所へ外部出向し企画政策課へ配属。行政において企画運営に取り組み、2022年に価値創造事業部法人支援グループ創業支援担当へ着任。創業者の個別相談や創業セミナーの企画運営、ビジネスコンテストの企画、実施をしている。

武田 直也氏(スタートアップしもきたスタートアップえびす

金融機関や公的な創業支援施設、スタートアップ企業に勤務し、現在は昭和信金のインキュベーション施設にてマネージャーを務める。信用金庫出身であり、創業時の資金調達が得意分野。創業者だけでなく、金融機関や支援機関向けの創業融資や創業支援の研修も実施している。中小企業診断士。

支援する側が成長するための「横のつながり」を求めてINCU Tokyoに参加

施設の取り組みを語る内田氏

まずは、それぞれの施設の特徴とINCU Tokyoに参加した経緯を教えてください。

内田:J-Create⁺は、大田区西蒲田で城南信用金庫が運営している施設で、入居企業のうち8割ほどが創業して間もない企業です。最長4年の入居期間の中で経営基盤を築いて次のステップに進んでいただくために、商工会議所や公的機関とも連携しながらサポートをしています。
私たちがINCU Tokyoに参加したのは、入居企業が他の企業とつながる機会を作りたかったことと、支援側の悩みを解決できる場を持つことで、支援する人たちも盛り上がっていきたいという理由からです。

小倉:me:rise 立川[ミライズタチカワ]は、多摩信用金庫の旧本店を活用したコワーキングスペース・インキュベーションオフィスです。建物は天井が高く解放感があり、立川駅から徒歩6分とアクセスも良好です。コワーキングスペースはテレワーカー、学生、起業準備中の方など幅広い利用者がいて、インキュベーション個室にはSaaSなどのスタートアップが多く入居しています。
施設の立ち上げフェーズとINCU Tokyoの設立時期が重なっていたこと、そして、他施設の先進的な取り組みを知ることで新たな気づきを得られると思ったことが、INCU Tokyoに参加したきっかけです。

武田:スタートアップえびす/スタートアップしもきたは、昭和信用金庫が運営するインキュベーション施設です。入居者の業種はさまざまですが、比較的IT系やマーケティング系のスタートアップが多く、スタートアップしもきたはコワーキングスペースで本店登記ができる点も特徴です。
私たちも、横のつながりを増やしたかったことがINCU Tokyoに参加した理由です。自分たちだけでできることには限界があるので、他の施設と協力し合う関係を作りたいと考えました。

施設独自の取り組みや、入居企業をサポートする際に心がけていることはありますか?

内田:城南信用金庫として融資相談は受けますが、私自身が融資の可否を判断するわけではないので、あえて客観的な視点で見ることを心がけています。資金面以外にもマーケティングや営業方法などの相談を受けることが多いのですが、私自身が信用金庫の職員として15年ほど営業活動をしていたことや、さまざまな企業の成功事例や失敗事例をもとにアドバイスできることは、信用金庫ならではの支援と言えるかもしれません。

武田:客観的な視点でサポートするという点は、私も同じです。私は昭和信用金庫の職員ではありませんから、フラットな立場でサポートできるのです。たとえば、信用金庫の担当者とどのように信頼関係を築けばいいかなど、職員ではないからこそアドバイスできることもあります。

小倉:私たちは、他企業との共催でビジネスコンテストを開催しています。最終選考会場としてコワーキングスペースを活用することで、立川を知っていただくきっかけになりますし、施設とのつながりも生まれます。
また、創業セミナーを毎月開催していて、それも施設を知っていただくきっかけになっています。

ビジネスコンテストのように、他施設と連携した取り組みもしているのでしょうか。

内田:昭和信用金庫さん、巣鴨信用金庫さんと一緒にイベントを実施しましたね。入居企業のプレゼンをきっかけに、上場企業とのマッチング事例も出てきました。

武田:創業融資を検討している方を対象に、複数の金融機関が創業計画書を見て「いくらなら資金を融資できるか」をその場で回答する、というイベントを開催しています。次回は、城南信用金庫さん、多摩信用金庫と一緒に開催する予定です。

小倉:昨年度は、INCU Tokyoでつながった施設と合同でイベントを開催しました。入居企業の紹介に加えて、地域で起業を検討している方たちとの交流会ができたこともよかったです。

金融機関の「信用力」と「ノウハウ」が強み。不便さは「密な対話」でメリットに変える

施設の強みを語る小倉氏

インキュベーション施設を運営する上で、金融機関の強みをどこに感じていますか?

小倉:金融機関が運営している施設に入居しているということで、社会的信用力や安心感を得られることは強みだと思います。加えて、金融機関が持っているネットワークを活用して、創業後の販路開拓の支援ができることも強みです。

内田:金融機関は事業計画書も数多く見てきていますから、一定レベルまで引き上げるサポートにも強みがあると思います。

武田:利用料を低く設定できることも特徴ですよね。金融商品という事業の柱があることはもちろん、地域貢献、地域活性化のために運営しているところも多いので、インキュベーション施設そのもので収益を上げるというより、入居企業への融資や、金融機関としてのブランド力向上につなげたいという側面があることが大きいと思います。
その代わり、入居期限が決まっているところも多いですから、次のオフィスに移るまでに利益を出せる体制を作っておくことも大事です。家賃が大幅に上がる可能性もありますから。

では逆に、金融機関が運営していることによる課題はありますか?

