Interview

正面を向いている児山氏
特別編|東京都施設紹介

日本のものづくり復興をめざして──志ある次世代の夢をサポートしたい

東京都施設:白鬚西R&Dセンター

荒川区にある白鬚西R&Dセンターでインキュベーションマネージャーを務める児山 一雄氏。金融機関でのシステム開発や経営コンサルタントとしての経験を活かして起業家をサポートしています。「志ある人が夢を実現する第一歩を踏み出す場でありたい」と話す児山氏の想いに迫ります。

プロフィール

商工中金に入社後、本部IT部門で金融系システム開発のプロジェクトマネージャーとシステム監査人を担当。2017年にZMCコンサルティングを設立し独立。2019年より東京都中小企業振興公社の発注コーディネーターとしてビジネスマッチング支援を手掛ける。2020年より白鬚西R&Dセンターインキュベーションマネージャーに就任。

創業支援施設を活用した「ものづくり」の拠点。ハードテックベンチャーに最適な環境を

白鬚西R&Dセンターの外観

まずは白鬚西R&Dセンターの特徴と設立の背景を教えてください。

白鬚西R&Dセンターは、荒川区南千住に所在するインキュベーション施設です。創業を図る個人や創業間もない中小企業、新製品・新技術の研究開発や試作を行う中小企業に対して場所を提供し、東京都の産業活性化と雇用促進を図ることを目的としています。

当施設はもともと、市街地再開発に伴って工場を失ってしまう中小企業のための共同利用工場として完成しました。その後、空いた区画を創業支援施設等として活用しています。

施設は鉄筋コンクリート造の3階建てで、延べ床面積は約5,700平米という規模。全41区画のうち、現在14区画を創業支援施設として使用しています。各区画は35平米ほどから約80平米までさまざま。もともと工場として建設されたこともあり、強固な構造で車が入れる共用通路があるので、車を使って区画の前で荷物の搬出入がしやすい構造になっています。

ものづくりに適した十分な広さと頑丈さを備えた施設で、かつ都心に近く交通アクセスも良好な南千住という立地は貴重ではないでしょうか。とくにハードテックベンチャー企業にとっては魅力的な施設だと思います。

入居企業への支援には、どのような特徴がありますか?

東京都が提供している創業支援施設ということもあり、都の中小企業向け支援施策情報の提供などソフト支援が充実している特徴があります。また、公益財団法人東京都中小企業振興公社が事務局を務めるビジネスマッチングサイトを活用した販路拡大やマッチングなどもお勧めしています。

また、私を含む2人のインキュベーションマネージャーが週3回ほど入居企業を巡回訪問してアドバイスを行うほか、毎月の経営相談会では、財務会計、テクノロジー、人材育成など企業の悩みやニーズに合わせて専門家(税理士、大学教授、社会保険労務士など)を招き、個別相談を実施しています。

さらに、年1回の経営セミナーでは、その時々の重要なテーマを取り上げています。たとえば、ChatGPTやAIを活用した業務効率化、インボイス制度など、企業の関心が高い分野の知見を広めていただく活動を行っています。

金融業界から経営コンサルタントへ。起業経験も活かして幅広くサポート

児山氏の仕事風景

児山さんのこれまでのキャリアを教えてください。

私は愛媛県で生まれ、学生時代は関西で過ごしました。卒業後は中小企業向けの金融機関に就職し、最初は大阪で勤務。その後、東京のIT部門に異動となり、ATMシステムやインターネットバンキングなどの金融システム開発やシステム監査を担当していました。

金融機関での業務を通じて多くの中小企業の経営者と接する機会がありましたが、その中で感じたのは、企業が抱える課題は資金面だけではないということ。人材不足や新規事業の展開など、さまざまな経営課題を抱えているにもかかわらず、金融機関という立場では支援できる範囲が限られていることにもどかしさを感じていました。

そこで、子育てが一段落したところで中小企業診断士の資格を取得し、経営コンサルタントとして独立することを決意。2017年に独立した後は、中小企業診断士受験対策講座の講師や創業支援セミナーの講師なども務めながら、経験を積み重ねてきました。

インキュベーションマネージャーになったのは、どのような経緯からですか?

