Interview

シティラボ東京の山川 才綾氏、六郷BASEの中村 祥之氏、ベンチャーステージ上野の小林 一雄氏
鼎談

他施設との交流で見えた自分たちの強み。INCU Tokyoで得た「引き出し」で起業家を共に支援

ベンチャーステージ上野 / 六郷BASE / シティラボ東京

起業家やスタートアップを「支援する側」がつながり、連携することで、より充実した創業支援環境を育むことをめざすコミュニティ「INCU Tokyo」。今回は、ベンチャーステージ上野の小林 一雄氏、六郷BASEの中村 祥之氏、シティラボ東京の山川 才綾氏に、INCU Tokyoでの活動をきっかけに新たに挑戦したことなどを聞きました。

プロフィール

小林 一雄氏(ベンチャーステージ上野

1971年生まれ。慶應義塾大学卒業後、日野自動車工業を経て家業のメトロ設計に入社。2008年に五代目社長に就任し、インキュベーション施設やシェアアトリエ、イベントスペースを立ち上げ、地域密着のまちづくり事業に尽力。2022年からは地元有志と養蜂活動「鶯谷ハニーラボ」を展開中。

中村 祥之氏(六郷BASE

新卒で東京急行電鉄(株)(現 東急株式会社)の旅行部門に入社。その後、高校・大学と企業をつなぐ人材コーディネーターに転職し、年間150本以上の進路イベントを企画・実施。2021年にツクリエに入社し、新施設立ち上げに携わる。現在、同社のマネージャー兼コミュニティマネージャーを務めながら、2023年12月にAI×教育事業で起業。

山川 才綾氏(シティラボ東京

多摩美術大学美術学部環境デザイン学科卒業。内装施工会社および家具製作会社にて設計・現場管理を経験後、インテリアを中心としたデザイン事業「ofta」を開業。シティラボ東京立ち上げ期に館内の家具を設計。出産を機にシティラボ東京に参画、現在は会員管理・経理を担当し、並行してデザイン事業も続けている。

INCU Tokyo参加の決め手は、「情報」と協力できる関係を作る「横のつながり」

シティラボ東京の山川 才綾氏

まずは、それぞれの施設の特徴を教えてください。

山川:シティラボ東京は京橋駅直結の建物内にあります。「持続可能なまちづくり×ビジネス」をテーマに、あらゆる組織の方々が抱える課題を共有しながら横のつながりを広げ、コラボレーションが生まれていくことをめざしている施設です。
スタートアップに限らず、サステナビリティに特化した会員・パートナーが多いことも特徴です。大企業のサステナビリティ部門の担当者や、情報や人脈を広げたいと入居される企業、そして最近では、各地方の課題を都心での交流を通して解決を図る自治体の方々も増えています。

小林:ベンチャーステージ上野は、2004年当時、築36年のビルをリノベーションして開設した施設です。まだシェアオフィスという言葉が一般的ではなかった時代に、起業家向けのレンタルオフィスとして立ち上げました。
今では同じビル内にシェアオフィス、シェアアトリエ、イベントスペースがあることが特徴で、「すべての人はクリエイター」というキャッチフレーズのもと、地元・台東区を中心にモノづくりの企業やクリエイターをつなげる活動をしています。入居者は、洋服やジュエリーのデザイナー、福祉関連の事業者、映画監督、劇団、税理士、社会保険労務士など幅広く、一言では表現できない施設です(笑)
イベントスペースは「現代の公民館」というコンセプトで、地域の方たちも気軽に使っていただいています。

中村:大田区の創業支援施設である六郷BASEは、「大田区で起業する人を増やすこと」「起業した人を成長させること」、そして「起業家と区内企業との連携機会を増やすことで、区内企業の成長を促し、産業の発展へ寄与すること」というミッションを掲げています。施設は、地域の方も使っていただけるドロップインスペースと、ものづくりの街という特性を活かして3Dプリンターやレーザーカッターなどを設置した「試作室」があることが特徴です。
入居者は、ものづくり企業からそれ以外の企業まで、これから起業される方や成長期の企業が多くいます。最近では、入居企業のうち2社が「東京都ベンチャー技術大賞(※)」で賞を受賞しました。

都内の中小企業がその技術力を活かして開発した、革新的で将来性のある製品・技術、サービスを表彰する賞。受賞者には開発・販売等奨励金が交付される。

皆さんの施設はINCU Tokyo設立時から参加されていますが、参加を決めた理由を教えてください。

山川:私たちはインキュベーション施設として、入居者にとって有益な情報を集めて発信する立場にあります。そのためには横の連携も必要で、INCU Tokyoの「インキュベーション施設同士のつながりを増やす」という目標に共感しました。
INCU Tokyoに参加することで、インキュベーション施設同士が競争相手ではなく「協力できる関係性」になり、私たちの施設にとってもより良いヒントを得られるのではないかと考えています。

