Interview

イベントに登壇する川野氏
特別編|東京都施設紹介

「ジャパンコンテンツを世界に広めたい」。ハブ的施設をめざすTCICの挑戦と起業家支援

東京都施設:東京コンテンツインキュベーションセンター

コンテンツやクリエイティブ産業に特化した東京都の創業・起業支援施設「東京コンテンツインキュベーションセンター(以下、TCIC)」で、シニアインキュベーションマネージャーを務める川野 正雄氏。多様な支援内容や、「ジャパンコンテンツを世界に広めたい」という想い、その実現に向けた挑戦を語ります。

プロフィール

広告代理店2社を経て、2004年から上場ベンチャー子会社社長。2006年より角川映画(現KADOKAWA)にて、海外、版権、企画制作、経営戦略などの責任者。2020年以降起業家育成の領域で、東京コンテンツインキュベーションセンター、明治大学ビジネスコンテスト、東京都コンテンツ産業海外展開支援などのマネージャーを努めている。

ピッチのトレーニングなど多様なサポート。広く関係者を巻き込みエコシステムの構築へ

TCICの入り口の様子

TCICの概要とハード面の特徴を教えてください。

コンテンツやクリエイティブ関連分野の起業家、スタートアップを対象にした東京都の入居型創業・起業支援施設で、われわれ株式会社ツクリエが都から受託して運営しています。レンタルオフィス機能とインキュベーション機能、コミュニティ機能が一体となっています。

東京・中野の職業訓練校だった建物をリノベーションしてつくられ、25の個室、3つの会議室のほかラウンジ、オンライン会議用ブースなどがあり、賃料は相場より安価です。近年ではインドやサウジアラビアなど海外出身者の入居も増えてきています。

入居企業にはどのような支援をしていますか?

まずは定期面談です。入居の1カ月後、半年後、9カ月後という形で年に3回面談させていただき、事業内容や決算などの数字、課題、要望を確認した上で、各段階に応じた支援をしています。

そして、入居企業やコンテンツ関連のスタートアップ、業界関係者向けにセミナーやミートアップ、アクセラレーション(事業成長を促進する取り組み)のプログラムも実施しています。アクセラレーションのプログラムでは、受講者がビジネスモデルを磨き上げつつ、TCICのOB企業や客員メンターからベンチャーキャピタル・投資家向けのピッチのトレーニングを受けることができます。どの受講者も、デモデイの場では見違えるほどに成長した姿を見せてくれます。

入居企業以外にも広くサポートをしているのでしょうか?

はい。このプログラムのように、入居企業だけでなく広く業界関係者を巻き込み、コンテンツ・エンタメ系スタートアップを支援するエコシステムの構築に力を注いでいます。その1つとして、TCICを巣立ったOB企業などが指導役となって後輩にチャンスを与えていくような仕組みを、TCICが中心となって広げていきたいと考えています。また、大手コンテンツプロバイダーとスタートアップが協業できるスキーム構築にも注力しています。

映画関連の仕事の経験を活かし、次世代をもり立てようとTCICのマネージャーに

イベントでプレゼンをする川野氏

川野さんのこれまでのキャリアについて教えてください。

広告代理店や外資系クリエイティブ・エージェンシーの勤務を経て、飲食店をプロデュースする上場企業の子会社で社長として経営を学び、2006年に角川映画(現KADOKAWA)に入社しました。海外事業や版権事業、企画制作、経営戦略に携わったほか、物流子会社でEC物流開発責任者を務めました。中でも思い出深いのは、黒澤明監督の映画『羅生門』を日本で初めての4Kデジタル復元し、全米映画批評家協会賞の映画遺産賞を受賞したプロジェクトです。

TCICはいつ、どのような目的で設立されたのですか?