2020年に、知人の勧めで東京都中小企業振興公社のインキュベーションマネージャーの募集に応募したことがきっかけです。

経営コンサルタントとしては創業支援に特化していたわけではありませんでしたが、私自身もサラリーマンから独立・起業しています。独立時の不安や課題を実体験として理解しているからこそ、これから起業する人たちの役に立ちたいという想いがありました。

東京都中小企業振興公社ではインキュベーションマネージャー以外にも受注拡大プロジェクトの発注コーディネーターとして販路開拓やビジネスマッチングの支援を行ってきました。この業務は現在も継続しているので、創業間もない企業が製品開発後に直面する販路開拓などのサポートも可能です。

金融機関での経験と経営コンサルタントとしての経験、そして私自身の起業経験。これらの経験を総合的に活かしながら、創業期の企業のサポートに取り組んでいます。

起業家のナビゲーターとして、柔軟な発想や新たな着眼点の実現を後押しする

セミナーで参加者に語り掛ける児山氏

入居企業を支援するにあたり、心がけていることを教えてください。

私が独立する際に掲げた「企業の悩みと個人の不安を減らす」という理念を、創業支援においても大切にしています。

経営者が抱える資金繰りや雇用といった悩み、「明日への不安」を減らせるよう、巡回訪問する際はこちらから積極的に声掛けして業況や開発の進捗状況などを聞き、些細なことでも話してもらえる関係性を作るようにしています。

また、入居している経営者は若い方も多く、新しいアイデアや行動力がある一方で、社会経験が不足しているため法律や税務面での知識が追いついていないことがあります。生み出したアイデアや行動にリスクがないかなど、第三者の客観的な視点から確認することも心がけています。

車に例えるなら、私たちはナビゲーターの役割。向かおうとしている方向が正しいかどうか、落とし穴が潜んでいないかを広い視野を持ってアドバイスするようにしています。

これまで支援した中で、とくに印象に残っている企業はありますか?

高度なアルゴリズムを用いてロボット制御システムを開発する企業です。入居当初は実質経営者一人でシステム開発を行っていたのですが、数年で都心のビルを借りられるまでに成長しました。創業期は、商談にも同行するなど密に関わっていたので感慨深かったですね。

また、現在支援している企業は、優れた開発力を持ちながらも資金面の課題を持っていました。そこで、ベンチャー支援に力を入れている金融機関を紹介し、無事に融資を実現できた経験も印象に残っています。

創業支援に携わるやりがいを教えてください。

やはり、入居企業の成功や成長を間近で見られることですね。画期的な商品を開発したり、メディアに取り上げられたり、コンテストで受賞したり、企業の成長過程に立ち会えることは大きな喜びです。

とくに、最近は大学発のベンチャー企業も入居しており、若者の柔軟な発想や私たちが気づかないようなビジネスの着眼点に刺激を受けることも多くあります。

私自身も若い入居者との交流を通じて新しい気づきや活力をもらっています。お互いに刺激し合い、成長できる関係性を築けることもこの仕事の大きなやりがいです。

若者と企業の挑戦を後押しして、日本の競争力を取り戻したい

外で正面を向いている児山氏

近年、インキュベーション施設をはじめ、創業支援も活発になっています。支援する側の取り組みとして必要だと感じることはありますか?

支援者同士の情報交換や交流をもっと広げていく必要があるのではないでしょうか。以前、他のインキュベーション施設のマネージャーと情報交換をした際、とても有意義な時間を持つことができました。公設・私設を問わず、支援する側の横のつながりを強化することで、スキルアップや意識の向上、新しい情報の収集につながると考えています。

創業支援を通してこれから実現したいことを教えてください。

日本は現在、少子高齢化や人手不足が深刻化し、かつてお家芸だったものづくりの分野で海外企業の勢いに押され気味になっています。

一方で、ものづくり復興をめざす若者や、AIなどの新しい技術を活用して新たな分野に挑戦しようとする意欲的な企業は数多く存在します。

ものづくりに適した環境の白鬚西R&Dセンターが、志のある方々が夢を実現するための第一歩を踏み出す場所となって優れた製品を開発し、仲間や人脈を広げて世界へと羽ばたく。そうして、日本の競争力を再び高めることにつながることを願っています。

私個人としては、体力の続く限り可能性のある企業の支援を続けていきたいと考えています。これまでの知見や経験を惜しみなく共有することで、未来に向かって飛躍しようとしている方々の手助けができればと思います。

記載内容は2024年12月時点のものです。

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