小林:当施設は、2004年の設立時から東京都のインキュベーション施設運営計画認定事業に参加していて、他施設との交流などを行っていました。INCU Tokyoを知ったのは、その流れからです。事務局が主導してイベントやスタッフ教育のための講座など充実した取り組みを行ってくれると聞き、すぐに登録することを決めました。

中村:私は、他のインキュベーション施設と連携して、さまざまな取り組みを学びたいという想いがありました。なぜかというと、入居企業の成長のためには、自分たちももっと成長しなければならないと感じていたからです。また、大田区に限定することなく、他の地域の施設との交流を増やしていくことが、入居施設や私たちにとっても良い効果があると考えました。

IM養成講座で自分たちの強みを再認識。他施設を知ることで新たな視点が得られる

六郷BASEの中村 祥之氏

これまでINCU Tokyoのどのような取り組みに参加されましたか?

小林:2024年度に実施されたインキュベーションマネージャー養成講座に、スタッフ2名と共に参加しました。

中村:私もスタッフと一緒に、同じ講座に参加しました。

山川:私は、2025年度の養成講座に参加しました。昨年度は別のマネージャーが受講していて、今回は私が参加させてもらいました。

養成講座でとくに印象に残っていることはありますか?

中村:「コミュニティをどう作るか」という講座です。当施設では、入居者をどう募集し、活性化させ、卒業に導くかが課題だったので、施設のライフサイクルを作ることなどは、とても参考になりました。
インキュベーション施設には、それぞれ特徴があります。各施設の取り組みは、そのまま私たちの施設に応用できるものばかりではありませんが、他の施設を知ることで「私たちの強みはどこにあるのか」が見えたことも大きな収穫でした。

小林:そうですね。講座で使うワークシートの作成などは、自分たちの施設の強みや特徴を再認識する良い機会になりました。ワークショップ形式の講座も多かったので、スタッフも他施設の方とのコミュニケーションを通じてさまざまな気づきを得ていましたね。
外に出てみないと得られない視点がありますから、講座を通して多くの刺激をもらえたと感じています。

山川:異なる視点から見ることで新しい解決方法やアイデアが生まれることがあるということは、私も感じました。施設の規模や特徴はそれぞれですが、たとえばスタッフの育成などは多くの施設に共通する課題なので、ヒントをもらえることも多いのです。
私は、講座で取り組んだワークショップを社内でも実施してみようと検討中です。当施設は設立から8年目を迎える中で、マネジメント戦略を立てていこうとしているところです。

中村さんや小林さんは、他施設の取り組みや養成講座で学んだことの中で、実際に取り入れたものはありますか?

中村:お互いの顔写真や情報を掲載したインフォメーションボードを作りました。「顔と名前が一致するようになった」と入居者から好評で、マッチングもしやすくなったと感じています。
また、入居時のオンボーディングも見直しました。以前は施設の利用方法などが中心でしたが、六郷BASEのコンセプトやミッションなどを伝えるようにしたことで、「入居者と一緒に歴史を作っていく施設である」という想いを共有できるようになりました。

小林:私たちは、空間設計の見直しを始めました。シェアオフィス、シェアアトリエ、イベントスペースでフロアが違うので、どうすればもっと行き来しやすくなるかをスタッフが中心になって検討しています。

山川:たしかに、コミュニケーターとしての役割を果たすためには、スタッフや入居者の動向がわかるようなレイアウトも大切ですよね。シティラボ東京には受付がありますが、「受付ではなくフリースペースの真ん中で作業する時間を設けることで、話しかけてもらいやすい雰囲気を作ろう」といった工夫をしています。

交流が広がると引き出しが増える。「シェアする姿勢」で起業家を支えたい

ベンチャーステージ上野の小林 一雄氏

INCU Tokyoがきっかけで、他施設との交流などは生まれましたか?

中村:入居企業が交流の幅を広げてビジネスを拡大してもらいたいという想いから、立川市、町田市にある施設と合同イベントを開催して、それぞれの入居企業の事業紹介と、地域で起業を検討している方たちとの交流会を実施しました。その後も、情報交換をしたりしています。

山川:私は、養成講座の復習という形で、オンラインでの交流会に参加しました。講座で同じグループになった方と再会したことで関係性が深まり、お互いの施設を見学しようという話が出ていて、近々実現する予定です。

小林:当施設は以前から、「Eastside Goodside (イッサイガッサイ) 東東京モノづくりHUB」という創業支援ネットワークを運営しています。INCU Tokyoのイベントでブースを出展したこともあり、来場者が施設に見学に来るなどのつながりが生まれています。