私がツクリエに入社する前の話ですが、2008年にコンテンツビジネスを支援する目的で設立されました。当時は国内でアニメやゲームがより注目を集め、クールジャパンのプロジェクトや、コ・フェスタ( JAPAN国際コンテンツフェスティバル)が開催されるなど機運が高まっている時期でした。

川野さんがTCICでインキュベーションマネージャーになった経緯を聞かせてください。

KADOKAWAで定年を迎え、その後も「世の中の役に立つ仕事がしたい」と思っていたところ、知人にツクリエを紹介されて2020年に入社しました。私のキャリアをインキュベーションマネージャーの仕事に活かせると知人は考えたようです。

また、私のおじが定年後にキャリアコンサルティングとして活動しているのを見て、「やりがいのありそうな仕事だな」と感じていたこともこの役職をお引き受けした大きな理由です。野球で言えばスカウトのように、過去に培った知識やノウハウを活かして次世代を支えていきたいと思いました。

アニメを手がける会社との出会い。新しいビジネスモデルの確立に向けて力を尽くす

TCICの外観

起業家やスタートアップの支援を続ける中で、印象に残っている出来事を教えてください。

ブロックチェーンなどの技術にもとづく次世代の分散型インターネット「Web3」と、エンターテインメントの事業を展開していた入居起業への支援です。この会社と共に、ツクリエも含めた5社でLLP(有限責任事業組合)を組成し、NFT(代替不可能なデジタルデータ)で資金を調達しつつ原作のない状態からアニメ制作に挑戦。テレビ放映を実現させ、今年はシーズン3が放映されます。仮想通貨で資金調達し、TVアニメを制作するという世界で初めてのビジネスモデルの確立ができた成功事例です。

創業者はビジネス感覚に優れ、デザイン力やゲームの開発能力、ブロックチェーンの技術も持ち合わせており、36時間ほど部屋にこもって仕事に没頭することもある天才肌の人物です。才能豊かで熱意のある人材に正面から向き合い、支え、そして大きく羽ばたいていく姿を目の当たりにするととてもうれしいものです。

支援をする上で心がけていることは何ですか?

東京都という公の施設なので、すべての入居企業に公平に対応することを心がけています。また、われわれはあくまで事業支援をする立場として、クリエイティブ面ではなくビジネス面のサポートに徹しています。

その前提に立った上で起業家の人生にとって何が最善の策なのかを考え、それぞれのケースに沿ってアドバイスをしています。過去には、倒産の危機に見舞われた会社を立て直すためのお手伝いをしたこともありますが、すべてのケースで事業継続が正解とは言えず、場合によっては撤退を勧めることもあります。起業家一人ひとりに対して、客観的な意見を伝えるように気を配っています。

スタープレーヤーと同時に、地道に活動する起業家やクリエーターを丁寧に支えたい

VRトークセッションに登壇する川野氏

やりがいを感じるのはどんな時でしょうか?

入居企業にメンターやOB企業、投資家を紹介したことで事業の方向性が定まったり、資金調達に成功したりした際、喜んでくれると「この仕事をしていてよかった」とつくづく思います。

また私自身、年間200回以上の面談を通じて新しい考えや情熱を持つ人たちと接し続けると、大きな刺激を受けますし、自分のアップデートにもつながると感じています。

今後、どんな起業家やスタートアップに入居してほしいですか?

今、エンターテインメントの分野に注目しています。中でも音楽産業は日本人にとってグローバル展開のチャンスが拡大しているので、挑戦したい人材にはぜひ入居してほしいですね。現在、東京都とIP(知的財産)を創成し、グローバル展開する起業家を育てるプログラムを開始しています。ご自身でIPのアイデアをお持ちの方には、プログラムも含めてぜひご参加いただきたいです。

現在の手応えや想い、そして展望を聞かせてください。

私は、中学生の頃からエンターテインメントの仕事をしたいと思っていました。やがて望んだ分野に携わり始め、今では世の中の人たちを驚かせて楽しんでもらう活動をサポートする中で、入居や各種イベントへの応募が徐々に増えてきて手応えを感じています。

今後も、スタープレーヤーを育てるのと同時に、地道に活動する起業家やクリエーターを丁寧に支援することを大切にしていきます。まだ世に出ていない優れた人材をサポートした結果、彼らが成功すればこんなにうれしいことはありません。

東京がエンターテインメントあふれる都市になって、コンテンツ産業が日本を代表するグローバルビジネスに成長し、そしてジャパンコンテンツが世界中に広がっていく──。そんな未来を思い描きながら、これからも支援や挑戦を続けていきます。

記載内容は2025年1月時点のものです。

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