内田:金融機関はリスク管理の観点から稟議も慎重に行うため、社内の手続きという点で時間がかかることは課題の一つです。

武田:セキュリティの厳しさゆえ、コミュニケーションツールやクラウドサービスの利用に制約があることに、少し不便さを感じています。主な連絡ツールがメールとなるため、どうしてもスピード感が落ちてしまうのです。

小倉:私たちもコワーキングスペースの利用者からチャットツールの導入要望をいただいていますが、なかなか実現が難しい状況です。
当施設の場合は、登記ができないという制約もあります。問い合わせをいただくことも多いのですが、お断りせざるを得ないのが申し訳ないですね。

そういった課題にどう対処していますか?

内田:「対面や電話でのやりとりが中心です」とお伝えしています。金融機関はメールアドレスも部署ごとに指定されていることが多いので、電話の方がスピード感を持ってやりとりできることがあるのです。不便さはあるものの、あえてアナログな手段で頻繁にコミュニケーションをとることで、入居者の状況を自然と感じとることができたり、距離が近くなったりというメリットもあるのですよ。

武田:わかります。声を聞くことで、温度感が伝わってきますよね。

小倉:私も基本的にメールで連絡しますが、連絡がとりづらい場合は直接会いに行きます。なかなか連絡のとれない入居者と、どうやってスムーズにコミュニケーションをとっていくかなどは、まだまだ試行錯誤中です。

交流の場を求めて金融部会を立ち上げ。他社の事例が次の一歩踏み出すためのきっかけに

金融部会について語る武田氏

今回、新たに金融部会が立ち上がりました。立ち上げの経緯を教えてください。

武田:INCU Tokyo事務局主催のランチミーティングに参加した際、お互いを知ってはいるものの、組織として定期的な交流や情報共有をする場がもっとほしいと感じたことがきっかけです。インキュベーション施設を運営している信用金庫は多くないので、皆を巻き込んで新しいことに挑戦したいと思ったのです。とくに、昭和信用金庫は大きな組織ではありませんから、自分たちだけでできることは限られます。横のつながりを広げて、ノウハウなどを共有できると、もっと支援の幅が広がると考えました。

本日が初回の集まりでしたが、印象に残った話はありましたか?

内田:やはり、皆さんがどのような取り組みをしているのかを聞けたことがよかったです。たとえば、「足を使って集客している」という話。私も営業活動をしていたのに、最近は少し「信金魂」を忘れていたなと刺激を受けました。
また、うちはコワーキングスペースがないのですが、コワーキングスペースを持つことのメリットも、それに伴う悩みも知ることができたのは、参考になりました。

小倉:me:rise 立川は、コワーキングスペースはあるものの、登記ができないという課題があるので、そこをクリアしている施設の話が参考になりました。今後、当社もコワーキングスペースで登記できる仕組みや仕掛けを検討する上での第一歩になったと感じています。

武田:他施設が実践している事例を知ることができるのは大きいですよね。先ほど、金融機関は稟議を通すのに時間がかかるという話がありましたが、「他の金融機関で事例がある」ということは、とても影響力があるのです。
あとは、内田さんの仕事ぶりにとても刺激を受けました。お一人でインキュベーションマネージャーを務めていると聞いたので、その行動力に驚きました。

小倉:一人だからこそ、一社一社に対する責任感が強いことと、いい意味で「おせっかい」な熱量と行動量に感銘を受けました。自分自身の反省と振り返りの機会になりましたね。やはり、行動力は大事だなと。

内田:成長していく姿を見るのが楽しいのですよね。ある程度の経験値を積んで、しっかり成長して次のステップに進んでほしいじゃないですか。だから、「入居者ファースト」で仕事をすることは大切にしています。

同じ立場だからわかることがある。「ゆるく」つながりながら悩みを共有したい

今後について語り合う三者

金融部会は、今後どのような形で続けていく予定ですか?

武田:年3回から4回の開催を予定しています。堅苦しくない、「ゆるい会」にしたいと思っているのです。金融機関は堅いイメージを持たれがちですが、雑談の場が一番悩みを相談しやすかったりしますよね。決まったテーマを設けるのではなく、その時々に直面している悩みを共有し合えるような場にしたいですね。

内田:こうやって気軽に話せる場から、イベントなどのアイデアが生まれることもありますよね。私は社内に同じ立場の職員がいないこともあり、現場を理解している方たちと悩みを共有できる場があることが嬉しいです。何より、同じ立場の方々と交流するとモチベーションが上がります。

小倉:そうですね。多摩信用金庫は、全社的に創業支援に力を入れているものの、まだまだ社内にも私たちの取り組みは知られていません。 社内への周知という点でも、皆さんの取り組みを参考にしていきたいですね。

最後に、INCU Tokyoに期待することを教えてください。

小倉:2024年度に開催されたコミュニティマネージャー向けイベントや、インキュベーションマネージャー向けのピッチ指導の講座などはとても有益でした。実際にVCの代表の方にピッチのポイントや教え方を学べたのは大きな収穫です。多摩信用金庫は独自のファンドを立ち上げたこともあり、今後スタートアップへの投資や支援方法に関する講座を実施していただけると嬉しいです。

武田:イベントの集客や入居募集の発信に苦労する面があるので、起業を考えている方や創業して間もない方のコミュニティに情報を届けられる仕組みを作っていただけるとありがたいです。自分たちで入居対象となる方に直接アプローチすることには限界があるので、そういったコミュニティとつながれる仕組みがあると助かります。

内田:集客は課題ですよね。今は、イベントを開催する時などは各支店に協力してもらってお客さまに案内しているのですが、もっと広く周知できる方法があるといいなと思っています。

武田:あとは、他の施設と連携したイベントをこれからも開催していきたいのですが、自分たちで一から企画して実行するのは、とても時間がかかるのですよね。そういった意味では、INCU Tokyo主催のイベントが増えると、他施設との連携や入居企業からの情報発信のハードルが低くなるかもしれません。

記載内容は2025年12月時点のものです。