他施設との交流や養成講座を通して、ご自身や施設に起きた変化を教えてください。

中村:引き出しが増えた感覚があります。たとえば、入居の相談があった際に他の施設のほうが合うと判断すれば紹介したり、他の地域の助成金やコンテストなどの情報を共有してもらったりすることで、起業家を支援するための情報の引き出しが増えました。

小林:私たちも他の施設を紹介することがあります。それぞれの特徴を知っていることで、「この人にはあの施設が合うのではないか」と提案できますよね。

山川:他の施設を知ることで、自分たちのやり方を見直したり、「もっと頑張ろう」と奮起できたりもします。自分たちの立ち位置がはっきりすることで、できることとできないこと、やりたいことをうまく整理できる気がします。

小林:また、以前は施設オーナー兼運営責任者として、私と共同代表でイベント企画などをしていました。けれどINCU Tokyo参加後は、スタッフが自主的に企画や施策を考えて提案してくれることが増えたのは大きな変化です。これまでは「施設を運営すること」の比重が大きかったのですが、新しい取り組みを考えることにも皆の意識が向くようになってきました。

中村:当施設の場合は、もともとアイデアをどんどん出すタイプのスタッフが多かったため、「イベントが多すぎて疲れてしまう状態」になりがちでした。でも、養成講座をきっかけに優先順位をつけられるようになったことで、ミッションに沿った企画以外は見直すことができるようになりましたね。

山川:講座や他施設とのやりとりの中で、一度立ち止まって、やるべきことを整理する時間がとれるのは大きいですよね。日々の忙しさでタスクをこなす状態になってしまうことがありますが、本来の目的に立ち返ることができます。

そういった経験を踏まえて、「INCU Tokyoを使い倒すポイント」はなんでしょうか?

中村:参加者は皆、学びたい気持ちを持っているので、気軽に交流したり、話しかけたりすることをおすすめします。私自身、最初は不安もありましたが、ホームページなどから問い合わせたりするより、対面で話す方が気楽でした。純粋に友達が増えたことも嬉しかったですね。

山川:養成講座などは無料なので、気軽に参加してみるといいと思います。施設運営者の悩みは共通していることも多いので、入居者への対応方法や運営の裏側のことなど、少し聞きづらい悩みも相談できます。もし少しでも興味があるなら参加してみることがおすすめです。

小林:INCU Tokyoに入ったからといって、急に入居者や売上が増えるわけではありません。しかし、奪い合いではなく「シェアする経済」の考え方を持つことが重要だと思います。起業家が成長したいと願っているのなら、その起業家に最も適した施設に入ってもらうほうがいいですし、その情報をシェアする場としてINCU Tokyoに参加することが、東京や日本全体の起業家育成にとってベストなのではないでしょうか。

情報をインプットするだけではなく、気軽に悩みを共有できる機会を

六郷BASEの中村 祥之氏、シティラボ東京の山川 才綾氏、ベンチャーステージ上野の小林 一雄氏の談話風景

今後、INCU Tokyoで挑戦してみたいことはありますか?

小林:今まで自分たちの建物だけで完結していたインキュベーション施設を、台東区内や下町エリアなど、空きビルが増えている地域に展開していきたいと考えています。当施設のように、古い建物でも活性化につながっている事例があることを発信して、同じような拠点を増やしていくことができたらいいですね。

山川:私は、自分自身が違う職業から施設運営に携わるようになった時に、運営のノウハウ整備が追いついていない部分でモヤモヤしたり、戸惑ったりすることがあったのです。そういった運営面のハウツーを深掘りできる機会を作れたらいいなと思っています。

中村:私たちの施設では、入居者のフェーズが上がってきたことで、資金調達を検討している企業が増えています。そのため、そういったフェーズの入居企業が多い施設の方たちと情報交換をしていきたいですね。
また、今日お二人の話を聞いて、もっと地域とのつながりを広げるために、オープンでフラットな施設運営が必要だと感じました。そういった発見は、交流の機会がないと得られないので、座談会や交流会があれば積極的に参加したいです。

最後に、INCU Tokyoに期待することを教えてください。

小林:これから起業する方や創業したばかりの方にとって、金融機関の審査は大きな壁です。INCU Tokyoは東京都が管轄するコミュニティなので、たとえばINCU Tokyoの登録施設であることが信頼の証につながるような仕組みができると入居企業へのメリットも増えるかもしれません。

中村:同じ課題を持つ施設運営をされている方たちとつながる機会が増えるといいなと思っています。今回のインタビューを通じて、あらためて他の施設ともっと情報交換をしたいという気持ちが湧きました。

山川:Meet Up Dayや養成講座は情報をインプットすることがメインですが、もっとカジュアルに話せる企画があってもいいですよね。たっぷり時間を使ってざっくばらんに話せると、いろいろな悩みを共有できると思うので、そういった機会が増えると嬉しいです。

記載内容は2025年12月時点のものです。